恐ろしい邂逅

其方そなたは───」


あねさまは心得ちがいをしておられる。 もはや御身おんみは、是非すべからずや」


「よもや」


ハッとして目を見開いた“そめいろ”は、かたい枕辺まくらべたたずむ童の模様を、甘んじて見つめた。


面識など無いはずが、本能的に察することができる。


恐らくは、同じ刀工を親に持つもの。


ともすれば、ながいながい客裡かくりの果てに、こうして顔合わせが叶ったと思えば僥倖ぎょうこうか。


しかしながら、この邂逅かいこうはあまりにもおぞましい。


「我が名は“小烏こがらす” 宿す神通は──」と、小綺麗な口振りを駆使した童は、天国作刀きょうだい間ではお決まりの句を調ととのえ、挨拶とした。


「……つまるところ、“これ”に意味はない?」


「左様です。 あなたが如何いかなる思考を得ようとも、御身はすでに、我が主の武事に関わるものでありますれば」


「恐ろしい。 なんとも恐ろしい呪法よの?」


「はて異な事ぢや。 天国ちちに与えられた才覚をかしりと申すのであれば、貴様に生きる資格は無しと見受けるが」


「やめなさい」


些細ささいな言葉の行き違いか。 または、姉弟きょうだいにしか分かり得ない心理の妙か。


満身に怒気をみなぎらせる童を、女性がピシャリと制止した。


「腑に落ちぬことが」


「申してみよ」


続けて、顔色を神妙にす“そめいろ”に目を留めた彼女は、特に発言をこばもうとはせず、これを許した。


「かの剣法やっとう使いもまた、あなた様の武辺なりや?」


「そうとも言えるし、違うとも言えるな」


目線を移し、近場を見る。


早々に大刀を納めた剣豪が、辺りに観風の眼を至らせていた。


「あれはお救いになられたのです。 我が主が。 言うなれば、気まぐれのたぐいでしょうか」


「おい、人聞き悪いな?」


「気まぐれ……」


「えぇ。 あの方はどうやら、多勢に無勢の阿呆な戦いをして、見事になますに叩かれたようで」


場所が場所だけに、鼻奥をツンと刺激する酸鼻の血風が、何処どこからともなく漂いきた心持ちがした。


「これは余りにも無惨ということで、お優しい我が主は、手ずから彼をお救いに」


「………………」


お優しい?


“恐ろしい”の間違いではないのかと、童女は内心をやつかせた。


おおよそ全ての存在には、身に相応の役割があって、あらかじめもうけられた限度がある。


これを超えて酷使するなど、いくら世界のりようとは言え、あまりに無体だ。

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