困難な小説

 村の子供に読み書きを教えていた故老は、様々な話も聞かせてくれた。

 氷に閉じこめられた北の王国、砂に沈んだ西の商都、竜と心を通わせた女王――。

 私が一番心引かれたのは、読み解くのが困難な小説の物語だった。


 すべては故老の作り話だと、かつて目を輝かせて聞いていた友人達は言う。

 そんなことはない。

 全部本当のことさ、と故老は言っていた。


 その小説は、高い高い塔の中に納められている。

 私はようやく、その塔に辿り着いた。

 入り口の扉に序章が刻まれている。故老が言っていた通りだ。物語は、塔の様々な場所に刻まれている。梯子の段さえ見落とせない。

 まだ誰も頂上にある結末に辿り着いたことはないという。

 私が最初の読破者になるのだ。


※お題「梯子」「小説」

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