二対一

「………………」


少女の体格に比して、遥かにかさの高い長物である。


これを端手はたでに持って振るった訳だから、否応なく体勢が崩れ、次なる動作へ移るには、一拍のを置かなくてはならない。


僅僅きんきん数秒、しかしながら、現状では致命的な隙だ。


「甘い!!!」


ときをつくった剣豪は、大刀の刃部をチャキリと峰に返し、必勝の片手打ちを用立てた。


そこで彼は、矢庭に息を呑んだ。


「………………」


近場でまみえた少女の顔色が、どうにも泰然たいぜんとし過ぎているのだ。


手にあまる暴れ刀を振り抜いた姿勢で、現在はこちらに視線をくれることしか能を持たない彼女の様子。


この窮地にありながら、その表情は不敵であり、放胆ほうたんであり、涼しげですらあった。


「っ!!」


考えるまでもない。


これが差しの勝負であったなら、彼女の余裕ぶりは、まったく奇天烈な事この上ないが、自分が相手取るのは二名。


つまるところ、この女官が全幅の信頼を置くの姫が、


「がほぁっ!?」


刹那、鉾の長柄にほどこされた頑丈な石突いしづきが、寒風を巻きつけて疾走した。


これに胸元を激しく突かれた剣豪は、たまらず弱音を上げて後退した。


「うぐぐ……!」


そうして、剣に加護を求める心持ちで、柄前を体幹に引き寄せるや、これを盾に似せて身構えた。


しかしながら、体の前面を守ったとて意味はない。


「たあぁぁっ!!!」


「ぬふ……っ!?」


裂帛れっぱくの気合いと共に、横合いから鋭い足先が飛んできた。


薙刀なぎなたを支えに、遠心力をたっぷりと利かせた蹴撃である。


「うづ……っ」


横っ面に痛手を食った剣豪は、震える脚部に檄を飛ばし、ともかく死地を脱することに全精力を回した。


しかし、かの荒神はこれを断じて許さず、逃げる彼のふところふかくに侵攻するや、右の拳に並々ならぬ神威を集束させた。


間を置かず打ち出された渾身こんしんの一手が、剣豪の土手っ腹を間違いなくとらえ、大気を轟轟ごうごうと震撼させた。

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