三章 水の魔王の迷宮

第78話ターニャ

 この異世界の海は広い、惑星自体の大きさが地球の1.5倍位らしい、それでいて陸と海の比率は地球と同程度、だから単純にザクっと計算すれば地球の2倍ちょいの広さの海が広がっていることになる。


 この広い海に生息する生物はとにかくデカい、矢鱈とデカい、具体的には、この異世界最大の生物で竜種のリバイアサンは、全長がなんと10キロ、どこかの恒星間宇宙船か? この竜種、都市伝説的なUMAではなく、実際に存在して、悠々と外洋を泳いでいる姿をTV等で放送されている。その姿は動く島と見まごうばかりである。

こんな想像を絶する巨大生物が居るならば、この生物の生命活動を維持するだけのエサが必要になる。必然、100・200メートルクラスは普通、1キロクラスで大物、そんな悪夢のような世界が外洋には広がっている。


 当然そこを行きかう船などない。この異世界では海上に船を浮かべようとするものは少ない、ただただ危険だからである。沿岸部など遠浅の海等に極僅かに存在するが、交易船など危険過ぎて存在せず、漁船も網を使った漁の出来る船は存在しない、仮に網を使って漁をしても、引き上げた網の中には魔物が一杯である。食べるどころか食べられる、命知らずな漁師が、大きな甲板を持つ船で甲板に飛び込んでくる魔物と戦って仕留め漁をする、その為の船が僅かに存在するのみである。


 では海の幸は食べられ無いのか? そんなことは無い、人には危険すぎる海も、そこに住む者たちにとっては生活の場、マーマン、マーメイド、サギハン、スキュラ、これらの知能が有り言葉を喋る魔物や、その他にも魚人といわれる亜人達、それらの種族が漁をして港町に海の幸を持ってくるのである、そこで様々な物と交換して取引をしている。海の幸はこれらが出回るため豊富だ、何せ巨大生物を養う海である、小さな生物の数もそれに比して多い、とても豊かな海なのだ。

 

 ヘルイチ地上街の西にはヘルライン大河が海に向かって南に流れていく、80キロほど南で海に流れ出て、そこから更に南へ100キロ、サンゴ礁に浮かぶ南の島、直径30キロほど丸い島は、南に直径10キロほどの丸い入り江がある。

 島の中央には小高い丘がありその頂上には『水の魔王の迷宮』がある。その迷宮から階段状に白亜の建物が連なり入り江まで広がっている。『シーサイド』5街地域の南の街。町の建物は基本白く、至る所に水路が張り巡らされ、橋も多い。この水路の水は『水の魔王の迷宮』から滾々と湧き出る真水である。町の左右の入り江には白い砂浜が続き浅いサンゴ礁の紺碧の海が広がる、まさに南の楽園、そんな街である。


 危険な海に囲まれた絶海の孤島に、何故街が? どうやって? 物流は? それらの疑問の答えは『飛空艇』。この空飛ぶ船により、この危険な海の上空を航海して人々は交易し、物資を運ぶ。空中にも魔物は存在する、ルフ、ガルーダ、ロック鳥、等の鳥類、ワイバーン等の亜竜、そして竜種など色々大型の魔物も居るが、所詮大きくても50メートル級、海の魔物に比べれば小物といっていい。『飛空艇』は100メートル以上、滅多なことではこれらの魔物は襲ってこない。安全な高度を保ち『飛空艇』によりこの広い異世界で人々は交易を行っているのである。 


 そのシーサイドの外壁と砂浜に近い小高い丘の上にその建物は在った、この街の建物に倣ってこの建物も白亜の外見を持ち、海に面した箇所にプライベートな温水プールを備えている。大きなガラス張りのプールからは白い砂浜と紺碧の海が一望できる絶好のロケーション。『シーサイド』冒険者組合の誇る、要人用高級保養施設、そのプールにメグミ達はいた。



 メグミはいい加減切れそうだった……


 目の前ではリズ、ジェシカ、サンディ、アリアがその巨乳を水着に包み、胸をプッカリ浮かべてプールに漂っている。水色、黒、ピンク、白、それぞれ色違いの普通のビキニがこの巨乳の前では、はみだす乳房にエロい水着と化す、実にけしからん! 眼福である。


 その隣ではサアヤがワンピースの可愛い水着にその身を包み、似たような水着の一人のエルフの少女と戯れている。薄い胸、華奢な体、白いワンピースのサアヤに、薄い水色のワンピースの少女、実に微笑ましい。連れて帰って部屋に飾りたい。


 更に反対側ではタツオが『ママ』と『カナ』に泳ぎのレッスン中だ。『ママ』は黒いワンピースが白い肌と強烈なコントラストを生み、中々大胆に背中が開いていて大人の色香をこれでもかと振りまく。一方の『カナ』は紺色の競泳用水着の様なワンピースなのだが、健康的なスラッとした肢体に実に似合っていた。トランクス型の海パンにみを包んだタツオに手を引かれてバタ足の練習中だ。『カナ』は密度が高く、少し水に浮きにくい為、浮力を魔法で付加しているようだ。良い大人がバタ足の練習をしている姿は実に愛らしい、今すぐ替われタツオ!


 自分達の横のビーチチェアでは背もたれを倒して、アカリとガグヤが寝そべっている。黒いビキニのアカリは寝そべりながらタツオを恨めしそうに見つめ、サアヤは赤い大胆なデザインのワンピースを着て仰向けで爆睡中だ。二人の周りだけ空気が違う、肌も露わな格好のためか空気がピンク色に色付いて見える。

 

 目の前に広がるメグミの取ってのパラダイスを眺めながらも、メグミは苛立っていた。籐で出来た横に広いソファーに腰かけ、膝の上の白い猫耳を絶妙なタッチで撫でる。横にはノリコが並んで座り、同じく膝の上の白い猫尻尾を滑らかな手つきで撫でる、ノリコは白と黒の切り替えの入ったビキニを来てその巨乳を誇示している、白い滑らかな肌を撫でまわしたい。メグミも水着だ、濃い青色のワンピースを来て割れた腹筋を隠している。


 メグミの待ち望んだ水着回、苛立つ理由はない筈であるが、前を見つめたメグミの目に飛び込む白い砂浜、紺碧の海がメグミを苛立たせる。


「なんで、こんな素敵な砂浜と海があるのにプールなのよ!」


「砂浜には魔物が一杯よ? メグミちゃん」


「なんで誰も駆除しないのよ!」


「キリがないからよメグミちゃん」


メグミの見る砂浜では『カモンシークラブ』がその巨大な右の爪を一斉に振る、その数、数千。砂浜と低い草地の境にはヤシの木が優雅にその身を風に揺らす、


ガスッ!!


そのヤシの木から放たれたヤシの実が近寄って来た『カモンシークラブ』の硬い甲殻を打ち砕く、ヤシの木に見えるのは『ココナッツキャノン』という植物型の魔物でその触手の先に付いたヤシの実型の硬い凶器を樹上から敵にめがけて放ち、粉砕する攻撃をして来る。打倒した『カモンシークラブ』を根元から伸ばした触手で引き寄せ一際太い触手の先に付いた口で食べる。


 一見南の楽園の様なこの島は、魔物の楽園で有る、海棲魔物と植物型魔物、それに昆虫型魔物が街の外には溢れていた、定期的に駆除はしているみたいだが、焼け石に水、一向に数が減らない。街は城壁と結界に守られ辛うじてその内側の平穏を守っている。


「美味しそうね、カニ……あっ、ごめんね、メグミちゃん」


「良いのよノリネエ、美味しいのは知ってるわ、ただ食べられないだけだから」


 メグミは甲殻類アレルギーだ、別に食べても死ぬような酷さではない、口の周りが少し腫れ、体調が少し悪くなる、少量食べるだけならその程度だ。ただしこの忌々しい『カモンシークラブ』を砂浜で遊べるくらいに倒して、その身に体液を大量に浴びたらどうなるかは分からない。だから目の前にサンゴの欠片からなる極上の白い砂浜があるのに遊べない、それが悔しい。


 そして他にもメグミを苛立たせる存在が目の前にいる、サアヤと遊んでいるエルフの少女だ、名をシルフィという、イーストウッド近くのエルフの都ではなく、遥か遠くの別の国のエルフの森の少女らしい。

 それゆえか、この地域のエフルが特別なのか知らないが、この少女、非常に人間嫌いで高慢ちき、他種族を下に見ている所があるのだ。そもそも5街の街中に出てくるエルフは非常にフレンドリーで、特に他種族を見下すようなことは無い、それゆえメグミはエルフはそんなサアヤの様なエルフばかりだと思っていたが、この少女は違った。

 

 この施設について直ぐ、『シーサイド』の受付嬢により、この少女を紹介された。


(美少女エルフ来たわ!! 二人目の美少女エルフよ!)


興奮しながら自己紹介をするメグミ達とシルフィであったが、このシルフィ、サアヤ意外とは目を合わそうとも言葉をかわそうともしない。メグミ達が挨拶しても、


「フンッ、気易く話しかけないで!」


そう言って目を逸らし、無視するのだ、メグミだけではない、サアヤ以外全員に同じ態度である。可愛さ余って憎さ百倍というが、見た目が良い美少女だけに余計に可愛くないのだ、メグミは何度か諦めずにチャレンジしたが素気無く無視されている、


(あんなに可愛いのに、セクハラすらできない、スキンシップが出来ないなんて! なんてことなの!)


目の前に餌がぶら下げられているのに、お預けを延々されて、なのにサアヤはそれを美味しそうに食べているのだ。その状態にメグミは苛立っていた。


 更にメグミは背後を振り返る、そこには一段高くなったテラスに、他国の貴族だという美人4姉妹が水着でビーチチェアに横たわっていた。それぞれに4人の美しいメイドが付き従い、今もビーチチェアの背後に控えている。

 此方も施設について直ぐに受付嬢により紹介されたが、目すら合わせず、その声すら聴けない、美人メイドの代表が、それぞれの人物の名前を紹介し、よろしくと挨拶をする。長女、カトレア、17歳、次女、テレジア、16歳、三女、シンシア、15歳、四女、シルビア、14歳、皆とても美しい美少女揃いだ。

 貴族というものをメグミは知らなかった、元の世界でもそんな人々と付き合いは無いし、この世界でもそうだ、だがその貴族にとって、メグミ達は言葉を交わすどころか見るのも汚らわしいらしい。一切の接触を拒否するのだ、せめて美人メイドさん達と仲良くなりたいが、それすら現状は不可能である。そうこの存在もメグミを苛立たせる。


(何故だ? 何故あの美少女達に触れない? この世の美女は全部私の物だろう?)


そうメグミは本気で思っている。


 そしてメグミは膝の上の白い猫耳を撫でる、撫でていると少し気が落ち着く、しかしこの猫耳もメグミの苛立ちの原因の一つだ、メグミは目線を自分の膝の上に向ける、そこには白い髪の毛に白い猫耳、白いワンピースの水着に白い肌、白い尻尾をノリコに撫でられて、自分とノリコの膝の上に横たわる少女は幸せそうに欠伸をした、一瞬開いた眼は碧い。

 この全身白づくめの猫耳美少女が、冒険者組合が監視者として派遣してきた、白虎神族の少女ターニャ、13歳である。どう見ても猫なのだが、メグミが、


「ターニャ、猫じゃないの?」


「虎!」


「語尾に『にゃ』って付けて」


「んっ!!」


そう言って耳と尻尾を逆立だせる。このターニャ、基本単語と「ん」しか喋らない、そして常に無表情、だが感情は分かりやすい。その耳と尻尾はとても素直に感情を表している。もう一点気になるのは『北極星』の黒虎人ハーフ、ケンタはよく見れば髪の毛や尻尾が黒と濃いグレーの寅縞模様になっていたが、ターニャ、は違う、どんなに目を凝らしても白い毛だけだ。種族が違うのだから単純には比べられないが、


「ターニャは猫でしょ? 寅縞じゃないわよ?」


「虎!!」


絶対に譲れないらしい、メグミが顎の下を撫でるとゴロゴロと喉を鳴らす。


「ねえ語尾に『にゃ』って付けて」


「んっ!!!」


絶対に嫌らしい。なぜこうも喋らない、そして幼い少女が監視者に選ばれたのか謎だ。しかしターニャはこう見えてもこの年で既に『黒銀』、もうすぐ『黄金』にもなろうという実力者で、メグミ達の希望した斥候のプロである、サアヤと同じく『くノ一』の職能も持ち、将来が期待されている。

 ただこの幼さで、このコミュニケーション能力だ、しかもパーティなど組んでおらずソロ、メグミは何故この少女が自分達の元に来たのか何となくわかる気がする。問題児を一纏めにしたかったのではないか? そう思っている。

 初めてターニャとあってから40日後、防具をメグミ達が造り上げ、『カナ』を完成させ、家のリフォームも済んで、引っ越しもして漸く落ち着いたころに、ターニャが冒険者組合から一通の指令書をメグミ達の元に持ってきた。


「読んで!」


そう言って指令書を手渡す。絶対に自分で喋りたくないらしい。


「読むの?」


「ん!」


それだけ言うと直ぐに『ママ』の所にいき、


「ごはん!」


「お腹すいたのターニャ?」


「ん!」


「もう直ぐ夕飯よ、それまで待てないの?」


「ん……」


「仕方ないわね、はいこれ、食べ過ぎてはダメよ?」


「ん♪」


耳をピコピコ動かしながら小魚の干物を齧っている。『ママ』はターニャに甘い。それを横目で見ながら、指令書を読むと、


(パーティ『黎明』は別途指示があるまで『シーサイド』に常駐し、要人警護、及び、『水の魔王の迷宮』の攻略等を『シーサイド』冒険者組合の指示の下、実行するべし)


との内容だった。更にアツヒト個人からの手紙として、


(指令は建前だ、これは冒険者組合からのプレゼントだよ、色々自由に動けずストレスが溜まっているだろう。シーサイドは今最高のバカンスシーズンだ、ゆっくり楽しむといい、『ノーザンライト』の温泉と迷ったが、やはり夏なら南の島だろう! 羽を伸ばしなさい)


そう書いている、メグミ達は早速皆で水着を買いに行き、アルバイトを休む、旨伝えると、何故かアリアさんが、


「ふむ、それは困ったわね、夏で暑くて私達も大変なのよ? 貴方達が居なくなると困るわね……そうだ、私達もついていくわ、海でしょ? 水に入ってると軽いし、汗疹にもならないし丁度いいのよね、アツヒトさんにはこっちから連絡しておくわ」


 そして牝牛人族4人も同行することとなった、施設の部屋は空いていたので何も問題ないらしい。更に長期間家を空けることを伝えると『ママ』が大変悲しそうな顔をするので、こちらも相談したら同行の許可が出た。ターニャがアツヒトの元に駆けこんだらしい。一体どんな説明したのか一度アツヒトに聞いてみたい。単語でどこまで伝わったのだろう?

 

 そうそうメグミ達は全員『見習い』から『青銅』に上がり正式に冒険者となった。一気に『黒銀』との話もあった見たいだが、ゆっくりクラスを上げる様にとプリムラから厳命が有ったらしい。

 そしてパーティ名も決めた『黎明』これがメグミ達のパーティーのパーティー名だ。ノリコがリーダー、メグミがサブリーダー、サアヤ、タツオ、アカリ、カグヤ、ターニャ、そして『カナ』、以上8名が『黎明』のパーティーメンバーになる。


 そして『シーサイド』に向かうことになったのだが、結構な大人数だ、しかも荷物も何時まで滞在するのか分からないとの事で着替えを含め結構持ってきていた、『収納魔法』で一見何も持っていないように見えるが、『転送魔法』を使う場合、『収納魔法』内の荷物の重量も加算されてしまう為、可成りの魔力が必要となる。

 そこで皆での移動には『飛空艇』を利用した、『ヘルイチ地上街』から『シーサイド』には定期便が運航されており、それに乗って移動したのだ。夜出発して、定期便の客室で一晩寝ると翌朝には『シーサイド』の『飛空艇』乗り場に到着していた。景色を楽しむなら朝の便で出発しても良かったのだが、それでは到着が夜になり、冒険者組合事務所への挨拶、施設へのチェックイン等を考えると、朝到着の方が何かと都合が良かったのだ。だがその代わり空の旅は只寝ていただけ、全く風景は楽しめなかった、少し残念だ。

 

 真っ青な晴天の下、メグミ達は白亜の街並みを眺めながら、一路『飛空艇』乗り場から冒険者組合事務所を目指す。至る所に水路が有るのは水棲のマーメイドやスキュラに考慮した為と分かる、遠くの水路を泳いでいるのを見かける。しかしその美しいマーメイドやスキュラ達はメグミ達を見かけるとサッと隠れ、逃げ出す、前方から歩いてきていた、人間の足を持ったマーメイドも、メグミ達を見た途端に水路に飛び込んで逃げてしまう。店屋の店員をしている美しいスキュラもメグミ達を見た途端に店を閉めて隠れてしまう。おかげで普通の人間の冒険者に合うまでメグミ達は冒険者組合事務所への道すら尋ねることが出来なかった。


「何なのかしら? 失礼しちゃうわね」


「『シーサイド』の魔物は人見知りなのかしらね?」


「ノリコお姉さま、メグミちゃんが怖いんじゃないですか?」


「なんでよ!! 今日は普通の格好をしてるわよ? 何も変じゃないでしょ?」


「殺気じゃないでしょうか? こう魔物の危険予知の本能に何か語り掛けるんじゃありませんか?」


「なっ! 今は武器すら装備してないわよ、ただの私服で歩いてるだけで覚えられるほどの殺気も放ってないわよ」


 そんなメグミ達の疑問も冒険者組合事務所について受付嬢に紹介状を渡したときに氷解した。ターニャがその美しいマーメイドの受付嬢に紹介状を渡そうとするのだが、受付嬢は青ざめて硬直してるのだ。


「ん!」


そう言って紹介状を差し出すターニャに対して受付嬢は、


(へえ、マーメイドも汗かくんだ、その辺は人間と変わらないのね)


メグミがそんな感慨を抱くほどに汗をダラダラと流す、メグミはそれで事情を察し、


「ターニャ、こっちに来なさい、私が代わりに紹介状を渡すわ、ノリネエはターニャを後ろから抱きしめておいてね」


「ん? ああ、そういう事ね、分かったわ、ターニャちゃんいらっしゃい」


「ん?」


「いいからそれを渡しなさい、アンタじゃ絶対渡せないから」


「ん……」


どうやらやっとターニャも気が付いたらしい。そしてノリコの所に行くと、


「ん……っ」


胸に顔を埋めている、耳が倒れて畳まれて、尻尾は萎れている、事情は理解したが、一方的に嫌われるのは誰でも寂しいものだ。


「怖がらせてごめんね、あの子も悪気はないのよ」


メグミが紹介状を差し出すと、今まで固まっていた受付嬢が、


「大丈夫です、此方こそごめんなさい、失礼な事をして、けど許してください。これは本能的なもので自分でもどうにもならないんです、あの子が特別に許可を受けてこの場に居るのは分かってるんですけどね、すいません」


「そうなのね、にしても凄い効果ね、そこまでなの?」


「はい、もうね、猫はダメですね、体が竦んで動けません」


「虎!!」


「ヒィ、あうあう」


「ターニャ! 後でオヤツあげるから、顔見せちゃだめよ!」


「ん……」


「ごめんね、ほらもう大丈夫だから、お姉さん、ほら」


「ああ、スイマセン度々、ふぅ」


「落ち着いた? コレ、ヘルイチ地上街の冒険者組合からの紹介状よ」


「はい、受けたわまりました、ああ、『黎明』のメンバーの方々ですね、聞いております。では早速施設の方に案内いたしますね、えーーーと、だれか? ねえなんでみんな隠れちゃうの?」


「ねえ、此処の受付嬢ってマーメイドとか魔物しかいないの? 他の人達は?」


「申し訳ありません、此処は殆どがマーメイドかスキュラでして、えーと戦兎人の子が2人程居るのですが生憎と今日は休みでして」


「どうした? 何事だ?」


事務所の中から美しい女性が出てくる、耳がヒレの様になっている為マーメイドであろう。


「副組合長、この方たちが連絡のあった『黎明』の方々です、施設に案内したいのですが誰も……」


「全く、情けないな! 仕方がない私が行こう、失礼をした、私がここの責任者ハルミだ、君達が『黎明』か、ふむ、聞いていた通り若いな、では私が案内をする付いてきてくれたまえ」


「よろしくお願いします、ハルミ様、ところでハルミ様は平気なんですか?」


「ああ、私はハーフなのでな、この子達よりはまだマシだ、それに鍛え方が違う!」


「マーメイドにハーフとかあるんですか?」


「私の母が人間なんだ、まあもう一人もマーメイドで女性なのだがな」


「へ? え? なに?」


「なに気にするな、昔どこぞの馬鹿がそういうふざけた実験をした、その結果生まれたのが私だ、だが私は母を二人とも愛しているぞ?」


「失礼な事を聞いてスイマセンでした」


「なに何時もの事だ、気にするな、ではこっちだ」


 そう言って笑うハルミに連れられて、この施設に来たのだ、その後大慌てで駆け付けた戦兎人の受付嬢カオリと交代してハルミは帰っていった。その後カオリにシルフィと貴族の4姉妹を紹介されて今に至っている。

 施設内の従業員には普通の人族やその他の種族の獣人等が居る為、ターニャが居ても問題は無かったが。ターニャは監視者、常にメグミについて回るのだ。折角の『シーサイド』なのに、メグミは美しいマーメイド達と触れ合えない、知り合えない。ターニャが居る限り無理なのだ。ターニャが悪いわけではない、しかしそれは分かっていてもメグミを苛立たせる。


そんなこんなでストレスを発散させるべく訪れたこの『シーサイド』でメグミは切れそうなほどストレスを溜めていた。

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