鳴宮郁斗と消えゆく記憶、書き換えられる想い
「
そう呼ばれて、声のした方に目を向ければ、最近
正直最初は、友人と言える人が水森さんだけだった桜峰にも新しい友人が出来たのかと思ったのだが――
「……
確か、そんな名前だったはずだ。
彼女の特徴といえば、やっぱり目に飛び込んでくる金髪ではあるが、本人曰く、ハーフやクォーターでもなく、先祖返りや隔世遺伝の類いとのこと。
そして、桜峰が呼んでるから良いとでも思ったのか、俺の名前を下の名前で呼んでくる一人。
「もう、『愛華』で良いって、言ったじゃないですかぁ」
「それで、何の用?」
彼女の言葉を無視して、用件を尋ねる。
「一体、いつ来るのか分からない
その言い方に、何だかイラッとした。
確かに、水森さんがいつ来るのかも分からないし、もしかしたら時間の無駄なのかも知れないが、それが
「俺がどこで何してようと、お前には関係ないよな?」
先輩だから敬えだとか言うつもりはないが、それでも俺の行動に干渉してくることだけは止めてほしい。
「そうですねぇ。でも、私は水森先輩について知らなきゃなんないんですよ。私が居るのに、その場に居ない人の話をされても困ります」
「それじゃ、今この時間も、お前にとっては困る時間だな」
たとえどんなことをしてこようが、俺に水森さんについて話すことはない。
だから、そう言って、俺はその場を後にするのだが――
「ふぅん、よっぽど深く入り込んでるっぽいなぁ」
その場に残った神原が怪しい笑みを浮かべていたことを、この時の俺は知らなかったのである。
☆★☆
『彼女』と知り合ったのはいつだったのか。
とりあえず、来た記憶もない場所で、何故か倒れていた俺を彼女は見下ろしていた。
「大丈夫?」
ほとんどの女子たちが向けてくる視線とは違い、目の前の彼女は心配そうに見てくるが、本当にそれだけらしい。
「あ、ああ……それで、君は何でこんな所に?」
基本的にこの場所は、生徒でも滅多に立ち寄らない場所だから、俺も近寄らなければ、目の前の彼女も近寄りそうなタイプには見えなかった。
「……それは、個人的な事情だから、答えられない」
「そう、なんだ」
個人的な事情というのが気になったが、知り合ったばかりの彼女に、教えてとは言えなかった。
その後、同じ事が二度ほど続き、気がつけば、彼女――
水森さんは
彼女曰く、異能が音や声に関わるものらしいのだが、まさか、名前はともかく異能まで教えてくれるとは思わなかった。
「ねぇ、まさか狙ってる?」
「毎回会いに来ている君に言われたくないし、私としては関わりたくはない」
「言うねぇ」
実際、目が覚めたときに誰もいなかったら困るから、俺としても彼女のそばにいた方が良いと判断して、彼女のそばにいるのだが、他の奴らは違うらしい。
「水森さんはさ、何で気にしないの?」
自身に関することなのに、全く関係ないかのように、水森さんは振る舞っていた。
「……私が虐められてるのは、自分のせいだと思ってる?」
「それは……そうだろ」
そう答えれば、溜め息を吐かれた。
「……そうかもね。でも、違う」
これは、前置きに過ぎないから、と水森さんは言う。
それがどういう意味なのかは知らないが、彼女が意味深に呟くのはいつものことなので、そんなに気にはしなかった。
彼女と知り合って、半年が経った。
今まで無関心なようにも見えた彼女が、唐突に興味を示したものがあった。
転入生、
俺も一度会ったが、会長たちみたいに彼女に好感は抱いても、好意は抱けなかった。
彼女はどうやら、水森さんのクラスに入り、仲良くなったらしい。
そして、それと同時に、俺は水森さんの微妙な変化にも気づけるようになっていたし、二学期になって、彼女の幼馴染という
それなのに――……
「っ、」
はらはらと、自分の中から何かが剥がれていくような感覚が襲ってきた。
けど、次の瞬間、
水森さんと話したりした記憶が、桜峰と話していたような記憶へと変わっていく。
「
このままでは、ようやく気づき、せっかく抱いた想いが、水森さんと過ごした記憶とともに消えてしまう。
「止めてくれっ……!」
自分を信じてくれるのかを聞いてきた彼女に、「自分の目で見たことぐらいは信じる」と言ったのに。
「っ、」
ああでも、もし俺がいきなりあまり接触しなかった桜峰と話し出したら、水森さんはどんな顔をするのかな。
少し興味があるが、悲しそうな顔をされるのだけは嫌だ。
「けど、逆らえなさそうだ」
この謎の力に。
あの金髪の少女が、何かしたのだろうか?
いや、十中八九そうなのだろう。こうなる直前で会ったのは彼女しかいないのだから。
「っ、駄目だ! それだけは!!」
そして、書き換えられる記憶の最後に見たのは、おそらく会って初めてとなるであろう彼女の笑顔。
その時の記憶さえ、桜峰の笑顔に変わろうとしていた。
「止めろ! せめて、それぐらいは忘れさせないでくれ!!」
それだけは変わるなと、何度も何度も自分に言い聞かせる。
ああ、頭が痛い。
けど、俺は諦めるつもりはない。
「俺は、彼女が好きだからな」
それが、鍵だったのかは分からない。
それでも、次に目覚めた時、確かに記憶は残っていたと思う。
髪が長いから、女子だとは分かったのだが、問題があった。
顔の上半分――鼻から上が、陰に覆われていた。
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