第74話目覚め

 メグミは空腹を感じて目を覚ます。ぼんやりと目を開けると見覚えのない天井が見えてくる、


(あれ? ここどこだろう? なんだが体がフワフワするわね? まだ寝ぼけてるのかしら? まあ起きたばかりだし、覚醒してないのかもね……にしてもここは何処? 私何やってたんだっけ?)


メグミは寝ころんだまま、目を動かして周囲を確認するが、目で見える範囲に現状を確認できる情報は大してない無い、見知らぬ天井に照明のペンダントライト、何やら白い布が自分の体を首まで覆っているのが分かる、頭の下には枕らしきものの存在も感じるが、自分はベットに寝ているのだろうか? 何だか体がだるいが、気合を入れなおして首を右に動かすと、やはりどうやらどこかのベットに寝ているようだ、するとそこに見慣れた人物が目に入る、ノリコがベットの横の椅子に腰かけて、そのままベットに倒れ伏す様にしている、どうやら寝ているようだ。右手を誰かが握ってる感触がある、ノリコの手が自分に掛けられている掛布団の中に入っている、ノリコが握っているのだろう。

 そしてそのまま反対側、左側を見るとそちらにも見慣れた人物がいる、サアヤと『ママ』が椅子に腰かけて寄り添うようにお互いにもたれ掛かって寝ている。サアヤの手がメグミの左手をしっかりと握っているのが見える。

 更に視線を下半身の方にずらすと、アカリとカグヤもノリコと同様に椅子に掛けたまま上半身だけベットに伏せて寝ている。部屋の入口の方には扉の横に椅子を置いてタツオが背もたれに体を預けている、こちらも寝ているようだ。


(私はどうやらどこかの部屋のベットに寝かされていて、周りを仲間に囲まれているようね、何だか薄暗いわね、皆寝てるし、うーーん、頭がぼんやりしてるわね、何があったんだっけ?)


 そう思いながら、メグミは気怠い体に気合を入れて上半身を起こす、このまま寝ているわけにはいかない、第一にお腹が減っている、何か食べたい、それに酷く喉が渇いている。そうして改めて周囲を見回すとやはり自分は知らない部屋のベットに寝ていたようだ、それに妙に頭が軽い、何だかスッキリしている。


(何だろう? あれ? なにか? 何かあったような……)


 徐々に頭が覚醒してくる、そうしていると上半身を起こした所為か、腕が動いたのだろう、ノリコとサアヤが起きるのが分かる、ハッとしたように体を起こすノリコ、左手でメグミの手を握ったまま右手で口を覆って、メグミを見つめて固まるサアヤ。二人を交互に見てメグミは、


「おはよう、二人とも、ねえ、ここは何処? 私確か……」


そう話しかけるメグミの言葉を遮って、


「メグミちゃん、メグミィ、バカッ! バカ! バカバカ!」


 飛び掛かるように両手でメグミを抱きしめながら、ノリコは泣きながらメグミを非難する。困ってサアヤの方を助けを求めるように見ると、サアヤはメグミの左手を頬に抱きよせながら静かに泣いている。

 二人の(主にノリコの)騒ぎに気が付いたのか『ママ』やアカリ、カグヤが起き出す、タツオも起きたのか立ち上がって此方に近づいてくる。アカリが立ち上がり、


「メグミちゃんが起きたことを報告してきます」


立ち上がって扉の方に駆けていく、扉を開けながら部屋の暗さに気が付いたのか入り口横のスイッチを入れて、そのまま部屋を出ていく。照明が付いて部屋の中が良く見えるが、やはりメグミの知らない部屋だった。クゥーー そうメグミのお腹が抗議の声を上げる。メグミは少し顔を赤くしながら、


「ねえ、お腹が減ったわ、今何時? ここは何処?」


周囲に尋ねると、『ママ』が慌てて、足元に置いてあるバスケットを持ち上げる。


「あっ、『ママ』先に飲み物はない? 喉がカラカラなのよ」


すると『ママ』は安心したように微笑んでバスケットから保温機能付きの水筒を取り出す。


「お前は、起きて一言目がそれか?」


タツオの呆れたような安心した様な声に、


「二言目よタツオ、残念ね」


『ママ』からカップに入れたお茶を受け取ろうとしてノリコに抱き着かれて右手が動かせない、左手はサアヤに拘束されたままだったことを思い出す、ノリコはメグミを抱きしめたまま、まだ泣いている。『ママ』は気を効かせてくれて、メグミの口元にカップを寄せて、メグミにお茶を飲ませてくれる。程よい暖かさのそれをグビグビと飲む、どうやら思ったよりも喉が渇いていたようだ。


「『ママ』もう一杯お願い、ねえ、タツオ、今は何時? あれからどの位立ったの?」


「何処まで覚えてる?」


「アイアンゴーレムを倒したとは思うんだけどね、腕が千切れ直ぐはあんまり痛みを感じなくて、このまま行けるって思って突っ込んだんだけど、戦っていると猛烈に痛くなってきてね、最後の方は痛みで頭が真っ白になってたわよ、核に突きを入れたあたりで完全に記憶が飛んでるわね」


「腹にも穴が空いてたが覚えてるか?」


「そうなの? なんだが彼方此方痛くてあんまり覚えてないわね、言われてみれば右の脇腹が凄く痛かったような……うーーん、痛すぎると、あれね、どこが痛いとか考える余裕もないわね」


「はぁ、なんでそれでも戦ってんだって突っ込みたいが、まあいいか、今更だしな、あれから半日くらいだ、あれが朝だろ? 今はもう夜の9時だ」


「そう、ねえタツオ、あの子は無事ね?」


「ん? ああ、無事だ、母親も無事で、ちゃんと引き渡してきた」


「そう良かったわ、気を失ったみたいだったから心配だったのよ」


「お前は……先ず自分の心配をしろよ、腕千切れたんだぞ」


「分かってるわよ、全く二度とごめんね、あんなに痛いとは思わなかったわよ、でも感覚があるわ、ほらちゃんと動く、ねえこれノリネエ達が繋げてくれたの? でも未だ『再生』使えないわよね? アイ様やヤヨイ様?」


ノリコに抱きしめられて動かしにくいが、何とかメグミとノリコの体の間から右手を出すと握ったり開いたりして感触を確かめる。


「違和感はねえのか? 痛みは?」


「特に何も感じないわ、良い治療の腕前ね……ねえノリネエ『命の貢献』じゃないわよね? ねえ? 聞いてるの?」


「メグミちゃん、違いますよ、『命の貢献』はちゃんと止めました」


サアヤが涙を拭いながら答える、


「そうサアヤが止めてくれたのね、ありがとう、全く、止めたってことは使おうとしたのね、ノリネエ、ダメじゃない」


メグミはその治った右手でノリコの背中を撫でながらノリコに囁く、


「メグミちゃんは私の事を非難できるの? バカ! メグミの大バカ」


抱きしめたまま、そのまま、またノリコが非難してくる。


「出来るわよ、なんで出来ないと思うの? あの時はあれがベストだったと今でも私は確信してるわ、もう一度同じことが有っても、また同じことを私はするわよ、ただしそうね、今度はもっと上手くするわ」


「なあ、お前は後悔とか反省はしないのか?」


呆れたようにタツオが聞いてくる、


「後悔はしないように行動してるわ、だから自分の行動に自信があるのよ、けど反省はしてるわ、だから次はもっと上手くやる、それだけよ」


「貴方はバカよ……」


「もう、バカでも良いわよノリネエは! でもあの子は助けれたのよ、ならそれに後悔なんてできないでしょ? 次はもっと上手く助けるわ、それでいいでしょ?」


「貴方は私をお人好しって怒るけど、貴方はどうなのよ? 底抜けじゃない」


「馬鹿ね、ノリネエ、あの子を見なかったの? 可愛い幼女よ?」


「んん? ん?」


「将来絶対美人になるわ! そんな子を助けるのは当然でしょ? 良い? 可愛いは正義なのよ? 他の何を置いても守るべき至宝よ? なによ一寸命かける位」


メグミは自信満々でドヤ顔で言い切る、


「お前は死にかけても変わらねえのか?」


「死にかけてないわよ! 腕が千切れただけよ、あんなデカいだけの奴に私が負けるわけないでしょ」


「それだけじゃねえし、それだけでも大問題だろうが! おまえバカも休み休み言えよ!」


「何よタツオは、人のミスをネチネチと突いて、女々しいわね」


「メグミ、その位で大人しくしないとご飯抜きにしますよ」


『ママ』がバスケットからサンドイッチを取り出し、それを掲げて睨んでくる、


「ああ、なんで『ママ』まで意地悪するの? あーん、ほらあーん」


「貴方が人の気持ちを考えないからよ、周りがどれだけ心配したと思ってるの! 反省しなさい! もう、仕方ないわね、あーん」


そうやって『ママ』にサンドイッチを食べさせてもらっていると、ノリコが漸くようやく、メグミを解放して、パクパクとサンドイッチを食べているメグミに、


「メグミちゃん、一つ報告があるの、もう分かってるかもしれないけどね、あの……髪」


「ああ、そうなんだろうね、何だか頭が軽いわ、あれね、怪我は無くても、毛が無くなったってやつね」


メグミの渾身の軽口は周りのみんなにはスルーされる、それどころか益々痛ましい者を見る様な目で見られて、


「分かってるわよ、私だって泣きたいくらいに辛いし、残念よ、こっちに来てからずっと切らないで伸ばしてたし、昨日は褒めて貰ってもう少し伸ばそうと思ってたわ、けどね、仕方ないじゃない? 泣いても戻ってこないし、髪の毛とあの子の命、どっちかならあの子の命を取るわ」


 強がっても無駄と悟って素直な自分の気持ちを伝える、カグヤは足元から大きめの折り畳みの3面鏡を取り出し、メグミに、


「見ますか、先輩、覚悟は良いですか?」


悲痛な顔をして聞いてくる、メグミは頷くと、


「良いわ、カグヤ、見せて」


カグヤはA3用紙サイズの3面鏡を開いてメグミの顔の前に持ってくる、鏡の中には見慣れた自分の顔と、見慣れぬ自分の頭が移っている。

 覚悟はしていたが実際に見るとやはり相当にショックだった、悟らせないように無理に笑顔を作るが鏡の中の自分の笑顔は自分で見ても不自然だ。

 ベリーショート、まあその位か? 少し短いか? 少年の様な髪型のメグミは鏡の中の自分を見つめる。丸坊主でないだけマシ、そう思おうとして失敗する、


(結構焼けちゃったんだな……まあ何となくあの独特の焦げた匂いがしてたから焼けたのは分かったけどね、バッサリだわ、此処まで短いのは人生初よね、元々オデコは出してたけど、もう隠しようもない位のオデコちゃんだわ、これはアレンジもなにも……ピン位なら止まるかしら? かえって無理やりすぎて不自然かな? にしてもコレなんだろうな?)


鏡を見ながら顔を左右に振って百面相をしていると、それを見るサアヤが更に泣く、ノリコも顔を両手で覆って泣いている。


「ごめんなさいねメグミ、出来るだけ残して焦げた部分を切ったのだけど、どうやってもその位だったのよ」


 『ママ』が目を伏せて告げる、髪を切ってくれたのは『ママ』らしい、短いなりに整っている、大した腕だと思う、流石は家事万能精霊、髪のカットも相当の腕前だ。『ママ』は優しい精霊だ、本当に可能な限り長めに髪を残してくれたのだろう、目の前の自分の髪型には、そんな努力の跡が所々に覗える、そしてそんな髪のカットは『ママ』の心に相当負担を掛けたはずだった。誰だって、ましてや女性が女性の髪を此処まで短く切る作業などしたくはないだろう。

 そして鏡を掲げているカグヤも流れる涙を両手が塞がっている為隠しようがないのだろう、鏡の後ろに顔を隠す様にして小さく震えている。


「はぁ、まあ、仕方ないわよ、『ママ』ありがとう、ごめんね迷惑かけて、それにみんなも、大丈夫よ、私はスケベだからね、髪が伸びるのが早いのよ、知ってるでしょ? 一年は無理でも二年もすれば元に戻るわ、カグヤもありがとう、もういいわ、それより此処ここ、何か白? いや銀色? の房になってるけどこれ染めたの? アクセント?」


「そのことについては僕から話そうか、やあ目が覚めたんだね、メグミちゃん」


扉を開けてプリムラが入ってくる、その後にアカリと、アイ、ヤヨイが続く。


「おはようございます、皆さん、いや、今は夜だからこんばんわか、もしかして大分迷惑おかけしましたか?」


「全く、一言目がそれかい、迷惑か、君はそんなことは気にしなくていい、本当に無事に目が覚めてくれてよかったよ、腕の方は如何だい? 違和感はないかい?」


「全く違和感ありません、これアイ様かヤヨイ様が繋げてくれたんですか? もしかして御二方で? 流石ですよね、どこをどうやって繋げたのか全く痕が残ってないですね、大分、欠損してませんでした?」


「そのことは先ずは置いておこう、全く腕には違和感はないんだね? ふむ、力が少し入らないとかも無しかい?」


「全く何時ものいつもの感じですね、部位欠損の場合使うのは『再生』で幾らか弱くなるんですよね? これで弱くなってるんですか?」


「弱くなってる感じがしないんだね? やっぱりそうか、メグミちゃん、君の腕を直したのは『再生』じゃない、メグミちゃん、寝ている間にステータスを覗かせて貰ったよ、事後承諾になって申し訳ないけど、一応、ノリコちゃんとサアヤちゃんの許可は貰ったんだ、二人のステータスも確認させてもらったしね」


「そうですか、まあ、構いませんけどね、色々変なの取得していて恥ずかしいですけど……」


「まあそのステータスだ、ねえメグミちゃん『魔神』『狂戦神』『血餓狼鬼』これらが真面なまともな職能だと思っているのかい? これについて調べたかな?」


「少し調べたんですけど本には載ってなくて、ステータスの説明には『魔神』は能力の向上と、『覚醒』時の大幅能力向上とありますが『覚醒』がさっぱりですね、スキルにも特殊魔法にもそれらしいのが有りませんし、ああこの職能のスキルの『生魂捧納儀式』が戦闘後の補給に便利ですね、『狂戦神』は戦闘時の能力向上と回復とありますね、あと戦闘を継続させる能力とありましたがこれが意味不明で、『血餓狼鬼』は倒した相手の力を吸い取りその力を己の力に変えるとありますが実感がないし、もう一つ力の向上とありますが、そちらもあまり実感がないです。そもそも力って何? って感じです、まだどれもレベルが低くて実感がどれも伴いませんね」


「そうか、そう言った認識なんだね、今回メグミちゃんの腕を繋げたのは『魔神』『狂戦神』『血餓狼鬼』これらの職能の相乗効果だと我々は解析している。

 先ずは『血餓狼鬼』だね、これは他の二つの職能の効果を強化している、そして『魔神』が更に他の2つの職能の能力を強化して、危機に際してその他2つの職能を指揮下に置いてコントロールしている。この職能のスキル『生魂捧納儀式』が周囲のあらゆるエネルギーを取り込んで、その際『血餓狼鬼』の力の吸収も上乗せしているよ、その奪い取った力とエネルギーで『狂戦神』の戦闘を強制的に続けるために体を回復させる能力を超強化して発動し、今回の負傷を癒している。

 一つ一つも強力な職能だ、だがこれらが合わさったことで『魔神』を頂点にして独自の職能として機能してる。良いかい? これは延々と戦い続ける為の職能だ、周りに生きているものが居なくなるまで戦い、殺し尽くすそんな職能になりつつある。ねえ、メグミちゃん、今日メグミちゃんは僕がその場に居なかったら恐らく百人以上の人を犠牲にその身を癒していたんだよ。

 良いかい、たかが腕一本の為に、その犠牲を躊躇うことなくこの職能は発動したんだ、考えたくは無いんだけどね、仮にメグミちゃんの首を刎ねるとしよう、メグミちゃんは死ぬのだろうか? 予想では死なない、そのまま今日の現象が規模を拡大して起こると予想されている。そして何事もなくメグミちゃんは目を覚ますんだ」


「何ですかそれは……私の職能が人を殺そうとした? 私の意志は?」


「この『魔神』、これはね非常に厄介で危険だ、『覚醒』した場合の被害の予想が出来ない、その髪の一房、それが目安だと予想されている、この『魔神』所有者で現在存命なものは居ない、しかし且つて居たのは確かで、記録では銀髪の『覚醒』した『魔神』、その『覚醒』の際に魔族の古代帝国が滅んでる」


「はぁ、何なんでしょうね? 私は化け物ですか?」


「まだ違う、そうだろ? メグミちゃんは世界を滅ぼしたいのかい?」


「別にそんなことは思いませんが……」


「もう一つ、君は『勇者』だね、タツオ君、君もそうだ」


「まあ、そうですね『勇者』の職能は便利ですね、能力の向上に、成長の促進」


「そうだな、人より成長が早いとは思ってる」


「『勇者』の職能を得る人には一つ特徴がある、今回の戦闘の様子をナツオは例の如く撮影していた。だから僕も見せてもらったよ、君たちの戦いを、メグミちゃん、小さな女の子を助けたね? あれで負傷したわけだが、あの子を助けれると思ったのかい? あの時タツオが来なければ、あの子は負傷していたよ、メグミちゃんが庇って多少逸らせたけど、直撃を防げただけだ、それに対して犠牲が多き過ぎるとは考えなかったのかい?」


「何も考えてませんでしたね、ただ危ない、助けよう、そう思ったら体が動いてました、後がどうとか助けられるかとか細かいことは何も、ただどうすれば助けられるのかと、もう少し余裕があれば剣で上手く逸らせたんですがね、何とか逸らそうとしたら失敗して自分の体に当たっちゃいましたね。まあ更に余裕があればあの魔法を切り裂けたんでしょうけど、そこまで余裕がなかったです、剣を振るだけの時間が無かったので」


「俺は、ちょっとはぐれちまってな、ノリコ達を探してたら騒ぎが聞こえたからアカリさん達と駆け付けたんだ、そしたらあの女の子が見えて、やべえって思ったらもう体が動いてた、屋根の上から探そうかと思って事前に『燕』を呼んでいてよかったぜ、間にあったからな」


「二人とも典型的な『勇者』保有者だね、『勇者』はみんなそうだ、心が、思考を置いて行く、その心が命じるままに体が動くんだ、そこに損得勘定や合理性の入り込む余地がない、二人とも下手をしたら死んでいた、あの子を助けるために死んでいたかもしれない、けどそんなことは一切無視している。ねえ、メグミちゃん、逸らした魔法が心臓に当たったら、頭に当たるとは考えなかったのかい? タツオ君、『燕』だったかな? あの精霊が逸らさなければ君に直撃して死んでいたよ? 『燕』があの魔法を逸らす確信があったのかい?」


「そんなことを考える余裕がなかったですね」


「無理だと思ったから、自分の体で防ごうかと思ってたな、まあ何とかなったし結果オーライで良いだろ?」


「全く、本当に嫌になるね、これだから『勇者』は始末に負えない。君達にはあの子を犠牲にする選択肢もあった筈だよ? そうすればメグミちゃんは楽にアイアンゴーレムを倒せた、そうだろ?」


「でもあの子は死んでましたね、ならアイアンゴーレムを倒せても意味がないじゃないですか? 今回誰か死にましたか? 何か私の所為で一杯人が死ぬところだったみたいですけど、結果誰も死んでいない、なら良いんじゃないでしょうか?」


「まあ、そうだわな、メグミの職能は想定外だったが今後気を付ければいい、余り無茶しなくなって返って良いんじゃねえか?」


「はぁ、タツオ君今の話を聞いても、メグミちゃんと普通に接するんだね君は、危ないとは考えないのかい? ノリコちゃん、サアヤちゃんは如何だい?」


「プリムラ様、メグミちゃんはメグミちゃんです、次からは気を失うような怪我をさせません、その前に癒します、それではダメなのですか?」


「今回はメグミちゃんが意識を手放した結果、『魔神』の職能が暴走したと考えられます、しかしその他の職能で『魔神』は十分押さえれるはずです」


「全く君たちは揺るぎが無いね、そしてこの街の幹部連中も本当に、はぁ、一人で心配してる僕がバカみたいじゃないか。

 でもねよく聞いてほしい、この『勇者』と『魔神』の組み合わせは危険なんだよ、さっきも自分達で言ったじゃないか、『勇者』は思いが先行する、全てに優先する。ねえ知ってるかい? 召喚者にはそれなりの数で『勇者』がいる。けどね生き残っている、生きている『勇者』は非常に少ない。君たちも知ってると思うが初期から生き残っているのは現役では6人の男共と1人の女の7名のみ、その後の世代の『勇者』の生き残りも非常に少ない、片手で数えれるほどしか生き残っては居ない。分かるかな? 『勇者』はその特徴から非常に死にやすいんだ。

 アツヒトを知ってるだろう? あれも『勇者』だ、なんでアイツがこの街で副組合長をやっているか知っているかい? もうこれ以上あの馬鹿を死なせない為だよ、アツヒトの年まで生き残った『勇者』が『オリハルコン』に留まっている筈か無いんだ、普通ならとっくに『アダマンタイト』下手すれば『ヒヒイロカネ』だろう、なんでアイツが『オリハルコン』だと思う? あの馬鹿も君たちと同じさ、思いが全てに優先する、考えるより先に体が動く、そして無茶して死ぬ。

 あいつは運よく『蘇生』が出来た、しかし死んでもあの馬鹿は治らない、何回『蘇生』したと思う? 3回だ! 3回も死んでそれでも治らない、だからこの街に閉じ込めた、死ぬってことはね、その痛みを経験してるんだ、それでもあの馬鹿は同じことを繰り返す、次何処かで死んで『蘇生』出来なかったらどうするんだ、3回『蘇生』出来たのだって相当運が良いんだ。地域外に出して『蘇生』出来ずに死なせるわけにはいかない。だからこの街で副組合長をやらせている」


「『蘇生』して弱くなってるから『オリハルコン』なんですね?」


メグミが尋ねると、


「そうだ3回も『蘇生』して『オリハルコン』に留まれているのは流石は『勇者』だ、けど、もう限界だよ、あれだけ惨い死に方を毎回してまだ正気を保ってるのが奇跡だ、けどもう奇跡は望めない。もう本当に限界なんだよあいつはね」


「プリムラ様は『勇者』のその特徴故に、メグミちゃんが今後死ぬようなことになって『魔神』を暴走させるとお考えなのですね」


ノリコがプリムラの考えを確認する、


「そうだよ、君達はたとえ死んでも治らない、いやちがうな、そんな人だから『勇者』の職能を獲得するんだよ。ならその『勇者』と『魔神』の組み合わせは最悪だろう?」


「プリムラ様、それはメグミちゃんが一人だったらの話です、6人の『勇者』のおじいさん達は生きてますね、何故ですか? 生きている、生き残ってる『勇者』には仲間がいるのではないですか? その『勇者』を支えられる仲間が居るから生きているのでしょう? なら私達が支えればいい、そうでしょ? 私達は支えれるくらい強くなって見せます。『カナ』だって居ます。支えて見せます」


「ねえノリコちゃん、君に聞きたかったんだ、『神』はメグミちゃんを、メグミちゃんに何をさせる気だい? メグミちゃんがこのまま順調に成長したとしよう、どんな戦略兵器なのかなそれは? 世界を滅ぼせるような兵器にメグミちゃんをする気なのかな?」


「メグミちゃんの道はメグミちゃんが決めます、他者には、たとえ『神』であっても邪魔させません。それにプリムラ様は飛躍し過ぎです、メグミちゃんは切るだけですよ、目の前の敵を切るだけ、それで世界が滅ぼせますか?」


「そうだな、幾ら強くてもメグミはそれだけだ、単体相手にはその内無敵になるかもしれねえ、けどそれだけだな、大量破壊兵器? あり得ねえだろ」


「私はメグミちゃんはその内、自分の中の『魔神』すら切りそうな気がしてますわ」


サアヤが確信をもって呟くと、


「職能って切れるのかしら? 切れるならそれは面白そうね、それさえできればこの白髪消えるんでしょ?」


「メグミちゃん、今まで話聞いてましたか? それは白髪じゃなくて銀髪よ?」


「ノリネエ、細かいわね、まあ良いわ、私の中に変なのが居てもそいつをぶち殺せばいいんでしょ? 私に勝って良いのはカナデだけよ、誰だろうと他の奴には負けないわ、今は倒せなくても絶対倒す、『魔神』だろうが私が知らないうちに何かするなら私が切るわ」


「ねえ君達日本人はみんなそうなのかい? 当然のように皆、己の職能ぐらい制して見せると幹部連中も言うのだけど、言ってることの意味わかってるのかな?」


「プリムラ様、日本では己の最大の敵は己自身、自身の内なる敵に勝つ、結構メジャーな考えです。当然そう出来ると考えてますし、そうします」


「でもノリネエ、自らの内に『魔神』を飼ってそれに打ち勝つって厨二っぽくてなんか安っぽいわよね、なんかこう、もうちょっとどうにかならないのかしら?」


「はああぁ、もうね本当に真面目に心配してた自分が馬鹿らしくなるね君たちは、まあ良いだろう、好きにやって見たまえ。ただし、暫くは冒険者組合の監視付きだよ君たちは」


「ま、それは仕方ないのかもね、ねえプリムラ様、お話は終わり? お腹減ったんだけど、もう帰って良いのかな? サンドイッチも良いけど、もう少しガッツリ食べたいわ」


「お前は、本当にブレねえな? 結構深刻な話だったと思うぜ?」


「考えてもどうにもならない話はね、考えなければ良いのよ? それよりは明日に備えて先ずは腹ごしらえよ? 腹が減っては戦が出来ぬってことわざ知らないの?」


プリムラはメグミの言葉に目を丸くしてる、そのプリムラを放置してノリコは、


「夜九時以降にあまり食べると太るわよ? メグミちゃん」


「大丈夫よ、明日運動すればその分は食べても平気よ」


「ふぅ、ねえアイ、ヤヨイ、僕は間違っているのかな?」


「大丈夫ですよ、プリムラ様、この子達が少しアレなだけです」


「私は最初から、心配し過ぎと申し上げましたよ?」


「そうだったね、メグミちゃん、話は終わりだもう帰っても良いよ」


「やった! じゃあ皆、おうちに帰ろう!」


メグミは嬉しそうに笑う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る