第30話 買物
「来ちゃった♡ 急に予定が空いたから…… 迷惑だったかな?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「恋人か! 年齢と性別を考えろバカが! 40手前のおっさんが言って良い台詞だと思っているのか? 怒りを通り越して殺意が湧いたわ!」
「ちゃうねん! 休暇が貰えて、しかも日本に帰れると思ったら予想以上に舞い上がってしまってな、これはジョークの一つも言わないとアカンやろうという関西人の魂がやな!」
「まあ良い、何はともあれ良く無事に帰ってきたな。しかし、あれだけ仰々しく別れたのに一か月で戻ってきやがって、今生の別れを覚悟していた俺がバカみたいじゃないか」
俺は今、日本の大道邸へお邪魔している。アベルに休暇を申請したところあっさりと許可が下り、ついでに物資調達を頼まれた。
金にも権力にも
あるだけ全て購入するように言われているが、何本買う気なのか恐ろしい…… 足りない場合は小切手を使っても良いそうだ。
「すまんな、思ったよりも良い職場でね、食べ物以外には苦労していないよ。食べ物についても和食を作ってくれる人がいてね、すごく助かっているよ」
「ほう? それは女か? いや、当ててやろう、そいつは女で容姿に優れ、お前に親切で積極的に関係を持とうとして来ているんじゃないか?」
「凄いな、ほぼ当たっているよ。まあ容姿については好みの問題もあるから一概には言えないけど、俺は可愛い子だなあとは思っているしな」
「ふむ、まあ判っているとは思うが気を許すなよ。お前を組織に縛りつけるためのハニートラップ要員かも知れないぞ」
「天下無敵の女性不信にEDだぞ? ハニートラップなんか怖くもないさ。とは言え可愛い女の子が優しくしてくれるだけで、簡単に気を許しちゃうのは悲しい男の
「既に陥落しているじゃないか…… まあお前に警戒しろって言うのは無理があったか。良く言えばお人よし、悪く言えば間抜けだからな」
「わざわざ悪く言わんといて! 傷つくわー! でも心配してくれてありがとう。一応気を付けるようにするさ」
「で、そいつはどんな女なんだ? 金髪碧眼のボンキュッボーンな感じか?」
「どこの高級コールガールだよ! ちゃうわ! 和食作ってくれているって言ったやろ? 日系人らしいよ。小柄で目を惹くタイプじゃないけど可愛い感じの子。18歳って言っていたから倍以上も歳が離れているし、そういう対象じゃないよ。
俺をスカウトしに来た女性の方だよ、病院に来ていたんだけどもお前は会ってないんだっけ?」
「ああ! あれか…… 通訳じゃなかったんだな。確かに性的な感じじゃないな、お前はロリっ気あったっけ?」
「なんて事を聞きやがる…… いや、ロリコンではないつもりだよ。でもまあセックスアピールの控え目な女性の方が、好ましいとは思うようになったな。これは女性不信なのかEDのせいなのかはわからんが」
「ロリコンは別に悪じゃないぞ? 生物学的には正しいんだ。社会学的に認められないだけでな。若い方が繁殖に有利なのはデータが証明している」
「うん、ロリコン談義は終わりにしよう。実はそんなに長く日本に滞在できる訳じゃないんだ、日本時間で22時には戻る必要がある。ここと向こうじゃ、大体16時間時差があってね。朝の点呼に間に合うためには、そのぐらいの時間には戻らないといけない。
取りあえず先にこれを渡しておくよ、アメリカのお土産。これはお前用、こっちは碧さん用ね、あとお世話になった病院の方用にこれも」
「俺用のテンガロンハットとブーツは判り易いが、お袋と病院用の毒々しい色をした瓶は何なんだ?」
「サボテンの実から取れるシロップらしい、スッキリとした甘さで美味しいよ。そんなに癖も無いし、砂糖より低カロリーらしいから女性に良いかなって思ってね。あ、お前用のがもう一個あったよ、はいこれ!」
「なんだ? キャンディーか? って! 蠍が入ってるじゃないか! 蟲入り飴かよ…」
「これも名物なんだってさ、割と人気のお土産らしいよ。俺は血糖値が気になるから、食べられないのが残念だなあ~HAHAHA!」
「まあいいさ、昼飯までには未だ時間があるし、これからどうするんだ?」
「うん、実は日本で色々買い物がしたくてね。日本の食材に調味料、衣類に小物、そしてドクターペッパーが必要になる」
「最後の一つだけが意味不明だが、食材と調味料なら出入りの業者に持ってこさせるぞ?」
「まあ今更だけど、一般のご家庭には出入りの業者なんてものは来ないからな? お金持ちってのは買い物にも行かなくて良いのか…… 向こう側から御用聞きに来るんだもんな…… うむ! 人を羨んでも仕方ない、せっかくなのでご厚意に甘えさせて貰うよ。
支払いがUS$しか持ってないんで、ちょっと銀行で円に交換してくるよ」
「ああ、近くアメリカに行く予定があるから構わん。俺がドルと円を交換してやるよ、いくら分だ?」
「お! アメリカに来るのか、休暇が合えば向こうでも会えたらええな! ざっくりと4,000US$ぐらいなんだけど、いけるかい?」
「日本円だと40万ぐらいか、まあそのぐらいなら問題ない。これから業者に電話するけど、食材と調味料って何をどれだけ買うんだ?」
「あ、一応リストにして持ってきてあるから、これで頼む。ドクペは仕入先に連絡してあるそうなんで、俺が直接出向くよ」
「量が尋常じゃないな、何人分買うんだこれ…… まあ良いメールで流す、ガレージに運び込んで貰えば良いな?」
「何から何までありがとう。それじゃあ夕方にまた来るよ、晩飯は俺が奢るから一緒に行こうぜ、昔良く一緒に行ったカレー屋ってまだやっているかな?」
「ああ、あそこか。変わらずやっているよ、懐かしいな。昼飯はどうする? 何ならうちで食っていくか?」
「ありがたい申し出だが、すまない。これから自宅に戻って車で移動することを考えると、適当に軽いものを買って車内で食べるのが良さそうだ」
「お前の能力で移動しないのか? 別に車なんかでわざわざ時間をかける必要なんぞないだろう?」
「まあ下手に能力使って、これ以上変な連中に目を付けられるは御免だからな。安全な拠点間の移動にだけ限定して使っているんだ」
「そうか、判った。じゃあ18時ぐらいにガレージで待ち合わせしよう」
崇から日本円を融通してもらい、あれこれと日本での買い物を楽しんだ。ドクターペッパーの仕入先は、卸問屋だったらしく在庫がかなり購入できた。
気の置けない友人とゆっくりと飯を食うという贅沢を楽しみ、休暇を終えてアメリカに戻った。次の休暇は正月までお預けだが、これで食生活は大きく改善するだろう。ハルさんやアベル、ドクにも本場日本の和牛を味合わせてやるのが楽しみだ。
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