第50話異常事態

 そんなこんなでタツオは一通りお姫様抱っこを終わらせた。冒険者組合の受付嬢3人組も大喜びしていた。

 周りの男性冒険者からの嫉妬の目は凄まじかったが、『サキュビ69』親衛隊の人達がバリケード及び人員整理をして、大きな混乱は起きなかった。親衛隊の人は嫉妬しないのかと思い聞いたら、


「あの程度で嫉妬するようなサービスはしてないよ、特に親衛隊にはね♪」


余裕の表情のプリムラに気軽に返され、聞かなければ良かったとメグミは後悔した。

 その後そのまま『サキュビ69』のメンバーはメグミ達と周囲に手を振りながら転移魔方陣のある方に移動してい行った。後に親衛隊やらTVのスタッフだろうか? カメラらしき物を構えたメンバーやらマイクを構えた人達、更に周囲には何やら空中に浮かんでいる魔道具など含め十数人引き連れていった。タツオに、


「よくプリムラさんにムラムラ来なかったね? あれ私でもヤバかったのに」


尋ねると、横からサアヤが、


「いや大体はメグミちゃんの方が女の子に対してはダメだと思いますけど?」


そう真顔で突っ込まれたのね後ろから抱き着いて撫でまわしておいた。最近サアヤのメグミに対する態度が何処か冷たいのだ。スキンシップが足りないのだろうっと念入りに……それを呆れたような目で見ながら、


「俺はもうちょっとアレより小さいけど妹がいるからな、あのくれえの子供の相手は慣れてんだ、大体あれはそういった対象にはならねえよ。あれとどうこう出来るアツヒトがおかしいんだ」


「へえ、あんたお兄ちゃんだったんだ、うちも小生意気な弟と可愛い妹の双子が居るわよ」


サアヤに頬ずりしながら言う、


「メグミちゃんどこに手を入れてんですか! もう放してください、いい加減にしないと怒りますよ!」


本気でサアヤが嫌がり始めたので解放する。ブラの中に手を入れたのはやり過ぎだっただろうか?


「なによ軽いスキンシップじゃない」


「軽くないです、軽いスキンシップで服の中に手を入れないでくださいっ! メグミちゃんはいっつもやり過ぎなんです、もうちょっと慎みを持つべきです」


 顔を真っ赤にしながらプリプリ怒る、そんな姿も大変可愛い、食べちゃいたいくらいだ(性的に)、そんなサアヤはタツオの方を向いて


「タツオさん、お兄ちゃんだったんですね、いいなぁ、私もお兄ちゃん欲しかったです。まだ一人っ子なので兄弟、特にお兄ちゃんに憧れてました」


まだ一人っ子なら、これから兄弟が出来てもお兄ちゃんは出来ない、


「ん? そうなのか? 俺も兄貴は居ないからよくわからねえなその感覚は、けどまあ兄弟が欲しい感覚は分かるかな、うちは年が離れてたからな、妹が生まれたときは嬉しかったさ。まあ妹は良く懐いてくれたし可愛いんだが、その所為で結構親に世話を押し付けられて、少しウンザリもしてたけどな」


「そうですよね、なんかタツオさんお兄ちゃんって感じですものね、ねえタツオさん、お兄ちゃんって呼んでも良いですか?」


「へっ?? えっ?? 何んだいきなり?」


「タツオ君、私も兄弟欲しかったのよ、私のことはお姉ちゃんって呼んでいいわよ?」


アカリさんが乗っかってくる。


「あ……いいなぁ、私もお兄ちゃんって呼んでいい? タツオ君」


「ノリコさん、あんた俺より年上だろうが!」


「ううっ、ダメ? なの……」


「いやなんで泣きそうになるんだ……」


「良いじゃない、タツオ大きいんだし、お兄ちゃんって呼ぶくらい許してあげなよ」


「いや……なあ? 何かおかしくねえか?」


「良いのよ、あんた近所のあんちゃんって感じじゃない」


「……仕方ねえな、まあ良いけどよっ」


ノリコの顔がパアァと明るくなる、


「私も一人っ子だったからずっと兄弟が、お兄ちゃんが欲しかったの、ごめんね年上で……、でもこれからよろしくねお兄ちゃん!」


 こういう時のノリコは年齢よりも可成り幼く見える、普段はお姉さん振るのだが、甘えると途端に幼児に退行する、『ママ』と二人の時もそうみたいで、メグミは、甘えて、幼児のような言葉で『ママ』に語り掛けている、そんな現場によく出くわし、そんな時は、メグミに気が付いて慌ててノリコが誤魔化し、『ママ』はそれを微笑ましそうに見ている。そんな甘えたノリコに、


「くっ! 畜生どうなってやがんだ……よろしくなノリコ!」


「あっ、ノリコお姉さまズルい、私が先です、よろしくねタツオお兄ちゃん!」


「ああ! もうっ、よろしくな、サアヤ!」


「一気に2人も妹が出来たわよ、良かったわねタツオ」


「うるせえ、糞が!」


「あら? 私は? ねえお姉ちゃんでしょ? ほら早く!!」


「あんたもか……アカリさんで良いだろ、なあ俺戦う前に精神力がゼロになりそうなんだが」


「なによ、私だけ仲間外れなのね、タツオ君冷たいわ、なによお母様にデレデレしちゃって、あの人の方が良かったの? そうなのね!」


「デレデレはしてねえだろ、結構毅然と断っただろ俺」


「そうね、あの中だとタツオの好みはヒカリさんよりどっちかって言ったら委員長タイプのエリンさんじゃない? 清純系年上お姉さまはアカリさんで足りてると思うし」


「ワタクシのお母様ですか? うーん、マジメ系に惹かれる不良系男子ってのは悪くないですけど、タツオ先輩がお父様になるのは勘弁してほしいですわ、お父様も泣きますもの。

 それにタツオ先輩の好みはあんな表面だけの真面目系じゃなくて、自分の正しいと思うことを実際に実行する、元気で明るくて少し小柄な女の子だと思いますわ」


「ふーん、何よカグヤ何か知ってるの?」


「別に……何となくですわ、それよりメグミ先輩はお兄ちゃんって呼ばなくていいんですか?」


「ん? タツオの事? うーーん、最近のヘタレ振りを見てると近所のあんちゃんから近所の悪ガキにランクダウンしてるのよね、お兄ちゃんってより弟っぽいわ」


「おい、俺はお前より年上だろうが!! なんだ弟ってのは、そもそもなんで呼び捨てなんだ、前々から一度注意しようと思ってたんだけどよ!」


「男のくせに細かいこと気にして、みっともないわよタツオ、私はねたとえ年上でもアツヒトはアツヒトって呼ぶし、タツオはタツオよ。敬称ってのは尊敬できる人に付けるものよ、そんなことも分からないの?」


「なあ、何かスゲエ、上から馬鹿にされた気がするんだが気のせいか?」


「バカにはしてないわよ、仲間として頼りにしてるんだから、細かいこと気にしないで頑張りなさい。仲間内で敬称にこだわるとか器がちっちゃいわよ、タツオ」


「憐れですわ、タツオ先輩、ライバルとして同情を禁じえませんわ」


「タツオ君、私のことはお姉ちゃんって甘えてね、慰めてあげるわ」


「タツオお兄ちゃん、報われませんわね」


「お兄ちゃん、ファイト! 相手がちょっと悪いだけだよ!」


「……なあ、ほんとに……はあーーーっ、俺ってそんなに分かりやすいのか?」


「「「「ええ、とっても」」」」


ガックリうなだれるタツオに、


「ほら転移魔方陣に行くわよ、サクサク階層主も倒すわよ」


「ねえ、メグミちゃん、倒しませんからね? 先ずは調査ですからね、忘れてないわよね?」


「ノリネエも心配性ね、大丈夫よ忘れてないわよ、言葉のアヤよ」


ワイワイと騒ぎながら転移魔方陣の上に乗る。


「じゃあ行きますよ? えーと一番奥のポイントね」


 ノリコがパーティーリーダーとして転移先のポイントを念じて転移魔方陣を発動させる。魔方陣が光り輝き、その光の魔方陣が下から上に移動した瞬間、フワッっとした一瞬の浮遊感の後、目的のポイントの転移魔方陣の上にパーティ全員が現れた。


「えっ……??? なにこれ?」


「うわ、気持ち悪りい、なんだこりゃ」


「びっしりですわね、何事ですの?」


 転移魔方陣の周囲の結界周りにはびっしりと通路を埋め尽くす様々な魔物の群れがそこには居た。その数は凄まじく、見渡す限り魔物。壁の方まで魔物が埋め尽くしていて、床が一切見えない、しかも通路の先の見えない範囲までいるようで、その数は数百では効かない、千に届く数の魔物の群れがそこには居た。


「異常事態ですわ、仮設本部に連絡すべきでは?」


「駄目よサアヤ、今のまま応援を呼んだら、誰か死ぬわよ。魔方陣の周囲の結界は小さいのよ、このまま応援を呼んだら押し出された人が、この魔物の群れに一斉に襲われるわ」


「もう一度転移魔方陣で入り口に戻るか?」


「転移魔方陣をもう一度使うには一度魔方陣からでないとダメよ、お兄ちゃん」


「ちょっと待て! この事態でもまだその設定続けるのか?」


「へ? あれ? だって呼んでいいって、ダメなの?」


「いやなんで泣きそうなるんだ、良いよ、呼んで良いからどうするよ?」


「タツオ君、ちょっと落ち着きなさい、魔方陣による『固定点間転移魔法』は使えないけど、このまま『個別目標転移魔法』なら使えるわ、けど転移魔方陣の上ってのがネックになるのよ、魔法が干渉するかもしれないわ、最悪は試すしかないけど……」


「ノリコお姉さま『アップルラビット』まで居ますよ、この魔物って一定時間周囲に獲物が居ないと元の林檎型に戻るんじゃなかったでしたっけ? こんなところに屯してたむろしているのは不自然です」


「確かそうですわ、おかしいですわ、モンスターハウス通称『モンハウ』はルームで起こるものですもの、通路でモンハウとか聞いたことが有りませんわ」


サアヤとカグヤが疑問を呈する。


「モンスターを引き連れて他のパーティにそのモンスターの群れを擦り付ける、MPK(モンスターに擦り付けによる人殺し)とかいう悪質な悪戯も有るそうだけどそれかしら?」


「いいえノリコちゃん、それにしてもこの数は以上ですよ、それにサアヤちゃんの指摘している通り『アップルラビット』がそのままそこに留まる理由が分からないわ」


「みんな、細かい理由なんてどうでも良いのよ、そんなの後から調査すればわかるわ。先ずはこの状態を解決するわよ」


「どうする気なのメグミちゃん」


「私が『疾風迅雷』で突っ込むわ、そのまま『剣陣乱舞』で殲滅して血路を開く。最初の『剣陣乱舞』の後もう一度『疾風迅雷』で上空に移動して更に寄ってきた魔物に更に『剣陣乱舞』を食らわせて、その後『疾風迅雷』で後退するから、2回目の『剣陣乱舞』の後にカグヤはこの結界の周囲の敵を『爆砕鉄球陣』で殲滅しなさい。その後他の3人はサアヤを守って結界を出て、サアヤはそのまま広範囲魔法を連発して見える限りの敵を殲滅よ。良いわね?」


「結界の中からは攻撃出来ねえから仕方ねえが、行けるのか? メグミ」


「行けるわよ、なに? 私が信用できないの?」


「けどメグミちゃん、あなたが一番危険なのよ?」


「他に適任が居ないでしょ? 広範囲攻撃できる人は居ても、敵の群れに突っ込めて、更に後退まで出来るのは私だけよ。なーに、失敗したら援護は期待してるわ、最悪結界まで戻ればいいだけなんだからいけるわよ」


「ノリコお姉さま、それしか有りませんわ、メグミちゃんに『魔法障壁』を掛けます、後『空気の鎧』を、『物理障壁』がないのが悔やまれますわ」


「そうね、お母様達みたいに『鉄の表皮』『竜の鱗』辺りまであればこの位の雑魚の攻撃なら幾ら群れでも無傷なのでしょうけど、私も『空気の鎧』までしか使えません、残念です」


「メグミ先輩、無理だと思ったら直ぐに後退してくださいね、先輩に傷が付いたらカグヤ泣いちゃいますからね」


「プリムラさん達、矢鱈とやたらと軽装だったのはその辺の魔法が有るからなのね、早く私も覚えたいわ」


「メグミちゃん、少しは緊張して、なんでそんなに余裕なの? 私も『大地の加護』を掛けるわね」


「俺は『戦乙女の加護』を掛ける、怪我するんじゃねえぞ」


「みんな大げさね、『鉄壁』や『要塞』使って、『守護の盾』も『守護の鎧』も掛けるから、この辺の魔物の攻撃なんてかすり傷よ、効果が切れる前に後退出来るから心配ないわ、『紅緒』『紫焔』」


現れた2体の精霊に向かって、


「頼むわね、二人とも、一応保険よ」


「なにメグミ、あまり必要ない感じなの?」


「不満ならあなたは来なくていいわよ『紅緒』」


「うるさいわね、私も呼ばれたんだから行くに決まってるでしょ、黙りなさいな『紫焔』」


「喧嘩するなら二人とも要らないわよ、周りを見なさい」


「うわ……なにこれ、数が多すぎて気持ち悪いわ」


「キモッ、うわーーキモ、なによこれ?」


「理解したでしょお願いね」


大人しくなった2体の精霊は光にの粒子となりメグミの抜いた短剣に新たな刀身を生み出す。


「サアヤ準備は良い?」


「此方も『風香』と『氷菓』を呼びました。準備OKです」


「『雫』も呼んだわOKよ」


「こっちも『燕』を呼んで『空絶剣』準備OKだ、いつでも行けるぜ」


「私達も精霊欲しいわね」


「そうですわねアカリ先輩、今度の調査終わったら『精霊王』様に謁見しましょうか」


「じゃあ行ってくるわね」


すると2本の刀を構えたメグミの姿が掻き消える。


ピキッゴッロロオォ!!


 雷の様な音を響かせ、メグミの姿が40メートル程先の通路の上空5メートルの地点にプラズマの様な尾引いて現れる。と同時に『剣陣乱舞』が発動しメグミの周囲の空間が歪む、


ズババババババババシュッ


凄まじい音が鳴り響きメグミの周囲の魔物が細切れにされていく、球状に広がる細切れのを生じる真空刃の範囲は、辺り一帯30メートルの球状で範囲の魔物を悉く切り裂く。そのままメグミはズダンッっと魔物を切りつくした中心部に着地。それに範囲外にいた魔物がそのメグミに反応し、一斉に襲い掛かる。メグミの姿が掻き消えるほどの魔物の群れに、メグミは再び、


ピキッゴッロロオォ!!


雷鳴を響かせプラズマの尾を引いて上空10メートルに瞬間移動する。メグミは下を向いて、魔物が集まっているのを確認してから再び『剣陣乱舞』が発動し周囲の空間が歪む。


ズババババババババシュッ


又も周囲の魔物を細切れにする真空刃の乱れ飛ぶ空間が広がっていく。その広がっていく最中に、メグミは落下しながらその姿が掻き消える、


バシュウウン!


メグミは結界の中に現れると、


「行けカグヤ!!、蹴散らしなさい!」


そう叫ぶ。カグヤが結界から飛び位だし周囲に残っている魔物を、


「行きますわよ、砕け散りなさい、オホホホホホホッ」


ドガガガガガッ!


カグヤの棘付き鉄球が乱れ飛び、蹴散らし、粉砕する。一気に結界周囲に魔物が居なくなり、3人に守られたサアヤが結界外に出てくる、通路の向こうから恐ろしい数の魔物が津波となって大群で迫ってくる。


「皆さん行きますわ、私より前に出ないで下がってください『氷結槍地獄』」


 通路から迫ってくる魔物の周囲の壁、床、天井、全てが凍り付き、そこから氷柱の様な槍が縦横無尽に生えて魔物を串刺しにしていく。数百の魔物が串刺しになるがまだ魔物の勢いは衰えない、その倒れた仲間の死体を更に超え、氷の槍を乗り越えて此方こちらに迫ってくる。


「続けて行きます、『烈風風刃結界』」


 メグミの『剣陣乱舞』が球の範囲だとすれば『烈風風刃結界』は柱、通路一杯に広がる死の真空刃の乱れ飛ぶ横たわった柱であった。横たわった竜巻の様な風の柱が、真空刃と共に全てを切り裂いていく、天井には当たらないようにしているが、魔素樹の葉も大分吹き散らされ、先に生じた氷の槍すらも削り飛ばす。

 その暴風が吹き止むと、葉が散って少し薄暗い通路には生きている魔物は見渡すがぎりいなくなっていた。

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