第6話:始めのいーっぽ!

 サトの説明はちゃんと丁寧で完璧だった。清香や志麻がまた質問を重ねることはなかったし、ちゃんと考えてきてるんだなということは一目瞭然。それでもどこかでやりたいと手を挙げることを、ためらっている自分がいる。サトを応援する声も上がらなければ、否定の声も上がらない。そんな拮抗した状態に、羽佳子もちょっと困った顔で、かけていたメガネを触った。


「みんな黙ってないでさ。ほら良いでも悪いでも、何か意見とかない?」


 それに答える部員はいない。さっきまで何か言いたいことがあったと思っていた二年生も、視線を机に向けたり、羽佳子から視線をそらしたりして誰も何も言わない。


  きっと何か質問をしてもサトは完璧に答えてしまう。でも果たして、サトの言う通りにこのまま進むべきなのか。何かあとひと押しが、サチスイには必要だった。


  サトは笑顔をしまって、バンっと机を叩いた。皆がびっくりして再びサトの方を見る。


「みんながやりたくないんだったら無理強いする必要はない、って思ってるよ。と言うか、それってただのわがままだし、そもそも私だけが頑張ってできるほど小さなことじゃないと思う。しかも定演は私だけのものじゃないじゃん。みんなで考えて案出してさ、やるべきものだよね? だからもしこの案が通らなくっても、部員として学指揮として全力を尽くすつもり」


 言葉を切って、くるりと私たちを見回すサト。一人一人に目線を合わせて確かめるようにしている。サトと視線があった。その覚悟に、ドキリとした。


「でも……でもさ。劇をやるってなったら、私は本気で頑張る。だって絶対に今まで通りに同じことしていたら、間に合わないから。もしもうまくいかなくてダメだった時の責任は、提案者の私にあると思ってる」


 これが、清香に答えられなかった質問の答えになるかな? サトはそう言って清香の方を見る。清香は口をきゅっと結んだまま。


 反対の意見が言えないのは、不安が拭えないのは、サトの所為じゃない。自分たちがサトぐらいまで頑張れるのかが分からないんだ。清香を見て私はそう思った。


 初めてのこと、新しいこと。最後にそれをすることで、私たちの吹奏楽部はどうなるのか。 自分たちが先陣を切って、失敗したら? サトは責任を取るって言っているけど、どれぐらい?


 煮え切らない私たちをくるりとまた、サトの目が一周する。


「私は全部責任とる覚悟を持って、これを提案してるよ。せっかく最後だから、一個大きいことしたいじゃん。だから最悪……ううん、成功の邪魔になるぐらいなら、勉強は捨てる。本気で24時間、サチスイのこと考える」


 私は手に持っていたうちわをポトリと落とした。その言葉を聞いた瞬間、部員は———少なくとも私は、彼女ティンカーベルの魔法にかかってしまったのだから。

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