おしるこ

松井悲劇

おしるこ

「おしるこ、おしるこ、フヘヘ」


雲一つない空の下、名も無き少年はそう呟きながら歩いていました。叩いたら軽い音のするそのスッカラカンな頭には昨日覚えたばかりの四文字がぐるぐると駆け巡っております。


「おしるこ、おるしこ、グヘヘ」


変質少年が一人口にするその言葉、もちろん変な意味ではございません。甘いあんこに餅がぶち込まれたアレのことでございます。


しかし、まだモノもよく知らぬ彼にとって「OSHIRUKO」というこの響きはどうもエロティックに感じられ、これはいわゆるスケベーの類のものに違いないと彼は理解してしまっていたのでした。


平生アッパラパーな彼ではありますが、「ボクは大人」という自信を本日は抱いておりました。それは勿論「おしるこ」というアダルティな言葉を知っていることに因する優越感なわけですが、彼はそれに際し、とある策略を企てていたのです。


「これをミカちゃんに言わせてみたい」


幸か不幸か、この天下一品のゲスに神は味方いたしました。今日の献立と書かれた紙にはデザートに「おしるこ」とあります。


少年がこの記述を見た時の嬌声は記すに重いものでした。


「なんだ、有名なのか。これじゃ自慢できやしないよ」


とその後に残念がっていたことは記しておきます。


そして給食の時間、少年は生まれて初めておしるこを見ました。

「エロくねーじゃん」と彼が思ったのも束の間、少年はミカという今世界で最も不幸な少女の元へと駆け出したのです。


「ミカちゃん、これ知ってる?」

彼はおしるこを指差し、確信してそう尋ねました。


「うん知ってるよ。ぜんざいでしょ?」


ゴトゴトゴト・・・


少年はその場に膝から崩れ落ちました。「ZENZAI」という如何にも男らしいニュアンスに溺れながら沈んでいきました。


彼はもう「おしるこ」を連呼することをやめました。実にくだらないことのように思えたからです。






「ちんすこう、ちんすこう、フヘヘヘ」


なぜなら彼には次なる策略が浮かんでいたのですから。




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おしるこ 松井悲劇 @matsuhige

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