八日目③
支払いを済ませたサクヤは、土産探し巡りをしながら気持ちを落ち着かせてホテルに戻り、急いで荷物整理をはじめた。午前十時過ぎにはチェックアウトし、スーツケースをフロントに預けて最後の香港観光へと出かける。
まずは、ガイドブックや有名人の著書にも紹介されている安利へ行くため、MTR佐敦駅から地下鉄に乗り、香港島をめざす。
MTR金鐘駅で下車したサクヤは、C1地上出口を出た横のエスカレーターを上がり、渡り廊下を抜けて階段を降り、停留所に止まった路面電車に乗車した。
ディンチェーと呼んでいる香港の路面電車(トラム)は、二階建て。香港島の北岸の繁華街を東西に走り、安い料金で地上から気軽に乗車できるため、地元の人々だけでなく観光客にとっても便利だ。
香港島は、かつてイギリスが租借した島で、北部の中環や金鐘、湾仔といった町は、その頃からの繁華街である。それらの街を結ぶための公共交通機関として、一九〇四年に建設され、以来百十三年もの歴史を刻んできた。
ギギギー、ガガガと、車輪を軋ませながら路面を走る。車やバスがギリギリの車間ですれ違い、行く手を横断する人々を避けながら進んでいく。二階からの眺めは、横断する人々が視界から消えるため、まるで轢いてるような錯覚を覚えてしまう。
スピードは遅く、バスにも追い抜かれる。二百五十メートル置きに停留所があり、信号待ちでも止まるため、昼間の混雑時は時速十キロ程度しかスピードを出していない。
早朝や夜の遅い道が空いている時間帯には、時速二十キロで走行しているらしい。
「くらべたら、地下鉄が速いかな」
それでも路面電車を選んだのは、乗ってみたかったというのもあるが、やはり乗車賃の安さにあった。日本円で三十円ほどで、島の端から端まで行けてしまうのだ。
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