水森飛鳥と絶望へのカウントダウンⅦ(たった一人で抗うための術(すべ)と覚悟を)
暗示を掛けるようにして『大丈夫』だとは思っていたが、あれから(元の世界の方に)帰宅した後も、何度か見直しては唸るのを繰り返していた。
「姉さん。うるさいから、唸るなら部屋に行って」
リビングで唸っていたのが悪かったのか、そんな
「そういえば、姉さんが持ってるその手紙だけど」
「うん?」
内容を見られたらマズいが、封筒の面だけなら何も問題ないはずだ。
「
「知らないだろうね。今日は帰る時間バラバラだったし。で、何で?」
「いや、別に」
単に気になっただけなのかは分からないが、視線を泳がせながら、春馬が尋ねてくる。
「けどそれ……ラブレターだろ?」
まあ、普通はそう思うよね。手紙を見ながら唸ってるわけだし。
「何。私がこういうの貰うとか珍しいと?」
「何でそうなるんだよ。姉さんが貰ったことというよりは、このご時世に手紙とか珍しいな、って思っただけだ」
「まあ、そうだね」
女神が手紙なんていう方法を取ったのは、メールとかだと
だが、もし女神からの手紙を信じるのであれば、
もし、それが破られそうになるのだとすれば、私はきっと黙っていられないだろうから。
「ハル」
「何だよ」
「もし何かあったら、すぐに連絡してきなよ?」
「……事故に遭った奴の言う台詞じゃないだろ、それ」
どうやら、私は一度事故に遭ったこともあり、説得力が無いらしい。
「でもほら、ハルに何かあったら、多分私が走り回ることになるからさ」
「……」
だから、何かあったら言いなさいよ、と言えば、ハルはそのまま黙り込む。
「……は、」
「ん?」
「俺はよく知らないけど、姉さんが置かれてる状況、
あー……
「知ってるんじゃないかな」
少なくとも、修学旅行の時には顔を出していたし。
「なら良いよ。でも、追い詰められるまで話さないのは、姉さんの悪い癖なんだから、明花姉が来る前に、誰かに話すぐらいはしろよ」
そう言うだけ言って、ハルは部屋に戻っていく。
「……誰かに話せたら、そうしてるよ」
話せないから、話しても信じてもらえないかもしれないから、話せないのだ。
もし仮に、話したとして、他の人がハルみたいに
だったら、誰にも話さず、私と
「ねぇ、
☆★☆
――女神からの手紙が届いた日の翌日。
「……」
いつも通りに登校して、いつも通りに授業を受けて。休み時間にはぼんやりと空を眺めてはいるわけだが、さてどうしたものか。
とりあえず、桜峰さんだけではなく生徒会役員との接触も避けるために盗聴もとい情報収集だけは続けているわけだが、会話内容などほとんどいつもと変わらない。
そのうち聞いていても、あまり意味がないということで、情報収集を止める。
「……相談しに……は止めとこ」
居場所は分かっているんだから、
ハルは潰れそうになる前に誰かに話せと言っていたが、
――いや、いなくはないんだけども。
「……行くしか、ないのかな」
せめて、
少なくともあちらは二人で動いているわけだし、何かあってもきっと、フォローし合えるはずだ。……別々に行動中でない限り。
「本っ当、神様ってやつは面倒なことしか与えてこないよな」
故に、悪態とか吐きたくなる。
何で、現状と何も関係のない人間を巻き込もうとするのか。
「……
昨日ぶりだというのに、その声を久し振りに聞いたかのような気がする。
というか、こんなとこで会うとか思ってなかったし、こうなることなら情報収集を止めなきゃ良かったな。
「……」
「どうかした?」
ただ、私が返事をすることもなく、彼を見ているだけだからなのか、不思議そうにされる。
「いや、何でもないよ。それより、
「いや、ちゃんと聞いたけど、でも……」
つまり、こいつはそれを分かった上で声を掛けてきたのか。それとも、咲希だけだと思ったのか。……両方だろうなぁ。
「じゃあ、何でいきなりあんなことを言ったのか、聞きにでも来た?」
「まあ……そうだね。屋上にいなかったから、ちょっと捜したけど」
捜されたら、距離を取ろうと言った意味が無いとは思うのだが。
「別に見つからないからって、捜さなくてもいいよ。今日はたまたま居合わせなかっただけだし」
口ではそう言いながらも、多分、屋上には行かないことだろう。もし行けば、彼らに接触してしまうだろうから。
今だって、彼が近くにいるからか、私から接触してないからノーカン扱いなのかは分からないが、女神から何かしてくる気配のようなものはないものの、またそのうちに手紙などで接触してくるのだろう。
「なら、良いんだけど……」
不安そうな心配そうな目を向けられる。
「それで――」
さっきの疑問を口にしようとしたのだろうが、そのタイミングで今度は
「それじゃ、私はもう行くから……」
「水森さん」
教室に向かおうとすれば、呼び止められる。
「次の休み時間、ちゃんと話そう。いつもの場所で待ってるから」
「……私が行かないとは思わないんだ」
「確かに、その可能性もあるかもしれないけど、でも、水森さんは来るでしょ?」
まるで断言するかのような言い方に、何か言おうにも言えない。
「……
「ん?」
「たとえ、何があっても『友達』でいてくれる?」
その問いは彼の中で意外だったのかどうかは分からないけど、彼に――鳴宮君に対して、私がどう思ってるのかは何となくでも伝わったはずだ。
「もちろん、そのつもりだけど……その……」
「ありがとう」
彼の言葉を遮る形でお礼を言えば、何だか微妙な顔をされてしまう。
まあ、言おうとしていたことを言えなかったんだから、それも仕方ないんだろうけど。
でもこれで、心置きなく女神への対策を出来そうだ。
「この際だから、咲希への伝言も頼んでいいかな」
「桜峰へ? 水森さんが直接言った方が早いんじゃないの?」
その指摘に、首を横に振って、否定する。
確かに連絡先も分かってるし、その方が早いかもしれないが、それでは駄目なのだ。
「確かにそれは間違ってないけど、私があの子に直接言うとなると、言いたくないこととか余計なことまで言っちゃいそうになるからね」
だから、こうして頼んでいる。
「だから、『ごめんなさい』って、咲希に伝えてもらえるかな」
「理由は……」
「話せない。咲希に同じことを聞かれたとしても、話すことはできないから……ごめん」
話したら……話したらきっと、
「でも、もし理由を聞かれたらさ、『貴女が何かした訳じゃないから』って、付け加えておいてくれると助かるかな」
ちゃんと、笑えているだろうか。
もう関わらなくなったとしても、私という同学年生が、後輩が、先輩が居たことを、彼女たちに忘れないでいてもらえるだろうか。
「――ちゃんと、伝えてくれることを信じてるから」
これを聞いた桜峰さんがどのような反応を示し、行動してくるのかは、はっきり言って分からない。でも、
「水っ……!」
私に呼び掛け、何かを言おうとはしたが、何を言ったところで無理だと判断したのだろう。
だって、今の私に声や言葉は届いても、行動を変える気なんてないのだから。
「それじゃあ伝言、お願いね」
そう言って、その場を離れる。
今はまだ、情報も手数が少ないし、ほとんど何も出来ない。けど――
「何もしないよりは
それが、私の――水森
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