浅ましい世

ごうとは恐ろしいものですな? 」


「………………」


「かの大神によって産み落とされた世界あなたが、かの大神の本歌取りを手ずから編纂へんさんし、そして利用した挙げ句、これを弑逆しいぎゃくした」


「そう……」


「まこと恐ろしい。 積もりに積もった宿恨しゅっこんか、はたまた怨府えんぷさがか。 身の毛が弥立よだつとはこの事よ」


「そう、だな」


一転して元気を無くした女性は、浮かぬ顔色に自嘲をたたえ、思いの種をそぞろにいた。


「やはり世界わたしに情理は無いか……。 災いなんぞ、これっぽっちも招き入れとうは無いものを」


「災いとは何ぞや? 天変地異を指すものか?」


「………………」


「それこそ笑止。 時が来れば、大地は千切れて新墾あらきとなるが道理。 これはひとえに進化の法であろう?」


「……それはそうかも知れぬが」


「見損ないましたぞ? よもや貴女あなたが、それを災いなんぞと唱えられようとは」


いよいよ逆転のきざしを見透かした童女は、無垢な口唇こうしんを人知れずゆがめ、追い討ちに掛かった。


「思うままにされませ。 あたいが手を貸そう」


「なんと?」


「おのが体表に巣くう生命によって、肌膚きふを荒らされるのは辛かろう。 息吹をけざされれば、さぞかし腹も立とう」


「………………」


「有史以来の悪行に報いるは今。 さ、私を使って、すべての禍根を断たれませ」


「なにを言うておるのでしょうな? この愚姉ぐしは」


ふと、饒舌じょうぜつな童女の口振りを、横合いから頓挫とんざさせる声が掛かった。

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