シロとセレナ
今日も団長から団員の話を聞きます!
だって、本人たちは一切口を開きませんからね。
だから、こうして今日もワイ――贈り物を片手に彼女達の過去を根掘り葉掘り聞きます。師匠のは怖すぎて聞けません。
ええ。聞いたことがバレたら何をされることか……。
「シロちゃんとはどうやって出会ったんですか?」
「シロはとある遺跡の奥にあった祭壇で寝てたんだよ。置いてくわけにもいかないし、背負って帰ったらパルテナに怒られたよ」
「あはは……それで、そのままですか?」
「メシ食わせたら懐かれてな。そのままだ」
猫かしら?という感想が頭をよぎりましたが口にはしません。
下手な事を言うとツッコまれるので。
「ふむふむ……総合すると、辛い過去を背負っているのは、リリー、ガルシア、プレアの三人か……」
「まあ、衝撃的な出会いで言えばセレナくらいだけどな」
「あはははは……アレですか。少しだけ聞いたことがあります」
「なんだ、団員内では広まってるのか?」
「ええ、まあ……。本人が酔った席で誇らしげに嬉々として語って聞かせたみたいですから」
「アレなぁ……」
セレナが団長たちに合流したのは、幹部の中でも一番最後でした。
私はその直前だったので一応、事の成り行きを知っています。
セレナは元々カラッソス王国の貴族の娘でした。貴族であると同時に、民を守るために軍にも属していました。
父親からの厳しい指導と、軍で偶然にも出会った上官の鍛錬によって力を付け過ぎてしまい、その時は自尊心が強かったこともあって、婚約者は自分よりも強い者、と決めていたそうです。
そのため、母親が縁談を持って来ても力比べをしては相手の自尊心を圧し折って泣いて帰らせ、ついでに母も泣かせてしまうということが毎日のように起きていたそうな。
そんなある日、父親と軍の上層部との話し合いで制限なしの武闘会が催され、そこに力試しで団長が参加していたのです………これって、参加者に条件を定めてなかった父親と上層部の責任ですよね。
「しかし、懐かしいな。まさか苦も無く決勝まで行けるとは思ってなかったから。正直期待外れだった。途中で帰ろうかと思ったよ」
「途中で帰っていれば、あんな騒動にはならなかったでしょうね!」
「なかなかにスリリングだっただろう?」
「胃が痛かったことだけは覚えてます。団員全員で謝りに行こうか、なんて話をしてたんですからね!!」
武闘会は当初の想定を大きく上回って300人を超える参加者が集まりました。
そのため、トーナメント形式にするために人数を減らすことに。
方法は十人規模のバトルロワイヤルで、最後まで生き残った人がトーナメントに進出します。
で、トーナメントは大方の予想を覆して、その国の軍人たちはトーナメントを早々に敗退してしまい、準決勝まで残ったのはほとんどが他国の傭兵でした。その中には団長もいたんですけど。
「あの国の人間は弱かったな。まあ、出てきてたのは祭り気分の奴らばかりだったから仕方無かったけどさ」
「――今思い出しても恥ずかしい限りだ。正直見ていて恥晒しだと思ったよ」
っ!?いつの間にか私の背後にはセレナが仁王立ちしていました。怒っている感じはなく、過去を懐かしんで笑っていますが、正直不気味です……。
そして団長は団長で、さして気にした風もなくそのまま話を続けます。気付いていながら黙っていましたね、この感じ。
「はっはっは。準決勝まで勝ち上がってきたのが全員他国の人間だとそう思いたくもなるよな」
「ですが、それでも抜きん出ていたのは傭兵でも軍人でもない、旅人だったのだから、あの大会に参加していた人達には同情を禁じ得ませんでしたね」
結果は明々白々ではありますが、優勝したのは団長でした。決勝であっても相手を一切寄せ付けない完璧な闘いで、セレナの父親も手放しで褒め称えたそうです。
その後、セレナが急遽提案したエキシビジョンマッチにて、セレナは団長と闘い負けてしまいました。これでセレナの婚約は確定――かと思われたその時でした。
「我が娘、セレナの婿になる権利をそなたに与えよう。先の闘いにて娘もそなたを認めたようだ。今からでも婚礼の儀を執り行えるが、どうする?」
「……この大会の褒賞は、セレナ嬢を貰えるということだったはず」
「そうだ。だが、私はこれでもこの国の貴族。そしてセレナはシュトラウス家の長女。嫁にやることは出来ない」
「なら、貰っていくことにしよう」
「……ん?何を言って――」
「ひゃっ!? な、何をしている! 下ろせ!」
「約束通り褒賞であるセレナ嬢は貰っていく。婚約はしない。じゃあな」
「ま、待てっ!!」
武闘会の会場となったリングで父親と話していた団長は、突如セレナを抱えてリングを跳躍して離脱したのです。
呆気に取られていた父親は、すぐ我に返って軍に追跡を指示。しかし、そこは団長。持ち前の身体能力であっと言う間に追手を振り切りました。
「あの後大変だったんだからな?父と母に手紙を書いたら、『今どこにいる?』とか、『今すぐ軍を派遣する!』、なんて言い出したのだから」
「なかなか貴重な経験が出来ただろう?」
「母は私が連れ去られて寝込んだそうで、大変だったみたいだ。一月後に顔を見せに行ってようやく容態が安定したよ」
「それは悪い事をしたな。そのうち何かしらの品を送っておくか」
「ただ、今では孫の顔が見たいなんて手紙に書いていたがな」
「そうか~。いつになるか分からないから、適当に返信しておいてくれ」
「……そこは男らしく、今から作ろう、なんて言わないんだな」
「それのどこが男らしいんだ?それと、冗談はほどほどにな。他の奴らが騒がしくなるのは面倒だ」
「冗談ではないのに。私の婚約者は団長だからな?」
「勝手に決められても困るな。それはそれとして、弟子たちの訓練は順調か?」
明らかな話題逸らしに頬を膨らませたセレナではあったが、諦めてそれに乗るのだった。まあ、これ以上話を膨らませても自爆する未来しか見えませんが。
「……訓練は順調だ。ただ、今の外の状況のせいでまともに実戦訓練は受けれていない」
「もうじき遠征組が戻る。小言――どころか直々の指導を受けないようにちゃんとしておけよ。怒られても俺は知らないからな?」
「分かっている。皆、今はそのことで頭が一杯だ」
「そうか。さて、そろそろ寝る時間だ。部屋に戻れ」
「もうそんな時間でしたか。今日もありがとうございました」
「そうだな。そろそろ寝ないと明日に響きそうだ」
「遠征組が戻って来たら慌ただしくなる。やらなきゃならんことは今のうちにやっておけよ?――シロ、部屋に戻れ」
団長に呼び掛けられると、団長の膝枕で寝ていたシロは眠そうな目をこすりながら起き上がりました。あれ?いつからそこに?
セレナも同じく驚いて目を見開いていました。え?ど、どういうことでしょう?シロの気配遮断が凄かったのでしょうか?それとも団長が…?
「――う…ん?団長……」
「なんだ?」
「――抱っこ」
「はぁ……セレナ、連れてけ」
「分かった。行くぞ、シロ」
「――団長、おやすみ」
「おやすみ」
シロを背負いながらセレナは出て行きました。私もそろそろ眠たいので一緒に部屋を出るとしましょう。
「まったく……俺がいなくなったらどうするんだ?」
「――そんなこと、微塵も考えてないんじゃないかしら?」
いつの間にか、団長が座っている椅子の背後に宙に浮かぶ少女がいた。
「だろうな。それで、今はどの辺りなんだ?ドロシー」
「今は凍土大陸を歩き回ってるわ」
「みんなは元気か?」
「ええ、元気よ。元気がありすぎて困っちゃうくらい。みんな早く帰りたいみたい。弟子が恋しいのね」
「その弟子たちは師匠たちがいつ帰ってくるのかと戦々恐々としてるぞ」
「それを伝えると結構凹む子達が多いわよ~。特にシルヴィアとか」
「あいつはリリーとスーリヤを溺愛してるからな」
「彼女だけじゃないわよ。みんな弟子を溺愛してるもの」
「でも、それが弟子たちには伝わってないと」
「あと、誰かさんが甘やかしてるせいでもあるけどね?」
「さて、誰の事だ?」
「はぁ……。帰って来てから延々と酒を飲まされても知らないわよ?」
「その時はその時だ。そろそろ寝た方がいいんじゃないか?思念体を飛ばすのは結構疲れるだろう?」
「そうね、そろそろ向こうに戻るわ。お土産を期待しててね♡」
「引率頑張れ~」
ドロシーは投げキッスをすると、存在が薄れるようにして背景に溶けていった。ドロシーがいなくなったのを確認すると、クロは深い溜め息を吐き出した。
「最近また疲れてきたな……。そろそろあそこに行くか」
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