第69話お買い物

 『ママ』に叱られて、その後は、じゃれ合うことなくお風呂を済ませた女性陣は、部屋着に着替えて自分達の部屋に戻って行った。打ち上げに来ていく服を選んでいるのだろう。

 メグミはと言えばお風呂から上がるとリビングに直行し、そのままソファーで寛いでいた。昔はソックスが居た為、こんな時は良くモフって時間を潰していたが、今は大きくなりすぎて街の農園で見張りのアルバイト兼預かって貰っている為暇である。仕方なしにソファーに居たプリンを胸に抱いてフニフニしている。するとお風呂から出てきたタツオが、


「あれ? お前は着替えないのか?」


「タツオは馬鹿なの? 着替えたじゃない見てわからないの?」


「イヤ、まあ着替えては居るな」


メグミの今格好は、何時もレザーアーマーの下に来ているものと一緒だ、今日はカーキ色の長そでTシャツに、こげ茶の7分丈のパンツと言った極めてシンプルないでたちだった。これでも一応傷んでいない新品を下ろしたのだ。


「他にお金一杯使っちゃったから、服がないのよ、悪い? 大体時期が悪いわよ、5月よ5月! 寒くもなく熱くもない、こんな半端な時期に着る服なんて買い揃えてるわけないでしょ?」


 そうメグミだって女の子である、オシャレな服だって着たいが如何せんそれをする為の資金が無かった。家の家賃、リフォーム代の分割返済、『カナ』の製作費、色々方々から支援してもらっていても、オシャレに回すお金は一切捻出できていない。それどころかノリコやサアヤには少しばかりお金を借りて『カナ』の製作費の足しにしている。


「『カナ』の製作費か? ふーむ、何なら今から服買いに行くか? 時間あるだろ、奢ってやるよ、剣も作ってもらったしな」


「良いわよ、代金は既に貰い過ぎだもの、奢ってもらう理由が無いわ」


タツオは太刀『蛍』の代金にポンと百万円を出した、正直、前回のコボルトロードはタツオも討伐に参加している為、コボルトロードの討伐費用の1/4はタツオの物だと思っているメグミであるが、タツオは頑としてそれを認めない、『蛍』だって無料で良いとメグミは言ったが、


「何言ってやがる、百万じゃあ安すぎるかも知れねえが、黙って受け取れ」


 そんなことを言って取り合って貰えない。正直メグミが散財し過ぎていた為、現在のこの家の家計に百万円は大助かりだ、家計のやり繰りに頭を悩ませていた『ママ』は本当に喜んだ。

 その上で更に奢るとまで言われても、それは貰い過ぎだ、しかもメグミだけにとなると、それは他の2人と、3等分する筈のお金を独り占めするような物だろう……


「お前は、妙なところで律義だな? 何時もは傍若無人な癖に、遠慮するなよ、『蛍』の代金の追加だ、使って分かったがアレに百万は本当に安すぎたと思ってるんだ」


「むぅ、この格好でも構わないでしょ? 一応予備の新品を下ろしたのよ?」


「けどな、5月とは言え、夜は冷えるぜ? 少し薄着すぎだろそれじゃあ、俺も何か上着が欲しいが持ってねえ、こっちに来てからこの時期に出歩くことが無かったからな。俺の買い物に付き合えよ、服を見立ててくれりゃあ良い、お前の服はそのお礼だな」


 そんなやり取りをしているとキッチンから『ママ』がリビングに来ながら、


「メグミちゃん、確かにその恰好じゃあ夜は寒いわよ? 私がみんなには伝えておくから行ってきなさい」


「けどノリネエだってそんなに服揃えれて無いでしょ? 私だけって訳にはいかないわ」


「ノリコには私の服も貸してあるから平気よ、サイズはほぼ一緒なのよ、貴方だけなのよ服が少ないのは」


 ノリコは巨乳であるが、『ママ』も負けていない、そして確かに背丈を含めてスタイルは似ている、若干『ママ』の方がお尻が大きいしウエストも太そうだが、今それを言ったら『ママ』に殺される。その位はメグミにも理解できた。

 そして『ママ』は前のこの家の住人の趣味で、メイド服他、衣装を異常に持っているのだ、広い一階の『ママ』の部屋は大半が衣装で埋まっている。元々は現在の地下の工房兼研究室の所に大量に保存してあったのだが、リフォームを機に『ママ』の部屋に上げた。『ママ』は精霊なのでほとんど眠る必要がない為、自分の部屋は必要ないといったが、部屋は余っているのである。地下に衣装だけの部屋を宛がう必要が何処にあろう? 3人で説得して今の部屋を休憩所兼私物置き場として使ってもらった。『ママ』の衣装は、元のボロボロの家屋に在って、そこだけが唯一劣化を免れていた地下の衣裳部屋に保存されていた。強力な保護の魔道具が設置されていたのだ。前の住人も『ママ』を大切にそして愛していたのだろう。今は一応寝なくても夜にはお風呂に入って寝間着に着替えてもらい、ベットで横になって休んでもらっている。それでも一番早く起きて、一番遅くまで起きているのが『ママ』なのであるが……


「ほら、メグミ行くぞ、『ママ』さんの言うことは聞いとけ、な?」


「ううぅ、まあ今回は甘えておくわ、じゃあ『ママ』行ってくるわね」


「はい、行ってらっしゃい、そのまま集合する店に向かう? 一度帰ってくる?」


「どうする?」


「んーーん、戻る時間まで要れると選んでる時間がねえな、そのまま向かえば良いだろ、場所は俺が知ってるし」


「じゃあそれで、『ママ』、直で店に向かうわ、そう伝えて、ってタツオ良く店の場所知ってるわね」


「ん? ああ、前にアキヒロさんやノブヒコ達と一緒に行ったからな」


「そうなんだ、じゃあ安心ね」


「おう、任せろ!」


 メグミとタツオは連れ立って家を後にした。タツオの後ろを付いていきながら暫くしてメグミは気が付いたが、


(あれ? これはアカリさんが激怒するんじゃない?)


そう思ったが、まあ、今更だし、なるようになってしまえ! と大人しくタツオについて歩くのだった。

 前を歩くタツオは薄手のカーキ色の麻のニットに黒いTシャツを合わせ、下はこげ茶のスラックス、靴はこれもこげ茶の皮で出来たスニーカーの様なのを履いていた。背が高く肩幅が有り足も長い、スタイルの良いタツオは、まあ何を着ても大体着こなすだろう。男性に全く興味がないメグミから見てもタツオはカッコいい部類の男子だろう、もう少し顔が穏やかならさぞモテたと思うが、如何せん眼つきが鋭すぎる。今日の格好も一寸金持ってるヤンキーにしか見えない。

 そんなタツオではあるが、歩幅の全く違うメグミに合わせてゆっくり歩いてくれている、メグミは女性のわりにシャキシャキ歩くのだが、足の長さの違いだろうか? 普通にタツオが歩くと置いて行かれるだろう。


(ふむ、タツオのくせにエスコートし慣れているわね? 生意気な! ああ、妹さんが居るんだったわ、なるほど妹に仕込まれたのか)


そんな事を思いながら歩いていると、少し歩くのが遅くなったのか置いて行かれた、すると気づいたタツオが立ち止まり、


「ん? どうした?」


 訝し気に聞いてくる、


「あんた妹さんと良く出かけたの?」


「へ? ああ、まあな。よく荷物持ちさせられたな、懐いてくれて可愛いんだが、便利に使われるのはな、まあ良いけどな」


「あんたもお兄ちゃんだったのね、ねえ私も『お兄ちゃん』って呼んであげようか?」


「やめろよ気色悪い、それに俺の妹はもっと年下だ、多分もう10歳になってるんだろうな、まあその位だ、それに義理の妹はノリコとサアヤで間に合ってる」


「サアヤは兎も角、ノリネエが良くて私がダメなのが納得いかないわね」


「精神年齢だ!」


「ああ、それは納得ね」


「ほれ、納得したんなら行くぞ!」


 タツオは冒険者通り(迷宮から冒険者組合事務所前を通り市街外壁まで伸びる大きな通り)に面したカジュアルな女性服専門店にメグミを案内した、一般服はメイン通り(外壁南の正門から迷宮まで伸びる通り)に有るのが普通なのに、この店は一般服なのに冒険者相手の店が多い、冒険者通りに有る。結構珍しい、少し外壁に近いことも有り、メグミはこの店の存在を知らなかった。タツオが知っているのが不思議だったが、恐らくノブヒコ辺りが教えたのかもしれない、


「ねえタツオ、アンタが着れる様なサイズの服はこの店にはないわよ?」


「おまえワザと言ってるだろ? 良いんだよ、先ずはお前の服からだ、お前の方が時間掛かるだろ選ぶのに、俺はこの上に黒か茶色のスタンダードなジャケットで良いから選ぶのは早え、大体サイズがな、俺の場合限られるから迷うほど数がねえ」


(なら見立てのお礼、って名目の私の服はどうなるのよ? 見立てられないじゃない)


 そうメグミは思ったが流石に折角気を使ってるタツオにそこまで無神経には出来ない、


「そう? じゃあ遠慮なく先に選ばせてもらうわ」


「おう、好きなの選べ」


 さらっと店のドアもタツオが開けてくれる。


(妹さん仕込み過ぎじゃない? こんど女の子とデートする時に私もやろう)


 そう思いタツオを参考にすることにした。店に入ると店員が、


「いらっしゃいませー、どんな服をお探しでしょう?」


 明るく声を掛けてくる、この店員さん、明るいブラウン色の肌触りの良さそうな軽そうな生地で出来た肩口が大きく開いた上着に、白のワイドパンツを合わせている、上着の大きな帯の様な紐を胸の下でふんわりと結んだのが良い感じでアクセントとなっている、ヒールが高めのオシャレなサンダルを合わせて、ザ・アパレル店員って感じのオシャレさんだ。ロングな髪にパーマを当てて軽くウェーブさせて、色も明るめに染めているのか少し茶色い、顔のパーツも大きくクッキリしていて愛嬌のある顔にクッキリメイクした美人さんだ。

 メグミは自分の格好を思い浮かべて少し気遅れがする、オシャレなお店に、地味でシンプルな出で立ちの自分、実用重視で、靴も最初にこの異世界で貰った皮の靴だ。オシャレ等とは程遠い。顔はすっぴんだ。

 タツオがメグミの横に並ぶと、その店員さんが、


「素敵な彼氏ですね、羨ましい♪」


 お世辞の心算つもりなのかそんな事を言う、メグミは曖昧に、アハハと微笑んで、


「上に何か羽織るもの探してます、どこら辺にありますか?」


 店員に聞くと、


「そうですね、その服に合わせるなら……」


 店員が言いかけると、


「いや、全部コーディネイトしてくれ、靴も置いてあるんだろ? 全身で良い」


 タツオが言い出す、


「あんた何言ってるのよ? 上着だけって言ったじゃない!」


「俺が金出すんだ、多少は俺の意見も取り入れろ! ん? ああ、いいんだ、こいつの言うことは気にしないでくれ店員さん、全身だ、何かこいつに良い感じで似合いそうなのを幾つか見繕ってくれ」


 勝手に話を進めてしまう、店員さんはニコニコしながら、


「まあ、有難うございます、では最近の流行と彼女さんに合わせて幾つか提案させていただきますね。この後何かご予定が有りますか? それに合わせて提案させていただきますが?


「この後、冒険者仲間と打ち上げだ、そんなに格式ばった物じゃないカジュアルな飲み会みたいなものだ、女の参加者も多い、まあそんな感じでたのまあ」


「かしこまりました、暫くお待ちくださいね! ねえ! ヨシコちゃん、彼女さんのサイズの測定をお願い! そう靴のサイズも一緒に測定してね」


と奥に居る店員にも声を掛ける。すると奥からふんわりとした白いブラウスに、青いサラサラとした生地のワイドパンツを履いた店員が寄ってくる。


「はい、さあ、彼女さんは私と此方に、彼氏さんも一緒にどうぞ、試着室の前に椅子が有るので掛けてお待ちください」


 あの? え? とか抗議の声を上げようとするメグミの手を引いて強引に試着室に連れ込まれてしまった。 


「カッコいい彼氏さんですね、それに優しい、幸せ者ですね彼女さんは」


 ヨシコと呼ばれた店員のお姉さんはメグミの服を脱がせながら言ってくる。


「彼氏じゃありませんよ? 勘違いです」


「まあ酷い、いい彼氏じゃないですか? あんなに良くしてくれているのに、贅沢言ってると罰が当たりますよ」


 お茶目に少し怒ったような顔をしてくる、メグミは、


(なんだろうこの状況? なんでこうなった? くそうタツオめ! なんで私があんたの彼女扱いされなきゃいけないのよ!)


 そこでメグミは良いことを(?)を思いついた、


「彼氏じゃありませんよ、お兄ちゃんなんです」


「あら? そうなの、ごめんなさいね、私てっきり……そうなの素的なお兄さんですね、私もあんな素敵なお兄さん欲しかったわ、と、脱げましたね、ではお測りしますね、ん? ブラが少し合っていませんよ? 小さいですね、どうします? ブラも置いてますよ? お測りして幾つか持ってきましょうか?」


「そうかしら? そうなの? 上のサイズにはもうちょっと余裕が有るってこの間言われたんだけど」


「お客様はまだ成長期ですからね、それにバストサイズは変わりやすいんですよ? 服のシルエットを整える意味でも、ちゃんとした適正なサイズを一つ持っているのは良いことですよ、如何しますか?」


「うーーん、ま、いっか、じゃあお願いします」


「ではブラの方も外させて頂きますね、あら? お客様美乳ですね、凄く綺麗」


「褒めても何も出ませんよ? けどありがとう」


「ではお測りしますね、腕を上げて頂けますか?」


 測定が始まる、試着室の外ではタツオに最初の店員が、


「こんな感じはいかがでしょう? これでしたら彼女さんによくお似合いですよ?」


「ん? ああ、そうだな、そんなのもいいかもな、けどあれだな、あいつパンツスタイルばっかりだからな、もう少し女の子っぽいのも見繕ってやってくれ」


「承知いたしました。ではその辺も考慮して数点コーディネイトしてみます。もうしばらくお待ちください」


それをカーテン越しに聞きながら、


(あいつは私にどんな格好がさせたいんだ! くそう、タツオめ調子に乗りやがって)


 そんな事を思っていたが、測定中のヨシコお姉さんは笑いながら、


「本当に仲のいい、素敵なお兄さんですね、そうですよね、お客様は素材が良いですからね、女の子っぽい恰好も大変似合うと思いますよ? 普段パンツスタイルばっかりは勿体ないですよ」


「でも私、冒険者だしね、やっぱり動きやすい恰好じゃないと」


「普段着は別ですよ? 私もたまに迷宮に潜りますけど、その時は動きやすい、丈夫な服を着ます、でもそれ以外だとこんな感じですよ? 女の子なんですから、オシャレも忘れちゃだめですよ。お兄さんが心配してるじゃないですか」


「あれ? そうなのね、お姉さんも冒険者なんだ、そうか……私もこっちに来てから必死だったから、オシャレにまで気が回らないのよね」


「あれ? ご兄弟で召喚されたんですか?」


「あっ……っと、今のはえーーと……」


「騙してましたね、ダメですよ、メッ! 冒険者仲間のかな? 彼氏さんも、そうよね強そうですものね」


 メグミは自分の詰めの甘さを呪った、タツオに復讐できると思ったのに直ぐにバレてしまった。


「はい測定終わりましたよ、では下着から持ってきますね、サイズに合うのを幾つか持ってきますけど、色の希望とかありますか?」


「ん? んーーん、そうだ! 表のアイツに聞いてみてよ、私はそれでいいわ」


「まあ、健気ですね、彼氏の好みに合わせるなんて、焼けちゃうわ」


「まあ、ああ、そんな所です、そうですね、サイズさえ合えば私は何でもいいから、アイツの好みで持ってきてくださいね」


「あっ、そういうことですか、彼女さんは悪戯好きですね、まあ良いです、その悪戯協力してあげます」


 そう言って悪戯っぽく笑いながら、するりと2重に合わせたカーテンの隙間から表に出ていく、メグミが耳をそばてると、


「彼氏さん、少し良いですか? ちょっと選んで頂きたいものが御座いまして」


「ん? あいつの好みの物とか俺には分からねえぞ?」


「ああ、それは大丈夫です、貴方の好みで選んで構わないと言われてますので、ではこちらに」


「まあそれなら構わねえが、何だ? 靴か?」


 ヨシコお姉さんに連れていかれているのか足音が遠ざかる、すると、


「なっ!! えっ? いや……あの店員さんよこれは!!」


 タツオの驚く声が聞こえてくる、メグミは更衣室の中でガッツポーズをした、


「はい少しサイズが合わないようでしたので、一緒に如何いかがかと、御止めになりますか?」


「いや、あの、あれだな、サイズが合わないんじゃ仕方ねえな、でもよ俺にこれを選ばせるのか?」


「彼女さんのサイズですとこの辺りの物なら全て揃えてあります、彼氏の希望に合わせると仰ってますので、お好みでお選びください」


「なあ? 店員の姉さんよ? 俺に、男の俺にこれを選ばせるのか? なあ、アンタもあいつとグルだな? なあ金を出すのは俺だぜ? 少しは俺に味方してくれても良いんじゃねえか?」


「流石に放置したりは致しませんよ、そうですね春夏物の服ですからね、この辺りが表に響かなくてお勧めですよ? 如何ですか?」


「ううぅ、店員さんに任せたらダメか?」


「そこは彼氏さんのお好みでとのオーダーでしたので、そうですね幾つかお選び致しますので、その中からお好みの物を仰ってください、色は如何いたしましょうか?」


「それも任せるよ、幾つか良さそうなのを上げてくれ、畜生メグミの奴俺に何の恨みがあるんだ!」


「良いじゃありませんか、微笑ましい、貴方に脱がせてもらう下着なんですから、選んで貰って貴方の好みが知りたいんでしょ? 健気じゃないですか」


「くぅ、脱がしたりしねえから、適当にちゃっちゃと頼む、後生だから! この場に男が居るのは拷問だぜ?」


「まあ、初心なのね、初々しいわ、本当に羨ましい、ふふ、ではこの5点でどれが一番よろしいですか?」


「おうっ、くぅ、あんまりこっちに寄せるな、なんだこの羞恥プレイは、ああっと、これなんて良いんじゃねえか? どう思うよ?」


「趣味が大変良いと思いますよ、そうですね、彼女さんにもよくお似合いでしょう、これはですね、ここの……」


「いや! いいから!! 説明とかいらねえから! それでいいだろ?」


「もうちょっと楽しみませんか?」


「楽しくねえから! 辛れえから! 勘弁してくれ!」


「限界のようですね、残念です、ではこちらを着ていただきますね、着終わったらご一緒にご覧になられますか?」


ニヤニヤとそのやり取りを聞いていたメグミはその一言に固まった。


(なっ!! 裏切った! 裏切りましたねヨシコお姉さん!)


その瞬間、タツオがニヤリと笑ったのが目に見えるようだった、


「んーん、そうだな、そうしようか、アイツに如何どうしたいか尋ねてくれ! 俺は構わねえぜ、何せ俺が選んだんだ、その結果は確かめねえとな!」


「絶対にノウッ!! ダメに決まってるでしょう!!」


 更衣室の中からメグミは叫んだ。


 足音がして二人が更衣室の前に戻ってきたのが分かる、トスッっと音がしたのでタツオが椅子に座ったのだろう、カーテンが揺れてヨシコお姉さんが下着と共に更衣室に入ってくる。


「お姉さんっ、酷い、裏切りましたね!」


「でもね、流石に気の毒になる位、顔が真っ赤だったのよ、少し可哀そうになっちゃった」


「だからって、アレは如何どうなんですか?」


「あら? よくあるのよ? 見ればわかると思うけどこの更衣室広いでしょ? それに更衣室の前に椅子だって設置してるのよ? よく女の子が彼氏と一緒に買い物に来るのよ、このお店」


「え? じゃあ下着を彼氏に確認させたりとかも?」


「まあ、頻繁にってわけじゃあないけど、あるわよ普通に」


「リア充爆発しろ!!」


「貴方がそれを言うの? もう、あんな素敵な彼氏がいるのに、なんて贅沢な、勿体ないお化けがでるわよ?」


「良いんです、アレは彼氏じゃないんです、私はどっちかって言うと彼女が欲しいんです」


「えっ……ええええ!!」


 驚くヨシコお姉さんはドン引きだ、


「まあ、そう言うことです、それがタツオの選んだ下着ですか?」


 それはレースは多いが透けてない、裏に透けないように布のあるタイプの可愛い下着だった。色はレース部分がほんのり桜色と布部分が薄いベージュの2色使いの綺麗な下着だった。


(タツオにしては中々良い趣味ね、ヨシコお姉さんのチョイスが良かったのかもしれないけど……けど高そうな下着ね)


「お姉さん因みにちなみにこれのお値段は?」


「彼氏さん良い趣味よね? 値段? それは聞いちゃだめよ、彼氏さんには見せて了解を頂いてるわ、ほら上下揃いですからね、下も着替えて、ちょっと私でているから下が着れたら呼んでね、上はお姉さんがちゃんとした着方を教えてあげる」


「ううぅ、分かりましたじゃあ着ますね」


 お姉さんが外に出るとショーツから着替える、着てみると思った以上に着心地が良い、レースの部分はツルツルとして滑らかで、布の部分も非常に肌触りが良い、この辺は本当にこの異世界は凄い、今までもかぶれた事もないし、本当にどんな素材できているのだろう、こんなにレースも使ってるのに伸縮性もありレース部分も伸びているようだ。声を掛けるとカーテンの向こうに居たのかヨシコは直ぐに入ってきた。


「あら、良く似合うわ、彼氏さん見れなくて残念ね」


「いいから、上をお願いします」


「彼女さん、最近胸が大きく成って来たでしょ? 少しブラの着方が雑よ? ほら少し前に屈んで、そう、でこのブラの下側を胸の下にきちっと当ててそのまま維持して手をずらしてホックを後ろで止める。上手いわよ、偶にたまに体が硬くて出来ない子が居るけど貴方体柔らかいわね、でカップに入れながらストラップをちゃんと肩に掛ける、まだ起きちゃだめよ? そう両側出来たらそのままここに、ちょっと手を入れるわね、ここから手を入れて、で全体を包みながら中央に寄せるように引き上げて、どう? ん、良い感じね、反対側はちょっと自分でやってみて、そう上手いわ、良い感じね。では起き上がって、んーん、そうね少しストラップを調整しましょうか、んーーと、良いわこんな感じね、どう? 違和感わない? やっぱりサイズはこれで丁度ね、ほら鏡をみて、綺麗なシルエット、肉が余ってないわ、スッキリしたでしょ?」


「わぉ、凄い、私の胸じゃないみたい、これならもうちっぱいじゃないわね」


「それで小さいとか言ったら色々敵を作るわよ? 日本人なら十分よサイズ的には、本当に見せなくて良いの? 綺麗よとても、良い趣味してるわ、本当によく似合ってる」


「見せなくて良いです、それより服は?」


「終わったの? ヨシコちゃん」


「はい、終わりました、マサコさんどうぞ」


 マサコと呼ばれた最初の店員が服を上下5着ほどもって入ってくる。


「さっ、此処ここからは御着替えして彼氏さんにも見せないとね♪」


「ほらサクサク着替えましょうね」


「分かりました自分で着れますよ」


「まあまあ、お姉さんたちに任せて!」


 そこからメグミの一人ファッションショーが始まった。

 5着試したが、結局タツオの受けが一番良かった淡いラベンダー色のロングスカートに、肩の大きく開いたアイボリーのニットになった、ニットは袖がふんわりと緩くて女の子らしい、靴もそれに合わせてヒールのあまり高くないラベンダー色の物を選んだ。それにカーキ色のレースの入ったショールを肩に羽織れば、メグミが自分でも驚く位、女の子らしくなった。お姉さん達が張り切ってメグミに薄っすらと化粧して、髪を漉いて、額のサイドに前髪から三つ編みを編み込んでくれたので、本当に普段と別人のようだ。タツオと店員のお姉さん二人はメグミの前で3人そろって、ウンウンと頷いている。本当に一体トータル幾らしたのかはタツオもお姉さん達も頑として口を割らない。着替えた服を紙袋に入れてもらい、それと靴を『収納魔法』で仕舞って店を出る。出るときもタツオはきちんとドアを開けてエスコートしてくれる。妹さんの教育の成果が如何なく発揮されているようだ。

 結構時間が掛かってしまったため、その後急いでタツオの上着を買いに行く、そのままタツオについていくと、また扉を開けてくれて店に入る、タツオは馴染みの店なのか慣れた様子で店員と話して、3着ほど候補の上着を持ってきてもらうと、


「どれがいい?」


 そうメグミに聞いてくる、


「取り合えず着て観なさいよ、3着でしょ?」


そう返すと、さっそく一着づつ着ていく、店員のお兄さんと並んでメグミはそれを眺めながら、


「うーーん、2着目かな? どう思うお兄さん、1着目も捨てがたいけど」


「彼女さんの好みで良いと思うぜ? タツオはスタイルがいいからな、どれでも良く似合う、まあ俺も2着目かな? 1着目は遊び心が無さ過ぎだな無難すぎるぜ」


「そうね、2着目が良いわね、どう? タツオ」


もう彼女認定を否定するのも面倒になったメグミが問いかける、


「おう、ならこれで頼む」


 タツオは即決だ、そのメグミの選んだ、こげ茶の布の縫い合わせのラインが面白いジャケットをタツオが買う。

 メグミは時間が気になったがタツオは焦る様子もなく歩いていく、冒険者通りから少し外れて、飲み屋の多い通りに入っていくと、比較的落ち着いた雰囲気の店屋が多い街の一角に『黄金の子羊』亭は有った。すると丁度、店の前にヒトシ達『暁』のメンバーが居た、


「おう、ヒトシさんじゃねえか、アンタらも今来たところか?」


 気易い感じでタツオが声を掛けると、ヒトシも、


「ん? ああ、タツオか、お前、普段着だとモデル見てえだな、眼つき以外は」


「ほっとけよ、眼つきは生まれつきだよ」


「なあ、誰だその可愛い子ちゃん、見せつけてくれるねえ」


 シンイチがタツオを揶揄いからかい


「なんだよ、タツオ、女ばかりのパーティで更に彼女持ちだと? 死ねよ、リア充爆発しろや!」


 レンが睨みつける、


「ふっ、本当に許せませんね、そんなことしてるとメグミちゃんとアカリちゃんに言いつけますよ?」


 コウイチが眼鏡をキラリと光らせる、


「ダメだなあタツオ、浮気はダメだよ、もう少し硬派だと思ってたんだけどな僕」


 タイチまで少しタツオに食って掛かってる、タツオは頭にクエスチョンマークを盛大に浮かべながら、


「何言ってんだあんたら? なあメグミこいつらからかってんのか?」


「さあ? 失礼な事を言われてることだけは分かるわ」


 低くい怒りを湛えた声で答えると、『暁』のメンバーは一斉に、


「「「「「「あんた誰だ!!」」」」」」


と叫んだ。

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