第187話 司教の視察04
「キキキキキッ! まだ続けるかだと!? 化け物風情が利いた風な口を叩くな! 『
司教が軋るような声で叫び、周囲を守る側仕えたちが薄っすらと光を帯びた。
「『
更なる司教の声を受け、側仕え達の目から感情が抜け落ちる。指示を与えた司教は後ろを顧みることなく、城門へと駆けだしていく。
意思を宿さない虚ろな目をした側仕え達が腕を振り下ろす。袖口より飛び出したのは金属製のフレイルだった。鎖で繋がれた打撃部分が易々とテーブルを破砕する。
俺が動けずにいる間にもアベルは側仕えの伸びきった腕を捉え、肘関節へと膝蹴りを叩き込んだ。
ミチリと言う奇妙な音とともに関節が破砕され、腕の内側から衣服を突き破った白い骨が現れた。しかし側仕えは痛みに怯む様子もなく、アベルを逆の腕で殴りつけた。
咄嗟にガードしたアベルは殴りつけられた勢いのままに数メートルを後退する。地面に刻まれた残痕がその衝撃の凄まじさを物語っていた。
「シュウ、気をつけろ! こいつらは
装備込みで150キログラム近いアベルを殴り飛ばす怪力は恐ろしいが、殴りつけた方の拳も無事ではなかった。
拳頭からは骨が皮膚を破って突き出ており、手首も折れてあらぬ方向に曲がっている。肉体の破損に構わず襲い掛かってくる様子は、さながらゾンビのようで生理的な嫌悪感から足が竦み上がった。
荒事に慣れていない俺が動けないでいると、目の前に迫っていた側仕えが錐揉みをするように横へと吹き飛んだ。
遅れて響いた乾いた破裂音が、カルロスの狙撃による支援を教えてくれた。肩から先を失った側仕えは、地面に落ちると起き上がっては来なかった。
大口径の銃弾が着弾した衝撃で意識を失ったのだろう。あのまま放置すればいずれ意識だけではなく、命をも失いかねないが構っている余裕はない。
「シュウ! 狙いは必要ない。とにかくテーブルで薙ぎ払え!」
アベルの指示を受け、木製のテーブルを掴み、全力で振り回した。
打撃面が大きいため、適当に振り回しただけでも二人の側仕えを撥ね飛ばす。テーブル自体も壊れてしまったが、撥ね飛ばされた二人は地面と水平に吹き飛ぶと、砦の外壁に激突して昏倒した。
一方アベルは叩き付けられるフレイルを紙一重で回避し、腕関節を極めて頭から投げ落とすことで無力化していく。
すると突然視界が切り替わり、アベルとかなり距離が開いたことで強制転移の発動を認識した。
俺が元居た場所にはダーツのような物が突き刺さっており、飛来したであろう方向を見ると修道士が腕を振りかぶる瞬間だった。
咄嗟に持ったままだったテーブルの残骸を投げつける。アンダースローで投げたためか、掬いあげるように腹部に命中した残骸が、修道士を空高く吹き飛ばした。
舞い上がった修道士は厩舎の屋根に激突し、天井を巻き込んで落下した。安否が気になるが、まずは自分の安全を確保せねばならない。
周囲を確認すれば既に大勢は決していた。司教の一味は残らず倒され、良く見ると矢を受けている襲撃者も居た。
ここからは確認できないが、ウィルマの仕業だろう。足を射抜かれて転がっている修道士が多い。彼らは痛みに呻き、悶絶しているため、側仕えのような状態にないと判った。
ようやく余裕が出来たため、司教を捜すといつの間にか跳ね橋が下ろされ、今まさに砦外へと逃げようとしているところだった。
「チーフ! 俺が追いかけます。バックアップをお願いします」
「待て、シュウ! 必要ない。まあ見ていろ」
味方が全滅したのに気が付いたのか、こちらを振り返った助祭が司教を突き飛ばすと、未だ下り切らない跳ね橋へと駆けだした。
轟音と共に基部が爆砕された跳ね橋が弾け飛び、傾斜が垂直になると助祭を載せたまま空堀へと落下した。
その様子をへたり込んだまま眺めていた糸目司教に駆け寄る人影があった。
その人影は司教を小脇に抱えると、跳ね橋を吊り下げていた鎖を掴んで対岸へと振り子の要領で飛び出した。
一瞬の事で呆気に取られていたが、司教の逃亡を許してしまった。司教の逃亡をほう助した存在には見覚えがあった。
遠目にも鮮やかな金髪と翻った赤のマント。アマデウス・マラキア卿その人だった。
俺はアベルを見やるが、彼は首を振っていた。肝心の首謀者を逃がしてしまうという大失態だが、まずは後始末をせねばならない。
呻き声やすすり泣く声のみが聞こえる惨状を見ながら、暗澹とした気分になっていた。
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