七日目②
一時間経過したが、トモは戻ってこない。
まさか迷子? いやいや、ありえない。ミドルトリッパーのトモが香港で迷子になるとは考えにくい。南端へまっすぐ歩く道のりのどこに迷子になる要素があるのだろう。買い物に夢中になっているだけかもしれない。
サクヤは、もう少し待つことにした。
十五分、三十分、四十分と経過しても帰ってこない。
サクヤはガラケーに表示されている時計を五分置きに見ながら待ち続け、気づけば二時間が経過した。
「トモだって大人だし大丈夫……と思うのだが」
さすがに何かしらのアクションを起こさねば、とサクヤがベッドから起き上がったときだ。
「ただいま~」
疲れた声をあげてトモが戻ってきた。荷物をテーブルにおき、ベッドに腰掛け、背中から倒れる。
サクヤは隣りに座った。
「おかえり。随分時間かかったね。滅茶苦茶混んでた?」
「そうやなくて、道を間違えて」
「え、真っ直ぐの道を、どう間違えたん?」
「ホテルと逆方向に歩いてしまってん。なかなかつかないなあ思ってたら、西九龍走廊の高架が見えて、しまった反対やと気づいて」
「北上してたのか。それはそれは……おつかれでした」
励ます言葉が見つからない。サクヤは手持ちのグルメガイドで、うちわ代わりに仰いであげる。
「高級飲茶……食べに行こ」
「そうだね。どこにする?」
サクヤは雑誌を開いてトモにみせる。見開きページには『香港飲茶の伝統を引き継ぐ歴史と人気の名店揃い・老舗飲茶』の見出しがついていた。
「滿福樓に行こう」
店を決めるや、トモは飛び起き、忘れ物がないよう荷物の確認をはじめる。彼女は午後の便で帰国する予定なのだ。
シャムロックホテルをトモはチェックアウトし、二人で地下鉄MTR佐敦駅から乗車した。海底トンネルを抜け、香港島の中環駅を目指す。
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