第43話 ペスカと友情、それにライバル

 神社で土地神が現れ、助言めいた事を呟いて消えた。

 土地神が伝えたかった事は、ペスカと冬也の二人は一切理解出来ずにいる。ただ、土地神の神威にあてられ、意識を失っている空を放って置く訳にはいかない。取り敢えず二人は、空を自宅に帰す事にした。


「取り敢えず兄ちゃんが背負うから、ペスカは道案内頼む。空ちゃんの家あんまり覚えて無いんだよ」


 自ら率先して背負おうとするのは、冬也らしい優しさであろう。しかし、冬也とて思春期の男の子である。決して下心が無いとは、言い切れまい。

 冬也を一挙手一投足を観察すると、ペスカは少し眉を吊り上げる。


「わかったけど、お兄ちゃん。空ちゃんで変な妄想したら、泣かすよ!」

「何言ってるんだよ。馬鹿だな~」


 冬也は空を背負って立ちが上がる。背中に当たる柔らかな感触に、冬也は頬を緩ませる。そんな冬也は、ペスカはじっと見つめて声を荒げた。

 

「ほら、やっぱりだ! お兄ちゃんの顔がにやけてる。空ちゃんはおっぱい大きいもんね!」 

「な、何言ってんだよ。にやけてねぇよ」


 冬也が体を揺らす度に、背に心地よい感触を感じる。


「みんなおっぱい、おっぱいって。確かに空ちゃんは、清楚系美人でおっぱいが大きいけど、おに~ちゃんは私のおっぱいに欲情しなよ!」


 顔を真っ赤にして捲し立てるペスカに、冬也は少し汗をかきながら答える。


「兄妹で何言ってんだ馬鹿!」

「良いんだよ。血が繋がってないから。夜中に襲いに来なよ! じゃないと私が襲いに行くよ!」

「だから、さっきから馬鹿じゃねぇのか! 恥ずかしい事言ってんじゃねぇよ」


 ペスカは頬を膨らませて先を歩く。冬也は背中の感触を味わいながら、ペスカの後に続いた。神社を出て住宅街を歩くと、直ぐに空の自宅が見えて来た。


「あれが空ちゃんのお家だよ。残念だったねお兄ちゃん」


 冬也は至って平然を装っているつもりだったが、ペスカにはお見通しなのだろう。


「続きが味わいたかったら、私ので我慢するんだね」


 ペスカが頬を膨らませながら、呼び鈴を押す。しかし応答は無い。どうしようかと二人が考えていると、冬也の背中から小さな声が聞こえた。


「ペスカちゃん。両親は共働きでいないの。それと冬也さん、ありがとうございます。もう降ろしてください」


 ペスカが冬也の背に視線を向けると、顔を真っ赤に染めた空がいた。冬也が背から降ろすと、ペスカは空に詰め寄る。


「空ちゃん。いつから目を覚ましていたの?」

「神社を出た辺りから.....」


 ペスカは目を見開いて、空を見つめる。


「空ちゃん。恐ろしい子。その魔乳でお兄ちゃんを見事に誘惑するとは」

「ゆ、誘惑はしてないよ.....。冬也さんの背中が温かかったからつい.....」

「そう言う事にしておくよ。でも、お兄ちゃんに手を出したら、その乳モグからね」


 空が胸を両手で隠して冬也の背中に隠れると、ペスカは手をワキワキさせてにじり寄る。ペスカが冬也の目の前を通った所で、冬也の鉄拳がペスカの脳天にさく裂した。


 空の両親は、鍵を掛けて出たのだろう。空は慌てて家を飛び出した為に、鍵を持っていない。家には入るには、両親の帰宅を待つしかない。夕方まで、空を放置する訳にはいかない。時計を見ると既に午前十時を越えている。ペスカと冬也は、既に学校へ行く気が失せている。そして二人は、空を自宅に連れて行く事にした。


「途中で食材の買い出しをするから、回り道して帰るぞ」


 歩き出す冬也の左腕を取り、ペスカは空を見ながらこれ見よがしに胸を押し付ける。それを見た空は、冬也の右腕を胸で挟む様に組む。


「空ちゃん、それは私に勝負を挑もうって事ね! OK! 掛かって来なよ」

「ペスカちゃんとでは、戦力差が有り過ぎて勝負にならないよ!」


 微笑んでペスカを見る空に対して、ペスカは悔しそうに空を見返す。


「お前ら五月蠅い! 二人共離れろ!」

「嫌!」

「嫌です!」


 いつもなら鉄拳をお見舞いする所だが、両手を塞がれている為、何も出来ない。冬也は、深いため息をついた。


「これは女の戦いだよ、お兄ちゃん。邪乳退散!」

「そうですよ、冬也さん。ブラコン撲滅!」


 お互いに引こうとしない美少女二人に、冬也は諦め気味に歩き出した。だが、しっかりと柔らかな感触を味わう。特に右腕の感触を。

 両手に花とはよく言ったものである。だが、それは時と場合によるだろう。三人で横に広がって歩ける程、日本の道は広くない。車の邪魔になり、他の歩行者の邪魔となる。そして、スーパーマーケットに入れば、カートが引けないどころか、他の客に迷惑をかける事になる。


「いい加減、そろそろ離れろ!」

 

 冬也とて、右腕の感触が無くなるのは、少し残念である。しかし、少し声色を変えて言い放った。美少女二人は、冬也を理解しているのだろう。これ以上は、冬也を怒らせると。

 しかし、渋々と冬也から離れる美少女二人は、片やカートは私が引きますと言い、片や品物は私が取るねと張り切っていた。


「昼飯は何が食いたい?」

「パスタがいい!」

「パスタにしましょ!」


「夜飯は?」

「カレーだね!」

「カレーです!」


「お前ら、いつも仲良いよな」


 声を揃えて答える二人を見て、冬也が呟く。


「そりゃ、幼馴染だし。お兄ちゃんを、誘惑さえしなければ」

「幼馴染だから、仲は良いですよ。年中お兄さんに、発情さえしなければ」


 買物を終えて、三人は自宅へ戻る。冬也の両手には、美少女の胸では無く荷物が有る、その美少女二人は、仲良く話をしていた。

 今朝の出来事を忘れる様に、はしゃぐ二人を見て、冬也は思い出して笑顔を浮かべた。


 自宅に辿り着くと三人で買い物を片付ける。冬也は昼ご飯の支度を始め、空が手伝う。それをペスカが恨めしそうに見る。

 暫くするとペスカは興味を失くし、TVを見始めた。


「いいか? こうやってオリーブオイルに、ニンニクの香りを移して行くんだよ。ゆっくり弱火でな」

「わぁ~、勉強になります。冬也さん素敵!」


 楽しそうに料理をする冬也と空を横目にペスカは毒づく。


「何が素敵だ! けっ!」

「ペスカちゃん、感じ悪い!」

「うっさい魔乳星人! 美人で性格良くておっぱい大きい空ちゃんは、モテモテなんだから。違う人狙いなよ!」

「それは私の台詞だよ。私はペスカちゃんみたいに明るく無いし、人見知りだし.....」

「.....仕方ないから空ちゃんは二号さ、あぅ」


 悲しそうに俯く空を見て、ペスカが言いかけた所で台拭きが飛んでくる。


「いい加減にして、テーブル吹けペスカ! ごめんな空ちゃん」


 無遠慮な言葉を投げ合える間柄は、近親者でも難しい場合が有る。何よりも、ライバルとは対等でなくては成り立たない。親友も同様であろう。

 空がペスカを想う様に、ペスカも空を想う。そして、冬也のさり気ない優しさが加わると、やっといつもの日常が戻った感覚になる。俯いていた空は、吹き出すように笑った。


 料理を終え、三人で食事をする。ガヤガヤと賑やかな雰囲気に食事が進む。食事を終え片付け終わった所で、再びテーブルに三人とも着く。三人がテーブルに着くとペスカから声が掛かる。


「さて、情報整理と行こうか! 第一回対策会議in東郷邸の開催!」


 穏やかだった空気が、三人の表情と共に、少し張り詰めたものに変わる。取り巻く状況の把握と現状の打破に向けた、最初の一歩を三人は踏み出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る