第123話 神の資格 その2

 神の有り方には、三種類が存在する。元から神として生まれた者と、人の想念により生まれた神。そして、地球には英雄が死した後に、信仰を集め神と呼ばれる事が有る。


 ペスカは、ラフィスフィア大陸で生前に英雄と呼ばれていた。その英雄信仰は今も根深く残っている。

 冬也に指摘されるまで、ペスカさえも自身のマナに宿る神気に、気が付いていなかった。ペスカは人で有りながら、その身に神の力を宿し、その力をコントロールした。


 それは、只人では成し得ない偉業。その偉業は、邪神ロメリアの神域で力を発揮した。力の源である、淀んだ瘴気を吹き飛ばしてみせた。多くの人間の命を糧に、作り上げた領域は、その溜め込んだ力を失った。


「予想以上に、上手く行ったな」

「お兄ちゃんの挑発が効いたんだよ」

「ぎざまらぁ、もう許さんぞ~」


 酷く表情を歪ませた邪神ロメリアが、ペスカ達を睨め付ける。

 

「何を許さないって? 馬鹿じゃないの。お兄ちゃんが言ってたでしょ。あんたはもう詰んでいるんだよ」

「調子に乗るなぁ。殺す、殺す、殺すぅぅあああ」


 雄叫びにも似た叫び声を上げ、邪神ロメリアは神気を高める。黒い剣には、今まで吸い込み続けた瘴気が蓄えられている。更にその身には、嫉妬の女神メイロードの神気も籠められている。

 言わば、二柱分の神気。

 邪神ロメリアの優位は、変わらない。だが、邪神ロメリアは、その身体を震わせる。それは、以前に感じた事が有る、心の奥底から沸き起こる感覚。その身に刻まれた、死の恐怖が蘇る。


「早くかかって来なくて良いのかよ。もたもたしてっと、お前の時間が無くなるぞ。地上の浄化がどれだけ、進んでいるか教えてやろうか?」

「不可能だ! どれだけの悪意を集めたと思っている!」

「不可能じゃ無いよ。実際にあんたの領域は、私が浄化したでしょ」

「もう一つ良い事を教えてやるよ。お前の神格、丸見えだ」


 ☆ ☆ ☆


「ねぇ、工藤先輩。何かモンスターが弱くなった気がしませんか? それに城の揺れも収まった様な」

「確かに勢力が弱まった気がするね。それに、心なしか空気が軽い。でも、城の中は大丈夫なのかな」


 モンスター達の状況に、空と翔一は違和感を感じていた。猛然と襲いかかって来ていたモンスター達は、一時より勢力を弱めている。息苦しさが、弱まっている。

 そして、大きく揺れていた城が、静かな佇みを見せている。

 

 空と翔一は、ペスカ達の勝利を疑っていない。きっと帰って来ると信じて、戦っていた。だが、何が起きているのか全くわからない。


 モンスターを倒しながら会話をしていると、ふいに声が聞こえる。城の中から、響いて来る声に、二人は振り返った。


「空殿、翔一殿、兄は私が倒しました。後はロメリアだけです。今、ペスカ様と冬也様が戦っていらっしゃいます」

「クラウスさん!」

「無事で良かった!」

「モンスターの掃討、私の力をお使い下さい」

「ちょっと、そんな場合じゃ無いでしょ! フラフラじゃないですか。工藤先輩、少しの間だけ一人で頑張って下さい。クラウスさんは、早く車に乗って!」


 全力で戦って力尽きたのか、クラウスはフラフラと歩く。もう、歩く事すら辛いだろう。体を休ませなければならないだろう。しかし、クラウスは戦う意思を示す。

 だが、空は声を荒げた。


 翔一がライフルでモンスターを狙撃する中、空はクラウスを車の中に引きずり込む。空はすぐさま、クラウスに治癒の魔法をかけた後、糧食代わりに作ったサンドウィッチを差し出した。


「取り敢えずは、食べて休んでからです。あんまり無茶が過ぎると、ペスカちゃんに言いつけますからね」

「あぁ、すまない」

「事情はよく知らないですけど、やり遂げたんですよね」

「あぁ、勿論だ」

「だったら、後はゆっくり休んで下さい。助けて下さるのは嬉しいです。でも、ここは私達の戦場です。私達にも、譲れない物くらい有るんですよ」


 空はクラウスに笑顔を見せて、魔攻砲の発射席に座り狙いを定める。空と翔一の心に、光明が差す。ほんの僅かに光りを手繰り寄せる様に、空は魔攻砲の引き鉄を弾いた。

  

 ☆ ☆ ☆ 


 女神フィアーナは、その異変に驚きを隠せずにいた。今まで抵抗を見せていた汚染された大地は、まるで力を失った様に浄化が進んでいく。邪神ロメリアに支配されていた邪気が、解放されていくのを感じる。


「フィアーナ、何ですこれは。ロメリアの力が弱まっているんですか?」

「違うわよ。ロメリアの支配下にあった力が、解放されていくのね」

「誰がこんな事を? 貴女の息子ですか? ロメリアの神域で、それだけの力を使えるのは、半神では難しいですよ」

「セリュシオネ、あの子よ。ペスカちゃん」

「あの子供は、人間でしょう? 曲がりなりにもロメリアは神ですよ。神域を浄化して、力を弱めるなんて出来るはずが無いでしょう?」

「出来るわよ。あの子には、神気が宿り始めてるもの。制御が出来るとは思わなかったけど」

「フィアーナ、それではもう神ではないですか」

「まだ人間だけどね。いずれは、そうなるでしょうね」

「もしそれが本当なら、原初の神をも凌駕する力を持ちかねませんよ。危険ですね」

「あの子なら大丈夫よ、セリュシオネ。冬也君が付いてるもの」


 女神フィアーナは、笑みを深めて声を上げる。

 

「さぁ、もう一息! 一気に浄化するわよ」

  

 ☆ ☆ ☆ 

 

 邪神ロメリアは、目の前にいる二人の言っている事が、全く理解出来なかった。今の状況を全く理解出来なかった。三柱の神を犠牲にして、時間を作った。エルフを操り、人を殺し尽くした。大陸中に恐怖を広め続けた。


 悪意の塊は、これから大陸を飲み込むはずだった。だが何故、自分の領域が浄化されている。何故、浄化が進んでいる。溜め込んだ力は消えて無くなった。神々すら止められない程の力は、何処にいった。

 こいつ等のせいだ。全て、こいつ等が計算を狂わせた。


 憎い、憎い、憎い、憎い、憎い。

 殺す、殺す、殺す、殺す、殺す。


 そして邪神ロメリアは、残った神気を一気に開放する。

 もう良い。大地も、空も、全て消えてしまえ。人間も神も、何もかも消えてしまえ。

 

 この瞬間、浄化された邪神ロメリアの神域は、消し飛ばされた。

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