第十四夜:「教会買うよ機」でメリー・クリスマス?

 こんな夢を見た。


「トラえも~ん!」

 顔の周囲に涙を散らしながら、とじ太が帰宅する。

「どうしたの?とじ太くん。」

「ズビ夫のクリスマスパーティに、ぼくだけが……」

 トラえもんに泣きつくとじ太である。

「ぼくだけが、さそわれなかったんだ!うわァ~!」

 トラえもんが呆れた表情でなだめる。

「いいじゃないか。そもそも、とじ太くんはクリスチャンじゃないんだし。」

「クリスチャン?」

「クリスマスっていうのは、キリスト教のおいわいなんだ。だから、そもそもとじ太くんには関係のない行事なんだよ。そうだろう?」

「でも、ぼくだってプレゼントをもらったり、ケーキを食べたりしてみたいよ。うわァ~ん!」

 このようなわがままは毎度のことであり、お約束的な展開である。

「やれやれ、しかたがない。」

 トラえもんは背中のチャックに手を伸ばして、未来世界のひみつ回文機器を取り出す。

 カメラと電卓と十字架が混ざったようなアイテムである。

「何これ?」

「教会買うよ機。このカメラでとらえた教会を、いくらで買えるか示してくれる機器なんだ。そのぶんだけのお金を入れれば買える。」

「それと、クリスマスパーティと何の関係があるの?」

「教会そのものをやすく買えば、そこでズビ夫のパーティよりもずっとほんかく的なクリスマスパーティができるってこと。」

「でも、買えるのかな?」

「未来の日本円っていうのは、ほとんどだれも使わなくなるんだ。だから逆にコインの価値が高くなって、マニアの間では今の1円玉が二千万円くらいになってる。ということは……」

 とじ太の頭上で豆電球が輝く。

「ぼくのポケットにある10円玉でも?」

「じゅうぶんに買えるってこと。」

「やった!」


 早速、町へと繰り出す一人と一ロボットである。

「ところで……教会ってどこにあるんだっけ。」

「やれやれ、しかたがない。」

 またもやトラえもんが背中から取り出したのは、カメラにマイクが接続されたような形のアイテムである。

「木指し。行きたい場所をだれかに聞くと、その場所にいちばん近い木を指してくれる。」

「その指のへ先へとすすんでいけば、行きたい場所につけるんだね。」

「そのとおり。」

 蛸のような顔をしたおじさんが歩いてくる。

「さっそく、あのおじさんでやってみよう。」

「?」

 おじさんにカメラを向けて、

「このあたりから、いちばん近くの教会はどこですか?」

 とマイクで尋ねると、おじさんは彼方の山の杉の木を指で示す。

「あんなに遠いところへ?」

「そう言うと思った。」

 またもやトラえもんが出した回文機器は、両脇に小さな羽根のついた靴である。

「飛びっ靴びと。この靴をはけば、目に見える範囲でどこでも飛んでいける。」

「ワー!便利!さっそくはいてみよう。」

 興奮したとじ太はもう靴に片足を入れて、やる気満々である。

 と、そこへ妖艶な豹型ロボットのヒョウ奈さんが通りかかる。

「あら、トラちゃんじゃない。」

「ヒョウ奈さん!」

 トラえもんは目玉がハートの形になり、色も黄色からピンクへと変色している。

「あたし、クリスマスはキリスト教徒だけが楽しむべきっていう、せまい考えかたが大きらいなの。」

「そう!ヒョウ奈さんの言うとおり!」

「じゃ、いっしょにパーティへ行きましょ。」

「行きましょ、行きましょ。」

 トラえもんはヒョウ奈さんと出かけてしまう。


 一方、こちらは「飛びっ靴びと」を履いてジャンプし、泥だらけの沼に着地、いや体ごと沈没したとじ太である。

 やっと泥沼から這い出したとじ太の目の前には、大きな一本の杉の木が立っていた。その脇には、黒いガラクタを寄せ集めて作ったような、ボロい掘っ立て小屋風の教会がある。

「おお!伝説のとおり!黒い泥の英雄よ!」

 黒いスーツに黒いシャツ、黒いネクタイの男がとじ太を見つけ、大喜びで駆け寄ってくる。

「ぼくが?」

「この教会は、あなたのような方をお待ちしていたのですぞ!」

「よし、じゃあさっそく……」

 と、教会買うよ機で教会をとらえるとじ太。

“カシャ”

 という音とともに、

「10円デス」

 と、画面に価格が表示される。

「よし、この教会買うよ!」

 とじ太が機械に10円玉を入れると、

“パンパカパーン”

 というファンファーレの音とともに、

「アナタノ モノニ ナリマシタ」

 と文字が出てくる。

「おお!英雄にして、この教会のオーナー、とじ太さま!」

 黒いスーツの男はますます喜んで、

「さあ、中をごあんないしましょう。」

 と扉を開けて中へと促す。


 一方のトラえもんは、やつれ果てた表情でフラフラ歩いている。

「まさか、ヒョウ科学会の集まりに連れて行かれるとは……」

 あやしげなパーティから、必死で逃げてきたのである。

  「たしか、このあたりから……」

 キョロキョロしながら、とじ太と別れた地点まで戻ってきた。


 教会の広間では、黒いサンタ像や、橇をひく黒い狼の人形、太鼓、マラカス、藁でできた精霊像、黒く塗られた聖書が教徒らによって設置されている。黒いリボンの飾りつけや、飲み食いのナイフやフォーク、食器の用意も行われている。

 もうすぐパーティが始まるのである。

 とじ太はその様子を見て、

「どうして、どれもこれもまっ黒に?」

 と尋ねる。

「われわれは何でも、黒くせよという教えに従っているのですぞ。服もまっ黒で、壁もまっ黒、肌も日やけサロンで焼くのです。それに、サンタ黒ースというではありませんか。」

「なるほど!」

「黒い泥まみれの、とじ太さまの黒い毛をはいしゃく。」

 と言って、男はハサミで、

“チョキン”

 と、とじ太の毛を切ってしまう。

「ワッ!その毛をどうするの。」

「わが教徒のためのグッズとして、とじ太さまの毛髪いり人形を売りだすのです。女の子に大人気になりますぞ。」

  「へええ、そりゃいいや。」

 後の恐ろしい運命も知らずに、単純すぎるほど単純に喜ぶとじ太であった。


 一方、こちらは黒い沼の表面である。

“ズポ!”

 トラえもんの手が出て、やがて全身が現れた。

「ヒイ。泥まみれだ。」

 とじ太と同じコースを辿って沼へと落下したトラえもんは、やっと沼底から這い出てきたところである。

「とじ太くんはどこだろう……、ん?」

 目の前の黒い教会には「Voodoo」と黒く書かれている。

「もしかして……」

 青くなったトラえもんが、震えながら窓からこっそり覗くと、

“ドガ” “チャガ”

「メリー黒スマス!」

“ドガ” “チャガ”

「とじ太さま、ばんざい!」

“ドガ” “チャガ”

  「今日の主役、とじ太さまー!」

“ドガ” “チャガ”

 と広間は大騒ぎになっている。その輪の中心にいるのは……、他でもないとじ太であった。


 とじ太は、教徒たちに囲まれて談笑している。

「いやはや、今年のパーティの主役は、とじ太さまに決定ですぞ!」

「ぼくが?」

 満更でもなく、ニヤニヤしているとじ太。

「でも、主役って何するの?」

「毎年かならず、パーティのクライマックスでは、主役のいけにえが教徒らに黒い血と肉と、命を分け与えるのですぞ。」

「いけにえ?黒い血?」

「天から舞いおりてきた、伝説の英雄にふさわしいクライマックスですなあ。首にナイフをあてて、こうやって、かっさばくのですぞ。」

 さすがに危険な空気を感じとって、冷や汗をたらすとじ太である。

「こうして目を閉じると、おもいうかびますなあ。去年のあのようすが。」

「それを、毎年やってる?」

 青ざめて、ガタガタと震えてくるとじ太。

「そう!今年は全員一致で、とじ太さまに決定したのですぞ!」

「キャー!すてき。」

「うらやましい!」

 教徒たちは全員、立ち上がって拍手をする。

「とじ太さま!」

「われらが英雄、そしてオーナー!」

“パチパチ”

「とじ太どのー!」

「すてきー!」

“パチパチ”

「ぼ、ぼぼくは、きゅうに用事を、お、お思い出したので……。」

 こっそり、逃げようとするとじ太であった。

 背後から声がかかる。

「もうすぐ、ふっかつの祭だんのじゅんびができますぞ!」

 その声に驚いて、走って逃げようとするとじ太、しかし黒いスーツの男は、ポケットから出した人形の足を針で突っつく。

“グサ”

「痛い!痛たたたた!足が痛い!」

 転げまわっているとじ太を、教徒らがかつぎあげる。

「もう少しなのに、しかたがないな。縄でしばって、裏のものおきでまっていてもらえ。」

「へい。」


“バタン!”

 とドアが閉まり、縛られたとじ太は、物置部屋に転がっている。

 すぐにまたドアが開き、

「ここで大人しくしてろ!」

 という声と共に放り込まれたのは、縛られたトラえもんであった。

“バタン!”

「あっ、トラえもん!」

「とじ太くん!やっぱり……」

「ぼく、この教会を買ったんだよ。」

「よりによって、ブードゥー教の教会をね。」

「ブードゥー教?何それ?」

「西アフリカや中南米の民族宗教だよ。死者のふっかつを信じて、あやしげな儀式をするんだ。ここはその日本支部になっているらしい。」

「たしか、教会でとじ太人形を売り出すとか……」

「きっとそれは、のろいの人形だぞ。」

「人形くらい、べつにこわくないよ。」

「とじ太くんのかみの毛を人形にいれて、足を針でさすと、とじ太くんの足が痛くなるんだぞ。」

「ええっ!」

「頭を打てば頭が痛くなるし、人形のあたまの綿をぬけば、記憶まですっかりなくなるんだ。」

「そんな……」

“ゾ~ッ”

 という音と共に顔面蒼白となるとじ太。

「とじ太くん、まさか……?」

「知らなかったんだ!うわァ~!」

 泣き出してしまう。

「いつもの回文機器を出してよ~!」

「今日は三つ出したから、もう出せない。」

「じゃあ、明日の分からひとつ出すってのは?」

「そんなに都合よくいかないよ。」

  コマの隅がめくれて、二人組の作者も怒って憤慨の空気を頭から出している。

“プンプン”

「そんなに回文を思いつけないよ。」


 広間では、いよいよ祭壇の用意が整い、二メートルほどの高さの十字架が用意されている。

「さあ、ふっかつの儀式のじゅんびができたぞ。いけにえをつれてくるのだ。」

「へい。」

「おまたせいたしました!いよいよ本日のメイン・イベント、ふっかつの儀式でございます。」

“ワーッ”

 教徒らのある者は空の杯をかかげ、別のある者は喜んで拍手する。

「待ってました!」

“パチパチ”

「楽しみだわ。」

“パチパチ”

 そこへ教徒らにかつがれ、グルグル巻きのとじ太が、

「いやだァ~!」

 と泣きながら登壇し、黒い十字架に立てかけられる。

 黒いスーツの男は、刃渡りの長いナイフを、

“ギラリ”

 と光らせながら交差させ、すり合わせる。

「いやだァ~!」

 ますます泣きわめいて、騒ぐとじ太。

 しかし文字通り、手も足も出ない。

「なぜいやなのです?いったん死んでまた、またふっかつできるのですぞ。」


 広間の隅では、やはり縛られているトラえもんが、祭壇の様子を見ていた。

「こんなじょうたいで、とじ太くんがいけにえになるのを見ているだけとは……。」

 焦りの汗を流しつつ、 苦悩するトラえもん。

「せめて、せめて……。とじ太くんの最期の姿を、この目に焼きつけておこう。」

 意外と何もしないのである。

 しかし、ふと足元を見ると、例のとじ太人形が転がっている。

「そうだ!この人形を使って……」

 背後にまわされた手しか動かせないトラえもんが人形を拾い、テーブルの上のシャンパンに浸した。

「この人形の顔を漬ければ……、」

 せめて、酔わせて好機をうかがおうという作戦である。

 とその時、手元が、

“ツルッ”

 とすべって、落としてしまう。

「あっ!」

 人形は頭から床に落ち、

“ガンッ!!”

 と、打ちどころの悪そうな音を立てる。

 同時に、本物のとじ太の脳天にも尋常ではない衝撃が走り、目から星がいくつも飛び出した。

「ギョピェーーーーイイ!!」

 この世のものとも思えない、奇怪な叫び声が広間に響き渡った。

 酔って真っ赤になっているとじ太は、異常なまでの怪力を発揮し、

“バリッ”

 縄を引きちぎるのであった。

“ブチッ”

 信じがたい光景を目の当たりにした教徒らは驚き、逃げまどっている。

「キャー!」

「英雄の怒りだー!」

 とじ太は目玉が互い違いになり、鼻息は荒く、変な方向へ舌を出して、

「ムギョーーーー!!」

 と吠えつつ、涙をまき散らしながら暴れている。

“ドカッ”

“べキッ”

 もともと心を閉ざしがちで抑圧的な性格のため、いったん暴れ始めると手がつけられないのである。

“ボゴッ”

“バゴッ”

 あっという間に祭壇や十字架は破壊され、天井からはネズミが何匹も落ちてくる。もともとボロっちい教会は壁も天井も、ほぼ壊滅状態である。

「た、大変なことになったぞ!」

「逃げよう!」

“バズッ”

“ガズッ”

“メキメキッ”

 下っ端の教徒らはたちまち四散して教会の外へ、さらに山の奥へと逃げてゆく。


 トラえもんの前では、

「ごめんなさい。もう教会は解散して、やりなおします。」

 地べたに土下座して、黒いスーツの男も残った教徒たちも、あやまっている。

「こうかんする予定だったプレゼントも、みんなあげますから。」

「このとおりです。」

 暴れ疲れたとじ太は気絶し、倒れている。


 ――その翌朝。

「……変だなあ。黒いサンタクロースの人形やプレゼントが枕もとにたくさんあるし、頭はズキズキするし、記憶はないし……?」

「いいじゃない。ブードゥ……、じゃなかった、サンタさんからのプレゼントなんだから。」

 トラえもんが背中にまわした手で持っているのは、首のあたりの糸がほつれて、綿が少し出ているとじ太人形であった。

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