第145話 ゴブリン達の回収

 ゴブリンの集落を集める。ペスカの言葉に、ズマは首を傾げた。同時に冬也も首を傾げる。


「どうやってだよ、何か考えが有るのか?」


 冬也の問いに、ペスカは少し笑みを浮かべる。

 この大陸に来て、自分がしでかした事を、冬也は覚えていないのだろうか。その出来事は、冬也の出自に関連してるだろう事も、きっと理解していないのだろう。

 ペスカは、冬也を指さして言い放つ。


「お兄ちゃんがやるんだよ」

「何をだよ! わかんねぇよ! 俺一人で沢山のゴブリンを抱えるのか?」

「違うよ。お兄ちゃんと私は、ここから動かないの」

「じゃあ、こいつか? 糞弱っちいから、移動中にボコられるぞ」


 冬也はズマを指さしたが、ペスカは首を振った。


「フフ、お兄ちゃん。まだ気が付いてないね。ここはどこ?」

「ドラグなんとかって大陸だな」

「ドラグスメリアね。そこまで大きいんじゃ無くてさ、この辺りは何て言う?」

「うん? ジャングルか?」

「正解! そんで、ここまで来る時に、お兄ちゃんは有る事をしました。何でしょう?」

「何かしたか?」


 縛らく冬也は考えこむと、突然に立ち上がる。


「そうだ! 俺は、木に命令したぞ!」

「当り! じゃあ何をするか、もうわかるかな?」

「木に命令して、集落を引っ越しさせるのか?」

「お兄ちゃん。そこまではしなくて良いよ。ゴブリン達だけ動かせば良いの。出来そう?」

「あ~。どうだろう。やってみるか」


 小屋を出ようとする冬也に、ペスカが声をかける。


「お兄ちゃん。私の神気は、英雄視された所から来てる。お兄ちゃんの力は、どこから来てる? ちゃんと考えれば、お兄ちゃんなら出来るよ」


 ペスカの言葉は、冬也でも簡単に理解出来た。

 ラフィスフィア大陸の中央部で、ゾンビの大軍を浄化した時に、母親である女神フィアーナとの繋がりを感じていた。

 大量のゾンビ相手に自分の神気だけでは足りず、大地に眠る女神フィアーナの力を借りて浄化をした。その後、旧メルドマリューネに入った時にも、母との繋がりは感じ続けていた。

 神でも人間でも無い、半端な存在である冬也。それでも、強大な力を持った邪神ロメリアに、渡り合ってみせた。

 日本から異世界ロイスマリアに来て、僅か数か月で本物の神と渡り合える程に、冬也は神気を研ぎ澄ませた。

 その力の源流は言うまでも無い。原初の神々の中でも、一番大きな力を持つ大地母神の一柱。女神フィアーナの力が、冬也の中にしっかりと受け継がれているからだ。

 

 冬也は、高尾での戦い以来、己の内なる力に問いかけ続けていた。

 自分には何が出来る。この力は、何をする為のものか。この力で、自分は何をしたい。

 何を守りたい。何を救いたい。何を成し遂げたい。

 

 家族を、いやペスカを守りたい。

 その一心で、冬也は幼い頃から、体術を鍛え続けて来た。しかし異世界に来て、力不足を否応なしに感じさせられた。新たに魔法を覚え、剣技を磨き、戦う術を磨いた。

 

 東京での異能力者大量発生に、大切な親友が巻き込まれた。そして、親友と幼馴染が、異世界に来る破目になった。

 ペスカの過去を知った。ペスカの因縁は、自分にとっても、関わり深いものとなった。

 

 邪神ロメリアと渡り合える力が欲しい。

 あの強大な力から、ペスカと親友達を守りたい。苦しんでいる人が居れば、救いたい。異世界ロイスマリアは、既に見知らぬ他人の世界では無い。多くの知り合いが出来た。

 勇敢に戦い、散っていった友に、後の世界を託された。


 大切な人達を守りたい。この世界を救いたい。

 冬也は己に問いかける度に、内に秘められた力の存在が、この世界の大地と深く関わっている事を感じた。

 この力は、女神フィアーナから譲り受けた、大地の力。その事に気が付いてから、冬也は神気を意図的に操れる様になっていった。


 そして今、冬也は目を瞑り、瞑想をする様に息を整える。思い描くのは、少女の様な体躯につり目がちな女神。ドラグスメリア大陸に来るきっかけとなった、大地母神ミュールの姿。


 冬也は大地に繋がる様に、意識を深く沈めていく。深く、強く大地の力を探っていく。


 必要なのは、脅す事では無い。屈服させるのではなく、大地や木々に助力を願う。話しかける様に、冬也は大地に意思を伝える。

 神気を伝い、冬也の想いが大地を巡り、木々にも伝わっていく。


 まるで冬也の意思に答える様に、集落を囲む密林の木々が騒めき出す。冬也は、大地や木々の熱い息吹を感じた。木々の騒めきが静まった頃、大きく息を吐いた冬也は、閉じていた目を開ける。

 

「ありがとう。よろしく頼むぜ」


 感謝の言葉に、再び密林の木々が騒めき、大地が揺れる。神の末席に加わった冬也を、ドラグスメリアの密林が歓待していた。


「ズマ。お前の仲間達は、ここから右手と左手方向だな」


 突然の冬也の言葉に、ズマは目を皿の様にした。


「その通りだ。俺は何も言ってないぞ。なぜわかった?」

「いや、森が教えてくれた。それと、お前等の仲間は無事だ。かなりの大怪我だがな。直ぐに助ければ、命は繋がるだろうよ」


 ズマの驚いた表情は、喜びのものに変わる。そして身を乗り出して、冬也に縋り付いた。

 

「頼む。仲間を助けてくれ。お願いだ」

「任せておけ。直ぐに助ける。ズマ、お前は小屋を整理して、受け入れる準備をしろ。時間がねぇぞ、急げよ」


 冬也は再び集中して、密林に意思を伝える。密林は冬也の意思を感じ取り、騒めく様に動き出した。


「お兄ちゃん。出来たんだね」

「あぁ。なんとかな」

「この森は、ラフィスフィアと違うな。意思を持ってる。不思議な森だよ。おかげで余り神気を使わずに済みそうだ」

「そうだね、お兄ちゃん。それで、何かわかった?」

「いや。木々や大地は何か変だって感じてるけど、具体的な違和感は上手く説明出来ないってよ」

「そっか。それにしても、密林とお話するなんて、お兄ちゃんがどんどん神がかっていくね」

「いや、一応神だしな。それにお前も神認定されたんだろ。俺だけ変な風に言うんじゃねぇよ」


 一仕事終えた冬也が、ペスカと雑談をしていた。しかし、のんびりした時間は、直ぐに壊される。

 冬也は木々から、ゴブリン達の中に異物が混じっている事を知らされる。慌てて冬也は、周囲を探知した。だが、怪しい気配は感じられない。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

「何だかゴブリンの中に、変なのが混じってるっぽいんだよ」

「ねえ、それってさ。あれじゃない」


 耳を澄ませば、ペスカが指を指した方角から、妙な叫び声が聞こえて来る。それは徐々にはっきりとしてきた。


「・・・ニャ、・・・って言ってるニャ。・・・酷いニャ」


 蔦を器用に使い、木々がゴブリン達をバケツリレーの様に運んでくる。集落の入り口に、傷付いたゴブリン達が積まれ、ズマが小屋に運んでいく。

 だが、運ばれるゴブリン達の中に、明らかに違和感の有る者がいた。


「離せニャ、離せって言ってるニャ。何するニャ。止めるニャ」


 ペスカと冬也は、どこかで見た覚えの有る顔に、首を傾げる。

 蔦で頑丈にくるまれて、運ばれて来たのは、キャットピープルであった。集落の入り口まで運ばれたキャットピープルは、放り投げられる。

 キャットピープルは、空中で回転し器用に着地した。その瞬間、キャットピープルとペスカ達の目が合った。


「あ~! お前等、あの時の人間ニャ! お前等のせいで、大変だったニャ! どうしてくれるニャ!」

「あぁ? んだ手前!」


 毛を逆立てて、ペスカ達を睨むキャットピープル。それに対し、冬也は威嚇する様にキャットピープルを睨みつける。

 その光景に、ペスカはデジャブの様な感覚を覚える。そして朧げな記憶が鮮明となる。

 

「あ~! お兄ちゃん。アレだよアレ! アンドロケインで会った、猫の隊長だよ」


 ペスカの言葉に、冬也も記憶を呼び覚ました。


「おぉ! あの残念猫か。何でこんな所にいるんだ?」

「残念じゃないニャ。それと、理由はラアルフィーネ様に聞くニャ」


 ペスカは、女神達との別れ際を思い出す。

 確か女神ラアルフィーネは、助っ人を送ると言っていた。まさか女神ラアルフィーネは、猫の隊長を助っ人に寄こしたのか。寧ろ足手まといに、ならないだろうか。

 キャトロールでの、猫の隊長の行動を思い出し、ペスカは頭を抱えたくなった。 

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