第21話異聞

夕食の席で、おもしろい話を聴いた。


この湖の由来は、端的たんてきに言うと天の怒りなのだという。


昔々のこと、この近辺に住まう神様が、天の川をかしてこの地に掛け流した。


触れるものを際限なく焼き払う、灼熱の川だ。


その際に生じた大きな窪地くぼちが、当の湖なのだとか。


「………………」


湖面を見ると、水の澄み具合が尋常でないことが分かる。


湖底に今も沈むという宝剣が、何かしらの濾過ろか措置を働かせている所為せいか。


灼鉄と化した天の川が、冷えて生じたという神秘のつるぎ


嘘かまことかは定かでないが、何ともロマンのある話ではないか。


逸話いつわに興味が御有りで?」


「ん?」


ふと横合いから声が掛かり、湖面の注視をった私は、そちらへ目を向けた。


すぐ近場に、勤勉そうな顔つきをした女の子が立っていた。


「あなた……」


「ふん?」


この子を見た途端、とてつもない既視感というか、妙な情操が胸の真ん中を占めた。


端端はしばしにいまだ幼さを残すものの、人間離れた美貌に、錦糸きんしのような髪の色。


ちょうど常ならぬ夕刻の地とあって、それはさながら、黄金こがね色の穂波から生じた、愛らしい精霊のような少女だった。

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