第19話:不思議な三重奏(トリオ)

 後日サトから予算を聞いた。思った通り額は多くなかったけど、大道具、小道具、衣装の三つの係で一つの予算にしてもらう。だって買い物は三人で行くから。必要な予算が少ないところで余らせるより、ギリギリまで使ってしまおうというのが魂胆。うちが提案したら、サトにおっけーと言われて、ようやく若干の貢献ができた気がする。


 土日の部活終わりに高校の最寄り駅から五つ離れた少し大きめの駅にある大型量販店と手芸屋さんに行く。お金は既に茶封筒に入れられて、会計係からもらった。封筒の中身は諭吉さん一枚。なんだかバラエティの買い物番組みたい。ラッシュアワー前の電車は、座れはしないものの、三人集まって喋れるぐらいの余裕はある。


「そういえばこのメンツでどっか行ったことなかったね」


 ふと思ったことを口に出すと、 夕海と槙がそれぞれ確かに! と頷いた。


「私は夕海と日向、それぞれとご飯行ったことあるけど三人はないよね」

「後なんか、槙はいっつも”にしまき”でいるイメージある」


 にしまき、西と槙のボーン二人を指すサチスイ用語。この二人はサチスイの中でも特に仲が良くて、いつも一緒にいる。


「なんか入り難い」

 夕海の声に、槙が驚いたように

「え、そうかな。別にクラス違うし、実際一緒にいるのは部活と帰りだけだよ?」

 と言った。ぼんやりと二人を思い浮かべると、確かに二人は1組と7組なので、クラスメイトとしての”にしまき”は見ていない。あ、

「そういえば最近西の事、部活で見ないけど、どしたの?」


 ふと気になっていたことを聞いてみる。西はほとんど休むことがないから、珍しいなと思ってたんだよね。槙は一瞬眉をキュッと陰めた。少しいつもと違う気がしたからそっちの方にも「どしたの?」と口を開きかけたけど、でも次の瞬間には笑顔になったからやめた。


「あーちょっとね、なんか体調が悪いみたいで」


 まあ、今風邪流行ってるし仕方ないか。とは思ったけどそれ以上は会話が続かず、ちょっと微妙な雰囲気になってしまった。しばらく三人、無言で窓を眺める。


 沈黙を破ったのは夕海だった。電車がちょうど踏切を通り過ぎていく時。


「でもなんか友達! とか親友! じゃなくて、夫婦みたいなんだよなぁ”にしまき”は」


 夕海の言葉にうちもこくこくと頷く。


「二人でセットって感じ」

「それは言い過ぎじゃない? 語呂がいいだけでしょ」


 そう苦笑いする槙にニヤリと笑う夕海。ガタンゴトンという電車の音をBGMにして、質問攻めが始まった。


「西の誕生日は?」

「11月29日、いい肉の日」

「出身中学」

橘北たちばなきた

「好きな色」

「オレンジ」

「食べ物」

「好きなのはピザ、嫌いなのはウニ」

「座右の銘」

「人生はノリと勢いでなんとかなる」

「幼稚園の頃の夢」

「冒険家」

「兄弟」

「兄と妹」

「ペット」

「お祭りでとった金魚」

「トロンボーンの名前」

「アンソニー」

「好きなドラマ」

「The Star Falls into」

「ピアスを開けた時期」

「一年の文化祭後」


 クイズ番組を見てるみたい。しかも槙はスラスラと答えていく。


「愛に溢れてますなぁ」

 うちが茶化しても槙は

「そう? 2年も一緒にいたらそれぐらい知ってるんじゃない?」


 と首をかしげるだけ。うち同じパートだけど、サトの幼稚園の頃の夢とか知らないし座右の銘とか普通訊かないでしょ! とツッコミたい。槙の無自覚なところがまたなんとも。うちと夕海がゲラゲラと笑っていると、目的の駅に着いた。


                ***


 衣装と小道具は融通が効くので大道具から買いに行くことにした。大道具はアクリル絵の具とハケ、それから模造紙。まずはなんでも売ってる大型量販店でハケを買う。


「お、一本77円。意外と安いんだ」


 そう言いながら、槙が携帯にメモしていく。これは来年の後輩のため。いつでもメモしてどこで買うと安いのかを記して経費を削減する。


「アクリル絵の具ここにあるよー」


 二、三列先の棚からひょっこり顔を出す夕海。ハケを三、四本とってそちらへと向かう。棚を覗くと一面に詰め替え用洗剤みたいなパッケージのアクリル絵の具があった。色のバリエーションが多いからなかなか壮観。


「パレットみたいで可愛いよねぇ」


 という夕海の言葉にウンウンと頷く。槙が再びケータイを出して色の指定。


「窓枠と海用に青を三本、ピーターパンの家用に茶色五本、緑二本。あと焚き火の赤は……去年のあるみたいだから一本だけ。あと海賊船用に紫を一本」


 夕海とうちで、言われた絵の具をぽんぽんとカゴに入れていく。入れ終わってから床に置いておいたカゴを持ってみたら、ずっしりと重かった。


「ちなみにお値段は?」


 と夕海が抜け目なく確認する。


「一本700円……で、十一本だから」

「いや、7000円取られたら、さすがに衣装と小道具なんも買えないよ」


 槙がだよねぇと、うちが持ったままのカゴから絵の具を何個か返していく。どんどんと軽くなって最終的には半分ぐらいまでに減った。


「最悪、去年のものと美術選択の子から借りてなんとかするよ。三年の先輩に、申し訳ないけど訊いてもいいしね」


 今年去年よりも数倍多いから、絵の具足りるといいんだけど。そういいながら、槙は模造紙を探しに行った。残されたうちの夕海は


「うちら、なるべくお金抑えないとだね」

「ま、衣装はそんなに必要ないからいいんだけど、あとで槙たちが追加で買えるようにしなきゃね」


 と小会議。だって去る前の槙の顔、なんかちょっとかわいそうなぐらい悲しげだったんだもん。槙がダンボールに貼る模造紙を取ってきたところで、量販店での買い物は終わり。レジで清算すると、大体5500円ぐらい。うん、なるべくコストは下げなくちゃね。うちらは量販店をあとにして、一ブロック先の手芸屋さんへと向かった。

                 ***


「買いたいものは全部買えたよね?」


 駅へと戻る道すがら、レシートを茶封筒に入れながら槙が確認した。もう日は暮れているから、帰宅ラッシュで電車はぎゅうぎゅうかもしれない。そんなことを思いながら、三人でレジ袋を揺らす。ガサガサと袋の中を確認しながら、うちが買ったものを挙げていった。


「絵の具と模造紙、インディアンの羽とピーターパンの影の布。シルクハット用の布に、衣装の布とヘアゴムの束。うん、大丈夫」


 槙が持つ封筒には英世さんが2枚と小銭が少々。絵の具があと二、三本は買えるようになっている。


「予算内だね。しかもちょっと余裕ある。お疲れー」


 夕海と顔を見合わせてフフッと笑う。だって槙、めっちゃ安心した顔してるんだもん。


「なーんか一万円で買い物ってテレビ番組にできそう」


 思っていることを口に出すと、槙がノッてきた。


「貧乏吹部が行く! 一万円で準備っ! 定期演奏会! みたいな」


 わーそれっぽいー、と笑うと、


「いや、ホール代とか入れたら一万円は無理だわ」


 と夕海のツッコミが入る。


「でも来年とか定演を体育館にして、どういう風にお金を使ったのかビデオにしてみんなに見せても面白くない? ”一万円に収める、サチスイの逞ましいドキュメンタリー”とか?」


 槙が冗談で言ってるのは分かっているけど、思わずうちはプロジェクターに流れる映像を思い浮かべてしまう。BGMは『情熱大陸』かな。楽譜がどこかにあるはず。


「誰得?」

「とりあえず、費用は削減できるから、サチスイ的には得するんじゃない?」


 ま、後輩たちがやりたいと思うかと言われると微妙だけどね。槙はそう言う。けどさっきと様子が違う。なんか心ここにあらずって感じ。変だなと思って槙の視線を辿ると、コンビニのノボリだった。


「コロッケ60円……」


 どうやらアイデアよりも食い気らしい。つられて見ると……ああ、美味しそう。でも、うちらはサッとノボリから目を逸らすと帰り道を足早に歩いた。


                 ***

 サチスイMemo♪


 楽器の名前:愛着をつけるために、楽器に名前をつける部員もいる。それぞれ楽器にちなんだり、楽器会社(ヤマハ、バック、クランポン、セルマー等)にちなんだり、西のトロンボーン(アンソニー)のように全然関係なかったり。名前をつける人は特に自分の楽器を持っている子に多い。


 ちなみに作者の高校時のトロンボーンはトロ子で、ネーミングセンスのなさがこの時点で存分に発揮されている。

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