水森飛鳥と絶望へのカウントダウンⅤ(動ける人と動けない人)


 雪冬ゆきとさんは、夏樹なつきを連れてくる必要はないと言った。

 それが、私から話を聞いた上で現状を省みてなのか、今はまだその時じゃないと判断してなのかは、私には分からない。

 でも、あの人が今は連れてこなくていいと言ったとはいえ、私の方もいろいろと様子とかを見ながら、夏樹をあの場所に連れていけば良いだけの事。

 そのことを雪冬さんに責められたとしても、やっぱり夏樹は雪冬さんに会うべきだし、逆もまたしかり、だ。


「……やるべき事が増えたなぁ」


 ただでさえ桜峰さくらみねさん関係が片付いてないというのに、ここに来て御子柴みこしば姉弟の問題が発生するとか笑えないし、そのどちらも、私がどうにかしないといけないというのも、全く笑えない。

 そういえば、夏樹を保健室に置いてきたわけだが、先に教室に戻ってるのだろうか?

 足を怪我した訳じゃないから、戻っててもおかしくはないし、私が雪冬さんとどれだけの時間、話していたのかも分からない。


「……」


 時間を確認しても、三分ぐらいしか過ぎた様子もないし、もしかして――……


「あそこって、時間が止まってる……?」


 五分くらいなら疑うことは無かったとは思うが、実際は三分ぐらいしか過ぎていなかった。三分と五分じゃ、結構違う。

 いやまあ、授業に間に合わないことを焦る心配も減るから良いんだけど……結局、あの場所は何だったのだろうか。

 ループを終わらせることが出来ず、この世界に閉じ込められた部分というのは同じではあるが、学園に来たり、あちこちへと動ける雛宮ひなみや先輩と魚住うおずみ先輩、見えない壁によって、あの場所から動けない雪冬さん。

 三人とも、やっていることも、その結果も同じだというのに、何でこんなにも扱いに『差』が出ているのだろうか――?


「……一体、何がどうなってるの」


 今まで、私|(たち)が失敗すれば、雛宮先輩たちのようになるかもしれないと思っていたけど、もしかしたら、雪冬さんのように身動き取れなくなるかもしれないことを思うと、考えを改めないといけないのかもしれない。

 そうなると、夏樹にも話を通すべきなのだろうが、今のあいつに言って大丈夫なのか、不安である。


「……本当に一人、ってか」


 じわじわと何らかの包囲網が出来上がってる気がする。

 私の目的は、この世界の解放。それが果たされなければ、本当に終わりだし、また別の誰かが巻き込まれてしまう。


「それだけは駄目だ。絶対に」


 雪柊さんも、雛宮先輩も、魚住先輩も、みんなで一緒に帰るんだって、約束したから。

 だから、ここまで来ておいて立ち止まるのは、きっと許されない。


「……」

「……水森?」


 その場でうずくまっていたからか、不思議そうに――そして、どこか心配そうに話しかけられる。


「ああ……誰かと思えば、鷹藤たかとう君か」


 そもそも、私に対する呼び方で、誰が呼んでるのか分かるから、そんなに驚くこともないのだが、彼一人で居るのが珍しくて、思わず驚いた目を向けてしまった。


郁斗いくととは、いつも一緒じゃないぞ?」

「知ってるよ」


 同学年組は、意外と一緒にいない時間が多い。

 その間、彼らが何をしているのかは分からないが、そういうときがあることぐらい、私も知っている。


「それで、大丈夫なのか?」

「何が」

うずくまってただろ」


 ああ、一応、心配はしてくれるのね。


「大丈夫。ただ、ちょっと考えることがあって、悩んでただけだし」

「そうか。……俺で良ければ、相談に乗るが?」


 立ち上がりながら返せば、意外な申し出をされる。


「いや、いいよ。もう少し、自分でどうにかしてみるから」

「それなら良いが、無理だけはするなよ」

「出来る限り、気を付けるよ」


 大丈夫と返さないのは、今回ばかりは本当に自信がないから。

 「でもまあ、ありがとうね」と付け加えて告げた後、そのまま教室へと向かう。





「全く、次から次へと問題が出ますね」


 だから、その場に残った鷹藤君が、私が去った後に何をしていたのかなんて分からない。

 ただ、彼は私が来た方・・・・・を見て、呟くようにして告げる。


「――雪冬先輩・・・・


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