エピローグ 団長たちの悩み事

 今日もまた、俺は他の4ギルドの団長と飲み会中。

 場所は前回と同じ場所で、完全防音仕様の個室を完備するちょっと御高い二階建ての御店だ。

 王城からそれなりに離れ、ギルドがが集まる区画から近い場所にある。

 来るのは基本的に貴族とか豪商なんかのお金持ちくらいで、あとは俺達みたいな団長とかも利用する。

 防音仕様だから機密性の高い交渉や話合いを行う時によく使われる。

 内容は先日の一件だ。



「お前たちのところの王女はどうなんだ?」

「俺のところのはちょっとな……」

「なんだ、問題児なのか?」

「気が強いというかなんというかだな……」


 なんだこいつ。随分と曖昧な反応だな。


「彼のギルドで三本の指に入るくらい若手の中で強いの。だから今、彼のところは男たちの立場が無くなってきてるのよ」


 事情を知っているらしいリヴィが説明してくれた。

 口の端が吊り上がってるところを見ると、愉快な話のようだ。



「輪を乱すのなら出してしまえばいいんじゃないか?」

「輪を乱しているわけじゃないのよ。逆に強めているくらい」

「強めている? じゃあ何が問題なんだ?」

「……ファンクラブなるものが内部で出来てしまってな」


 ファンクラブか……そういえば、ウチの幹部にもファンがいるとか聞いたな。

 まったく理解できんが、高嶺の花だからこういうことが起こるのか?

 まあ、今はそんなことはどうでもいいか。


「それで、結局のところ何が問題なんだ?」

「彼女を中心に派閥が生まれてしまったんだ。別に問題を起こしているわけではないのだが、仕事が疎かになっている者が現れてな……」

「今、彼のところに仕事が舞い込んで来てるんだけど、なかなか消化出来ていないのよ。で、結局他のギルドに流れるってことが続いてるの」

「我々としては、仕事が増えるので良いことなんですけど――」

「彼のところはちょっとグダグダになってきてるんだよね」


 ファルとキルガスが苦笑いを浮かべている。

 察するに、意外と長い期間続いているみたいだな。 


「他はどうなんだ?」

「私のところは―――」



 結果から言うと、ベレスのところだけだったらしい。

 五大ギルドに各三人ずつ派遣されている。

 リヴリティアのところはまあ、上下関係が厳しいからわかる。

 ファルティナのところは大人しい性格の子達ばかりらしい。

 キルガスのところは……


「僕のところはね、こう…染まっちゃってね……」


 アマゾネスよりもアマゾネスな女の子たちに感化されて逞しくなったらしい。

 ただ、ベレスのところと違ってファンクラブが出来るほどではないらしい。

 というか、どんどん技術を吸収して即戦力になっているんだとか。

 スゴイ適応能力だな。


 ウチ? ウチは前にも言ったが、絶賛修行中だ。

 幹部候補としてビシビシ鍛えられている最中で、実力はまだまだだ。



「彼女たちの扱いには気を付けないといけないわよね。ヘタに前線に出して怪我でもさせようものなら貴族がこぞって批判してくるだろうし」

「でも腫れ物に触れるかのように扱うとそれもまた批判されますよね」

「御付き合いなんてもってのほか。キスしたら何をされるか……」

「我々のそんな気苦労も知らず、彼女たちはな……」


 男連中はかなり気を遣っているようで、顔に苦労が表れている。

 まあ、女性だけのギルドの方が珍しいからな。


「自由にのびのび育てればいいのさ。ヘタに子供扱いすると拗ねるぞ」

「そんな風に扱えるのは貴方だけよ?」

「そうです! 私達がどれだけ苦慮しているのか、貴方は知らないんです! 貴方のところは何でもかんでもやらせ過ぎなのでは?!」

「君が自由にさせ過ぎると僕らのところにも色々と波及するからね。少しは考えてくれると嬉しいな」

「……お前の女子に対する手練手管を享受してくれないか?」


 俺はナンパ男のレッテルでも張られているのか?

 女を篭絡する手練手管なんて俺が知るわけないだろう。

 幹部が抑え込んでいるだけだ。

 あと、彼女たちを制御するのは無理だ。

 他のところでもやりたい放題やってるのはよく知ってる。

 俺はとっくに諦めてるからな!



「いつ王女として復帰するんだろうな」

「こいつ、最初っから諦めてやがった……」

「話を変えましょう。―――貴族をどうすればいいと思う?」


(こいつ、まさかもう酔ってるのか?)

(おそらく、またあったんでしょうね……)

(これは悪酔いの流れだね……)


「今日は何人だ?」


((( ちょっとーー!!!少しは空気読んで!! )))


「おじさまから三通。お子さまから5通よ。以前と同じ人も含まれてるわ」

「そんなにか。モテモテだな」


 黒くて長い髪のリヴィはスタイル抜群で独身ということもあり、求婚されるのは日常茶飯事。多い日で千通届いたこともあるとか。


「モテても嬉しくないわ。一度こっぴどくフッたのにまだ未練タラタラでウザいのよ。あと、体とギルド目当てだってことが透けて見えるのよね」 

「それはなんとも……男だとそういうことは滅多に無いからな。気持ちはわからんが、それだけ注目されているってことだろう? 実力も、組織も」

「そうね、そこだけは嬉しいわ。ただ、鬱陶しくてそろそろ手を滑らせてしまいそうで怖いわ」


((( 怒りに任せて殺さないでね!! )))




 今日の収穫。

 リヴリティアはそろそろ爆発しそうである。

 飲ませて発散させないとそのうち王都に雷が轟きそうだな……


 ベレスは自己責任ということで、自身で問題を解決してもらうことになった。

 というか、他人のところの王女様に構っている余裕は俺達には無い。


 最後に、王女たちはこれからもやりたい放題やらせる方針になった。

 どうしようもないからな。

 王女に復帰するまではやりたいことはなんでもやらせてあげよう。




 実はこの会談、王女たちに盗聴されていた。

 盗聴の術式を付けられていたのは意外なことにファルティナであった。

 たった一人、気付いていたので自分の発言が聞かれないように対盗聴術式を使っていた裏切り者がいたのは内緒。

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