護衛の報酬
どこの神殿にも属さぬ奇妙な巫女は胡散臭かったが、破格の報酬に惹かれて護衛を引き受けた。
実体は巫女の物見遊山に付き合うだけ。どこぞの神殿で生まれたときから一歩も外に出なかったのか、巫女は世間知らずで好奇心旺盛。あらゆる国、あらゆる地域を見たがるので、もはや物見遊山ではなく、世界を巡る旅といってよかった。
「長く付き合わせてしまいましたね」
ここが最後、と巫女が言った場所は、わずかな草が生えるだけの寂しい場所だった。
「かつてここには、小さいけれど美しい国がありました」
しかし滅び、街も民も、荒野の下で眠っているという。
「わたしは、ついに見ることの叶わなかった未来を民に伝えるため、この世に残った仮初めの存在なのです」
報酬はあの岩の下に、と指さして、巫女は消えた。
あの荒野に今の世界の礎を作った国があったと知ったのは、そのあとだ。理由は定かでないが、一夜にして滅び、荒野となり果てたという。
報酬は今も岩の下に眠っている。巫女のすべてをかすめ取ろうと下心いっぱいだったけちな盗賊には、およそもったいない。
「いつかそっちへ行ったら、俺にも、あんたの見たものを教えてくれよ」
それが、護衛の報酬だ。
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