第34話 国境門鎮圧戦
遠征隊と領軍の隊長は、ロメリア神関与の可能性を共有した上で、作戦行動の打ち合わせを行った。
先ずは国境門を取り囲み、帝国側の状況確認を行う。次に、アサルトライフルの試射を行い帝国兵の反応を見る。正気に戻る様な反応があれば、一斉攻撃を開始し国境門を制圧する。ただし制圧時には、正気にもどった兵が意識を失う可能性が有る為、制圧班と回収班に分かれて行動する。
制圧班はアサルトライフルで攻撃を続け、回収班は正気に戻った兵達を国境門から連れ出し一か所に集める。
もし帝国兵に変化が無ければ、睡眠系の魔法で全体を無力化し制圧する。その場合、制圧後は全て捕縛する。なるべく死者を出さない様に務めるが、激しい抵抗を行う場合はやむなしとする。
作戦の打ち合わせが終わり、隊長から領軍へ指示が飛び、軍の配置を行った。遠征隊の戦車とトラックを中心に、国境門を約百名のカルーア領軍が取り囲む。アサルトライフルやロケットランチャーを抱えて、領軍の射撃準備が整う。
そしてペスカは指揮のタイミングを計り、戦車の中から国境門の様子を見ていた。
「あ~。何と言うかロボだね」
「そうだな。確かにロボ軍団って感じだ」
ペスカと同じ感覚を、冬也も抱いていた。
王城の会議で聞いた帝国兵の数は約二百名。見える位置にいるのは、五十名ほどだろう。所狭しと国境門の上に陣取り、カルーア領に向かい弓を構えている。恐らく残りの兵は、国境門の中にいるのだろう。
帝国軍の兵士達は報告で聞いた通り、誰もが表情が無い。兵士達に会話は無く、弓や魔法で単調な牽制攻撃を繰り返すだけ。ただし国境門に近寄ろうとするものは、動物であろうと的確に射止める。それは帝国兵の練度を感じさせた。
帝国兵に感じる違和感は、その行動にあった。例え軍隊と言えども、人の集まりである。どれだけ訓練を重ねても、実践の場で複数の兵が全く同じ動きをする事は、不可能だし意味もない。だが帝国兵は、弓に矢をつがえる所から放つ所まで、完全に揃った動きを行う。
決められた行動を淡々と熟す帝国兵には、意志を感じさせない。ある意味では、理想の軍隊なのであろう。だがそれを機械と呼んで、間違いは有るだろうか?
どんな集団でも統率する者がいなければ、烏合の衆であり脅威にはなり得ない。帝国兵にも隊を率いる者がいるはずである。しかし帝国兵を見て思うのは、国境門を閉ざし帝国への侵入を防ごうとしてるだけである。ともすれば彼らに与えられた命令は、ペスカ達を足止めする事だけなのかもしれない。
「取り敢えずお兄ちゃん。誰か一人を撃ってみよう。銃弾が勿体ないから一発で当ててね!」
ペスカは戦車から顔を出し、領軍に待機の合図を送る。冬也は戦車の上でアサルトライフルをセミオートモードにし片膝立ちで構え、国境門の上で魔法を放つ帝国兵に照準を定めた。
「よ~し、お兄ちゃん。やれ~!」
ペスカの合図と共に、冬也はアサルトライフルを撃つ。冬也が放った弾丸は、帝国兵の胸に当った瞬間も弾ける様に光る。光を浴びた帝国兵は、崩れる様に倒れた。
「お兄ちゃんお見事!」
「今更だけどさ、やっぱこれは無いわ。ファンタジー感もミリタリー感も全部ぶち壊しだよ」
「役に立てば、細かい事は良いんだよ。気にし過ぎると剥げるよ」
「剥げる前に白髪になりそうだよ!」
暫く様子を見ていると、撃たれて倒れた兵士が、頭を振りながら起き上る。起き上った兵士は大きな口を開けながら、目を閉じたり開いたりを繰り返し周囲を見渡している。その後、周囲の兵士達に話しかけたり、肩を揺さぶっていた。肩を揺さぶっても何も反応が無い事に、ふらつく様子を見せた兵士は、カルーア領側に向かい大きく手を振り始めた。
「お~! 成功したようだね」
「だな。でも、あの人を放置じゃ可哀そうだぞ」
「そうだね。一気に仕留めよう。お兄ちゃん、いけ~」
冬也は、フルオートモードに切り替え、国境門の上全体に当たる様に、アサルトライフルを左右に振りながら連射する。激しい音と共に飛び出した銃弾は、次々と兵士達に当り光を放つ。撃たれた兵士達が全て倒れ伏すと、冬也はアサルトライフルを下ろした。
激しい銃声に反応したのか、百名以上の帝国兵が国境門から溢れ出して来る。ペスカは領軍へ、アサルトライフルを構える様に合図する。そして帝国兵が近づく頃を狙い、一斉射撃を命じる。放たれた弾丸は、次々に帝国兵を倒して行く。国境門から帝国兵が出て来なくなると、ペスカは領軍に国境門の制圧を命じた。
領軍は作戦通りに二班に分かれ、国境門へ突入する。立て籠っている帝国兵が残り僅かだったのか、制圧自体には然程の時間はかからなかった。やがて、領軍に連れられた帝国兵が続々と、国境門外に運ばれてきた。そんな中、意識を取り戻す帝国兵も出始めた。ただし、国境門にいる事を理解している者は誰もおらず、かなりの動揺をしている様子であった。
邪神に操られていただけで、帝国側に戦う意思が無い事は、明白であろう。ペスカは、領軍へ事情聴取を行う様に命じる。事情聴取を行い判明したのは、全ての帝国兵がここ一週間以上の記憶を失くしていた事であった。
国境門の守備に当たっていた兵士を除く、二百名近くの兵士は国境沿いの領地に駐屯していた中隊で、領都に駐屯していた記憶しか持っていない。帝国側の中隊長に委細を説明すると、驚きの余り立ち竦んでいた。
ペスカは、帝国側の中隊長に領都と帝都への連絡を促す。中隊長は直ぐに号令を飛ばし連絡を行うが、領都、帝都の両方に連絡が取れない状態であった。
だだこれで任務を終わりとし、帝国をそのまま放置する訳にはいくまい。帝国内の状況を確認し、起きているはずの異常を解決するまでが、今回の任務にあたるだろう。次いでペスカは、帝国へ侵攻する許可を国王から貰う様に、シグルドへ指示を出した。
「上手く正気に戻せたのは良かったけど、予想通りになり過ぎて、帝国に入るのが怖いな」
「そうだね。かなりやばい状況かもしれないよ」
ペスカ達が話をしている間、シグルドの通信が終わり、国王の許可が取れたと報告が入る。ペスカは、帝国の中隊長にその旨を説明し、入国の許可を求めた。
だが、他国の兵をむやみに入国させる事は出来ないと、帝国の中隊長は突っぱねる。ただそれは、当たり前の行為である。しかし、帝国側の不明瞭な現状を突かれると、返す言葉は無いはずだ。
そしてペスカは、他国の兵を入れた事が問題になった場合、エルラフィア王国が責任を持つと話す。帝国の中隊長は、渋々入国の許可を出した。
約半分のカルーア領軍を防衛用に残し、残りの領軍は遠征隊の指揮下に入れた。更に帝国軍約二百名を帯同させ、ペスカ達は帝国領内に進軍を開始した。
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