第77話〈ちょっと息抜き番外〉部屋割り

 アイアンゴーレム騒動の翌日、アツヒトが帰った後、メグミ達はリビングで寛ぎながら今後の予定を話していた。確かに、勝手に冒険者の仕事は受けられないが、パーティに加わった、アカリ、カグヤの引っ越しに、装備の製作など、やることはあるのだ。近々の予定としては引っ越しだ。アカリは特に悩むことなく2階の空き部屋、サアヤの隣に部屋を決めた。カグヤの望みの2階客室をカグヤの部屋にする要求も、


「カグヤちゃんがそう望むのなら、私は特に反対はしないわ、但し、少し収納が少ないわよ? 他の2階の部屋は壁に作り付けのクローゼットもあるし、ロフトもあるわ、あそこには何もないから家具を入れると返って他の部屋より狭くなるわよ?」


「そうですわね、お客様用の部屋で造ったのでベットが置いてあるだけで、収納は入り口に小さいクローゼットが有るだけ、本当に寝るだけの部屋ですけど、それでいいなら私も特に反対はしません」


ノリコもサアヤも特に反対意見は無いみたいだ。カグヤが、


「大丈夫ですわ、ただベットも実家の物を運んできて良いですか? 慣れた物の方が寝やすいので、後、家具も運び入れますわ、今のベットは空き部屋に持って行っていいですか?」


「それは構わないわよ、どうせ2階の空き部屋にはベットとか家具が無いからそこに置いておけばいつか使うでしょ、アカリさんの隣か、一番端っこを新たに客室にしてもいいし」


「トイレと階段から遠くなるのでお客様には不便かもしれないけどそこは我慢してもらいましょう、増築してトイレを一番奥の部屋の前にもう一つ付けても良いかもしれないわね、今後も人数が増えるなら洗面所も、もう一つあった方が良いでしょ? 貴方達は女の子だし」


メグミの意見に、『ママ』が増築を提案する。ノリコが少し悩んでから、


「そうね、お金もあるし、少し師匠達に相談してみましょうか? 流石に水回りは私達だけでリフォームは難しいわ、自分達でも手伝えば案外安くできそうよ」


メグミも少し考えて、


「ふむ、そだね、師匠達に相談してみるか。ねえ、アカリさんはベットとかどうすの? 持ってくるの?」


「どうしようかしら? 今祖父母の家に住んでいるのだけど、私の部屋和室で御布団なのよ、ベットは持ってないのよね」


「なら2階の客室のベットは一個はアカリさんの部屋に置いたら? それとも畳じゃないとダメ? 畳買ってきて敷きますか?」


メグミが提案する。


「特に拘りは無いわよ私は、祖父が拘って全室和室だから仕方なくだったし、客室のベットが貰えるならそれをお願いしたいわ」


「じゃあ一個はアカリさんの部屋ね、そうだ今ならタツオが居るんだから、お願いして良いかな? 一応バラせるんだけど、マットレスが重いのよ。私達も手伝うから、運ぶの手伝って」


「そう言えばタツオお兄ちゃんって、今どこに住んでるんですか?」


サアヤが尋ねると、


「ああ、なんて言うか宿屋兼下宿みたいな所だ、男子独身寮みたいになってるところだな、アキヒロさん達が居たんでな、何となく転がり込んで一室借りたんだが、実は色々忙しくて見習い冒険者の男子寮にも荷物が置きっぱなしだ」


それにメグミが疑問を投げかける、


「え? なんで? その男子独身寮に部屋借りてるんでしょ?」


「だからな空き部屋使って宿屋みたいになってるんだ、で、最初は見習い寮に戻るのがめんどくせえ時に泊ってたんだが、だんだん本当に戻るのがめんどくさくて入り浸ってたら、管理人のおばちゃん達に、一室借りた方が宿泊費より安いって言われてな、そのまま借りた、少し時間が出来たら見習い寮引き払う心算つもりだったんだが、まだ出来てねえな」


「見習い寮は利用可能期間6か月だからもう一月ちょっとしか無いわよ? 次が待ってるんだから早く出なさいよ、でもそうね、その男子独身寮ってここから近いの? 遠いと何かと不便よね、近くに何かいい物件は無いのかしら?」


「メイン通り挟んで反対側だな、まあそこまで遠くはねえが、それなりってところだな」


「せめてメイン通りのこっち側で探したらどう?」


「結構便利なところでな、一階が食堂になってるし、洗濯も掃除もお願いしたらおばちゃん達がやってくれるしな、それに近所に飯屋が多くてよ、結構快適なんだわ」


「そうか宿屋の機能も有るからその辺が普通のアパートみたいなのと違うのね、そうね、アンタ自炊とかでき無さそうだものね」


「ほっとけよ、あの辺りはそんな宿屋兼下宿みたいな所が多いんだぜ? 似たような男ばっかだって事だろ? 俺だけじゃねえ」


「でもあれよねアキヒロさん達もギルド造るんなら、そこを出て何か建物借りるのかしら?」


「どうだろうな? 案外そのままなんじゃねえか? 女の子も加えたみたいだしな」


「ねえメグミちゃん、お兄ちゃん、なんでお兄ちゃんはこの家に住まないの? 部屋は空いてるわよ?」


メグミとタツオが、タツオの住居の話をしていたらノリコが爆弾発言をする。


「何言ってるのノリネエ、ココは女の子ばかりなのよ? タツオが一緒に住めるわけないじゃない」


「けどメグミちゃん、タツオお兄ちゃんはここ数日、泊ってますよココに」


サアヤまで意味不明な事を言い出した。


「タツオ君はこの家に不満があるのかしら? 何が不満なの? 改善できない様な事なのかしら?」


『ママ』が訳の分からないことを言い出す。


「特に不満はねえな、快適に過ごしてるぜ、『ママ』さんの飯も美味いしな」


「タツオはちょっと黙ってて、ねえみんな、タツオは男なのよ? なんで私の天国に男が入り込もうとしてるのよ! おかしいでしょ? 女ばかりの家に男が入り込むとか、どんなエロゲーよ! ラッキースケベとか絶対許さないから! ここは私の楽園なのよ! 私は反対よ、ねえアカ……はダメね、カグヤは反対でしょ?」


「カグヤは別に構いませんよ? 1階の客間をタツオさんの部屋にすれば良いんじゃないですか? 1階にトイレ二つあるし、一つを男子専用にすればいいし、お風呂は女の子が入ってるときには分かるようにしてればラッキースケベも防げますよ? 2階を女子専用にすれば何も問題ないと思いますけど」


「なっ! 裏切ったわねカグヤ! ああもう、そうだ! 私は必ず朝もシャワーを浴びるわ! けどタツオだって脱衣所に入りたい時が有るかもしれないじゃない、1階の洗面所はあそこだけよ、不便でしょ?」


「メグミちゃん、1階の客室は昔この家で商売されてた方の、執務室だったから、給湯室が付いてたのよ、今でもお客様に御茶を出す様にお湯とか水が出る給湯設備が残ってるわ、あれを少しリフォームすれば洗面所とシャワー室位直ぐに造れるわよ? 部屋は元々広すぎる位ですからね、入り口付近をちょっと区切ってそれらを造っても、収納も部屋の広さも全く問題ないと思うわ」


『ママ』は流石は『家と家事の精霊』、家の構造を知り尽くしている。


「くっ、けどまだよ、私はお風呂上りにバスタオル一枚で台所に行ってコップ一杯の牛乳を飲むのを生き甲斐にしてるわ! 男の子が居たら出来ないじゃない!」


「あれは良くない習慣ね! 何時もやめるように注意してるでしょ?」


「あれは流石に良くないわよメグミちゃん、もしお客様が来てたらどうするの?」


「せめて脱衣所に冷蔵庫置いて脱衣所で飲むべきですわね、それにここ数日はしてないじゃないですか? 止めても死にはしませんわ」


メグミの習慣を利用した抵抗は、『ママ』。ノリコ。サアヤに却下される。


「ああ、私の生き甲斐が!! まだよ、まだなにか……そうだ洗濯物、洗濯物よ! 洗濯物は下着もここで畳んでいるわ、タツオだって気まずいでしょ? 他に畳めるいい部屋は無いわよ!」


メグミの渾身の一撃は、


「2階の階段の踊り場、ベランダに続いているあそこ、結構広いけど部屋にもならないデットスペースでしたから、あそこに椅子と机を置いてあそこで畳みましょう、暖房も置けばガラス張りのバルコニーみたいで素敵だわ」


「前からあそこに椅子を置いて天気の良い日に日向ぼっこ出来るようにする話はありましたしね、これ言い出したのはメグミちゃんですよ?」


ノリコとサアヤに、容易に防がれてしまった。


「洗濯そのものが困るでしょ? タツオに洗濯とかできるの?」


縋るような目で見るメグミに、『ママ』は、


「元々、洗濯は私がしています、私はタツオ君の洗濯物が増えても気にしませんよ、メグミ、そろそろ諦めなさい」


四面楚歌、どこにも援軍は居らず、既に打つ手が無かった、最後の一手にタツオの意見を聞くが、


「タツオはどうなのよ、女ばかりの家に住むのは嫌でしょ? 住み慣れたところが良いんじゃないの?」


「うーーん、まあ、あれだな、一々帰るのもめんどくせえし、俺はここに住んでも別に構わねえよ、お前がどうしても嫌ならやめるが?」


この男の神経の図太さの前に、女ばかりの家に入り込む羞恥心など期待するだけ無駄だった。


「あああああああああっ、私の、私のレズハーレムがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


メグミの絶叫が響く、


「そんな物最初から存在しません!!」


「メグミちゃん、今のは聞かなかった事にしてあげますね」


「これで抑止力が働いて良かったですわ、このまま女の子ばかりだと、メグミちゃんそのうち家の中を裸でうろつく勢いでしたからね」


『ママ』、ノリコ、サアヤの冷たい声が追い打ちを掛ける。


「ねえカグヤちゃんは本当に良いの? 私は嬉しいけど」


「アカリ先輩、この今のやり取りでそれをカグヤに聞きますか? メグミ先輩にはストッパーになるものが絶対に必要ですわ、分かりますでしょ?」


「まあそうね、でもタツオ君と一つ屋根の下、ふふふっ」


「アカリ、もう貴方もうちの子ですからね、夜這いとかしたら追い出しますよ?」


喜ぶアカリに『ママ』の冷たい一言が突き刺さる。びくっと震えたアカリは、


「えっ……やだな、私そんな事しませんよ」


「理解しているかもしれませんが、この家の中で私に把握できなことは有りませんからね? くれぐれもよろしくお願いしますよ、貴方も年長組ですからね、しっかりと年下の子の見本になる行動を心がけてくださいね」


「はい……」


アカリもこの家の主を理解したようだ。


「ああ、それとメグミ、『カナ』の部屋を用意しなさいね、いつまで地下の研究室に寝かせて置く気ですか? 既に出歩けるまでになっているのなら早急に対応しなさい、貴方は下着の時もそうですが無神経すぎますよ」


絶望に打ちひしがれていたメグミは、ほへっと顔を上げると、


「ダメなの? え? 『カナ』の部屋は研究室じゃないの?」


「ダメに決まってるでしょ? あんな所に女の子を何時まで寝かせておく心算ですか! 私の部屋で一緒に寝ても良いけど、あそこはダメ! 空き部屋はまだあるのだし、タツオ君が引っ越して来るならそうね、2階の一部屋、アカリの部屋の隣で良いのではなくて? ベットも有るのだし、取り合えずの寝具と、着替えの服を用意なさい、良いですね」


『ママ』の厳命が未だ傷心のメグミに言い渡されたとき、玄関をノックする音がする、そして再びこの家を訪れたアツヒトがその時連れてきた監視者が、2階の最奥の部屋に引っ越してくることによって、リフォームが決定した。脱衣場に冷蔵庫が設置された事だけがメグミの救いであった。

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