六日目⑭

 洗衣店に寄ってからサクヤたちがホテルへ戻ると、部屋でカメラの手入れをしていた手を止めたキョウが顔を上げる。


「おかえり。おいしかった?」


 嬉しさで頬を緩ませて、カコがキョウの隣に座った。


「うん、すっごく美味しかったよ。キョウちゃんも一緒に来たら良かったのに」

「小雨が降っていても香港の夜景は撮りたかったからね。雨が汚れた空気をきれいにしてくれたみたいで、まあまあきれいに撮れたかな」


 憂いのある笑みを浮かべるキョウの顔を、サクヤは部屋の壁にもたれて見ていた。放ったらかしにしたつもりはない。夜景を撮りに行くと言って単独行動したのは彼女自身なのだから。

 こほん、とわざとらしく咳払いをした。


「あのさー、雨も止んだみたいだし、ガイドするからみんなで男人街へ出かけない?」


 気恥ずかしさを覚えつつ口角上げるサクヤは、ワールドワイドなトリッパー。エキスパートの域に達しようとする身なればこそ、ビギナーとノービスの二人に再び添乗員を買って出て香港を案内せねばと、粋がってしまった

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