冬北高校バトル部日誌

◇2018/2/26(月) 曇りのち晴れ◇




 雨にも負けず風にも負けず冬の極寒にも負けず、今日も一日乗り切った。あとはこたつ部でぬくぬくするだけ。僕は部室の扉を開ける。


「こんちはー」

「やー暖隆あたたか君」


 先にこたつで暖をとっていた陽奈ひな先輩が軽く手をあげて応じてくれる。


「ころなちゃんはまだなんですね」

「うん。まあすぐ来るんじゃないかな」

「先輩はまた冬北高校七十七不思議大全読んでるんですか?」

「こたつ部四天王についての記述がないかと思ってね~」


 こたつ部四天王。先週僕の前に姿を現したやばい人たちのことだ。サイボーグだったり忍者だったり、バトル漫画の世界に帰れと言いたい。


「で、実際あったんですか? 記述」

「うーん、探してるとこなんだけど、この本たまに独自言語で書かれてたりするからわかんなくてさー」

「独自言語」

「これなんだけど。暖隆君読める?」


 差し出された本のあるページに目をやる。

 え、なんか形は日本語に近いのに微妙に違うし字の並びの法則性も意味不明だ……怖い……。


「読めないです……」

「そっか……。読める! 読めるぞ! 的な展開を期待したのに」

「僕ムスカじゃないです」

「バルス!」

「目がー。ところで独自言語で書かれてるのは一部だけみたいですけど、大全って複数人で分担して書いてるんでしょうか」

「みたいだよ。知り合いが言っていたんだけど、七十七不思議といってもいろいろあるから、それぞれの分野ごとにそれぞれのスペシャリストが担当してやってるらしいね」


 そういえば陽奈先輩には七十七不思議大全を編纂した〝冬高秘密探偵団〟に知り合いがいるんだった。先輩も大概やばい人なのでは……。


「冬高秘密探偵団は謎に包まれた組織だからね。ボクの知り合いも、所属していながら組織の全貌を把握しきれていないって言ってた」

「ラノベの世界に帰れ……。でも、こたつ部もこたつ部で謎すぎますよね。昔の部長たちがあんなに濃いメンツだとは思ってませんでしたし、あ、そういえば」

「そういえば?」

「結局、この部室のみかんってどこから誰が補充してるんですか? もう僕は部長になる権利を持ってますし、こたつ部の秘密を知る権利もありますよね?」

「ああ、それはね」


 先輩が言いかけた直後、部室のドアが勢いよく開いた。

 僕らは思わず口をつぐんで部室入口を凝視する。


 姿を現したのは、チェック柄の入った薄茶色のコートに身を包み、探偵っぽい帽子を被った謎の男。

 その手には、やはりホームズとかの探偵が使いそうなパイプを持っており、知的には見えたけれど……学校でその格好は、異様だ。

 男の口が動き、静まった部室に声を響かせる。


「冬高秘密探偵団の者だが」


 だと思った……!


「今日はちょっとした調査をさせてもらってもよいかな?」

「あ……うん」


 陽奈先輩の反応を見ると、この人は先輩の知り合いではないらしい。

 秘密探偵団の人は、扉を後ろ手に閉めると、その場に立ったまま部屋を見渡した。


「あ、こたつに入ったら? あったかいよ?」

「お気遣いなくミス南。私はこのままで構わない。さて、まず自己紹介をしておこう。私は冬高秘密探偵団、副々々々々団長。シャーロック・ホームズだ」


 名前が名探偵と同じなのにだいぶ下っ端っぽい役職……!


「念のため言っておくが、頭脳明晰ではなくシャーロキアンですらない私が名前負けしていることに悩んでいたところへ気を遣ってくれた秘密探偵団メンバーが無理やり副々々々々団長という役職をつくって与えてくれたとかそんなことは断じてない」


 秘密探偵団メンバー……やさしい……!


「…………失礼、一服させてもらうよ。…………………………フゥー……」


 パイプに見えるやつに息を吹き込むとシャボン玉が出てきた……! 何で?


 喋り始めて十数秒でポンコツ探偵だとわかってしまった。こたつ部に来る人はどうして変な人ばかりなんだろう。というかこの高校がおかしいんだきっと。そんなことを思いつつ黙っていると、ホームズが口を開く。


「先程も言った通り、私はここへ調査をしに来た。なに、やることはただの聞き取りだ。いくつか質問に答えてくれればいい」

「そう? 答えられる範囲のことならボクが答えるよ。でも、ここの部長にならないと知ることができない重大な秘密は答えられないけどね」

「この部室のみかんはどこから誰が補充している?」


 それは一瞬のことだった。


「最近嗅ぎまわってんのはおまえか」

 掘りごたつの下から煙とともに現れた三十四代目部長・狼煙のろし焚司たきじさんが!


「しつこいよ!!!!!!!!!! 帰りな!!!!!!!!!!」

 部室の扉を勢いよく開けて転がり込んできた四十五代目部長・愛媛えひめ美柑みかんさんが!


「コタツ部ノ安寧ヲ邪魔スルナ」

 ジェット噴射したまま窓を割って飛び込んできた二十六代目部長・ナイトロ・バーンズさんが!


「…………斬る」

 忍者らしく音もなく天井を扉のように開けて降りてきた四十七代目部長・陽炎坂かげろうざか紫炎しえんさんが!


 一斉にホームズへ襲い掛かる!!

 が!!


「おっと危ない。やれやれ、物騒ですねアナタたちは」


 四天王の攻撃をかわしていくホームズ!

 狭い部室で風に舞う木の葉のように体を躍らせる!

 そしてかわし終えた後、窓べりに立って僕らを見下ろした!


「さすがに四天王を一度に相手にするのは骨が折れます。ここは撤退ですか」

「待て!!!!!!!!!!!! 君はホームズじゃないな!!!!!!!!!!! 誰だ!!!!!!!!」

「おっと口調が戻ってしまっていましたか。では変装の意味もありませんね。解く理由もありませんが」

「おい、おまえ。その強さ、団長クラスだな。なぜこたつ部の秘密を暴こうとする」

「ふむ。ひとつ訂正が。ワタシは団長クラスではなく、ただの平部員です」

「馬鹿な」

「そしてひとつ答えましょう。なぜアナタがたの秘密を暴こうとするのか。それは」


 ホームズの姿をしたは、ニヤリと笑った。


「我々が、冬北高校すべての謎を暴きだす冬高秘密探偵団に他ならないからだ」


「バーンズ、撃てッ!」

「紫炎ちゃん、やっちゃえ!!!!!!!!!!!」


 四人は追撃する――――が、敵はその場からかき消えるようにいなくなった。

 残されたのは、痛いまでの静けさと。

 四人がかりでも平部員すら仕留められなかったことによる沈鬱な空気と。

 窓ガラスの破片と。

 あと窓の外から流れてくる寒気と。

 ぽかーんと口を開けたままの僕&陽奈先輩と。

 いや、なに今のバトル展開?という疑問と。

 なんかすごいシリアスな空気だけど、この事件、好奇心旺盛な人がこたつ部のみかんについて質問したら怖い人が四人来て強引に追い返したというだけでは?という感想と。

 こたつのぬくもりだけであった。

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