第14話 これからずっとよろしくお願いいたします

 とうとう、とうとうユキさんとキスしてしまったよ。それも口と口のキス。俺としては日本で生きていた頃に結婚もして孫までいたわけだから完全なる初体験と言えるのかどうかは疑問だが、少なくともこっちの世界ではファーストキスになる。それが大好きなユキさんとだったのだから喜びも一入ひとしおというわけだ。最初ってこんなに嬉しいものだったっけ。そんなことを考えながら初々しい喜びに、記憶と感覚のギャップも楽しいものだと思った。


「ユキさん、俺なんかすごく嬉しいよ」

「そ、そうですか……ヒコザ先輩……」

「うん?」

「あの……もう一度、お願い出来ますか?」


 俺はその時ユキさんを抱きしめる力を少し緩めていたのだが、彼女がなかなか離れようとしなかったので腕を背中に回したままだった。そこにユキさんのこの言葉である。もう一度って、もう一度キスしてほしいってことだよね。


「うん、目を閉じてくれるかな」


 予想もしなかった反応だったが俺に断る理由はない。というかむしろ何度でも繰り返したいくらいである。俺はユキさんを抱きしめる腕に力をこめ、再び唇を重ね合わせた。彼女の口が半開きになったので今度は軽く舌も絡ませてみる。そのキスは一度目よりはるかに長くはるかに情熱的で、互いが互いを夢中で求め合うという感じだった。


 そこで俺は背中から右腕をほどき、ユキさんの胸に触れてみることにした。俺の手が彼女の左胸を包み込んだ瞬間、彼女の体が弾けるようにビクンとする。柔らかくて弾力のある大きめの膨らみがてのひらの中で踊り、俺は愛おしさも相まって何度も撫でたり揉んだりしていた。それでもユキさんは逃げようともせず、触れ合った唇を離すことも絡めた舌を引っ込めることもない。そのまましばらく俺に胸を触ることを許してくれていたのである。


 時間にしてどれくらいだったのかはよく分からない。ただ俺がキスしたまま胸を触り続けたせいか、ユキさんの体から力が抜けて支えなければ立っていられなくなってしまったようである。まだ胸の感触が名残惜しかったが、俺は右腕を戻して両腕でユキさんを抱き支え、程なくして燃え上がるようなキスも終わりを告げた。


「ヒコザ先輩……急にあんなことするから体に力が入りません……」

「ビックリしちゃったよね。大丈夫だよ、支えるから」

「はい、でも……体が熱くて……」


 ここで俺たちはようやく密着した互いの体を離した。とは言ってもユキさんを支える手を離したわけではない。ほんのわずかに二人の間に空間が出来たが、ユキさんも半歩下がっただけでそれ以上俺から離れようとはしなかった。今後俺たちの距離感ってこんな風になるのかな。ちょっとこそばゆいけど青春真っただ中って感じがしていい気分である。そしてユキさんの顔は相変わらず真っ赤になったままだ。


「ユキさん、ありがとう」

「いえ、こちらこそ……」


 心から俺はそう思えた。目の前の女の子は飛びっきり可愛くて年齢は一つ下、だが剣術の達人であり貴族の令嬢でもある。そんな彼女が平民の出の、今でこそ国王陛下直属の騎士ナイトという称号を持ってはいるものの、取り立てて何の特技もない俺に身を任せてくれたのだ。


 思えば最初にアヤカ姫殿下の裳着もぎの式典祭で出会って一目惚れ以来、ユキさんとは色々な出来事を経験してきたような気がする。だがそれもこれも、今日こうして新たな一歩を踏み出せたことにより実を結んだと考えてもいいのではないだろうか。そして俺はここで改めて言おうと思う。今度こそユキさんも断ったりはしないはずだ。


「ユキさん、お願いがあるんだ」

「お願い? 何ですか?」

「俺と……俺と正式に付き合ってほしい。俺の彼女になってほしいんだ」

「……」


 しばらくの沈黙が二人の間に流れた。ユキさんは目を潤ませ、それでもうつむくことなく俺の目をじっと見つめている。


「本気で……本気でそう思っているのですか?」

「当然だよ。俺は今までだってずっと本気だったんだから。ユキさんは信じてくれてなかったみたいだけど」

「私が一番だって……そう信じていいんですね?」

「もちろんだよ。ユキさんが一番に決まってるじゃないか」


 俺がそう言うとユキさんの瞳から涙が溢れ出てきた。それでもユキさんは涙を拭おうともせず、目を大きく見開いたままニッコリと微笑んでくれた。


「分かりました。信じます。これからずっとよろしくお願いいたします」


 ユキさんはそう応えて俺の隣にぴょんと立ち、両腕で俺の左腕を抱きしめるようにして絡みついてきた。これからずっと、そう言った彼女の言葉に俺は改めて喜びをか噛みしめるのだった。

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