代役の暗躍

 町の名物、人間雛祭りは夕方前に終わり、普段着に戻った人形役達は公民館の外でたむろしている。このあと打ち上げがあるのだ。

「健」

 そこに幼なじみの姿を見つけ、美弥は駆け寄った。

「お、美弥。お疲れ」

「これしか借りられなかったけど」

 檜扇と笏を健に押し付けた。健が怪訝な表情になる。

「咲のとこ、行ってきなよ」

 今日、健の隣で十二単を着るのは、もう一人の幼なじみである咲のはずだった。

 けれど、つい先日咲は捻挫をしてしまったため、美弥が代役を務めたのだ。

 咲は、見せ物だの恥ずかしいだの文句を言いながらも、この日を楽しみにしていた。

「……普段着のお雛様かよ」

「いいじゃん。それがあるだけで、お内裏様っぽくなるよ」

 ほら早く、と健の背中を押す。

「でも、打ち上げが」

「主役の一人はいるんだから、十分でしょ」

「ひでえな」

 笑いながら、健は振り返らずに駐輪場に走っていった。

「小倉君、どこ行っちゃったの。これから打ち上げなのに」

 健が去ったすぐあと、三人官女役をしていた友人が寄ってきた。

「咲のとこ」

「……いいの? お内裏様をやった二人は結ばれるってジンクスあるのに」

「わたしは単なる代役だし。それに――」

 最後まで言わなくても、勘のいい友人はすべてを察してくれた。

「美弥がそれでいいなら、いいけどね」

 そして、打ち上げまでまだ時間あるよ、と小さな声で言って、去っていった。

 花粉で目がかゆいだけ。そんなふりをしながら、美弥は目元を拭った。



※『普段着のお内裏様』の続編です。

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