水森飛鳥とこの世界Ⅲ(爆弾投下、やってきたのは幼馴染)


 人生というのは、良いことと悪いこと。何が起こるのか分からないものである。

 でもさ。


「えっと、御子柴みこしば夏樹なつきです。これからよろしくお願いします」


 これはあんまりじゃないのかな。神様。


   ☆★☆   


「いや、だから、ごめんって」


 目の前で頭を下げ、手を合わせた我が幼馴染、御子柴夏樹が謝罪してくる。

 現在いる場所は教室でも屋上でもない、人があまり来ない場所の一つである空き教室。

 会話は外に聞こえないように、音響操作チューニングで対策済みである。


 さて、この状況までの経緯だが、そもそも、事の起こりは今朝にまで遡る。

 担任から転入生がいると聞かされ、男か女かと浮き足立つクラスメイトたちに対し、私が「こんなイベントあったっけ?」と知識検索しようとしていた矢先に、担任に促されて入ってきた転入生を見た途端に驚いたのと同時に、怒りも湧いた。


 一体、何しに来たんだ、と。


 そして、怒気を放ちまくる私に気付いた夏樹が、今現在必死に謝りまくっているというわけだ。

 別にもう許してもいいのだが、そう簡単に許してしまっては、この怒りの矛先がどこに向かうか分からないから、今はまだ許すつもりはない。


「一言も聞いてなかったんだけど?」


 それに、神様こと神崎先輩も、何故何も言ってくれないのだ。

 全く、とんでもない爆弾を投下してくれたものだな!


「あ、いや、それはあの人から『内容的に彼女だけだと負担だろうから、いっそのこと君も行ってみる?』と言われて……」

「で、あっさり頷いたの?」


 頷いた夏樹も夏樹だが、先輩も言い方が軽すぎる。


「会ったら一回、ぶん殴ってやる」


 ふふ、と笑みを浮かべれば、若干夏樹が引いていた。


「で?」

「ん?」

「異能。貰ったんでしょ?」

「ああ……」


 何故か目を逸らされる。


「え、まさか、あまり役に立たない系?」

「いや、多分そこまで無能では無いとは思うが……」


 この口振りから、大体のことは把握した。


「まさか、能力の把握してなかったの?」

「つか、する暇なかった。主に知識整理のせいで」


 うわぁ、マジかぁ。

 まあ、神崎先輩のことだから、変な異能は与えてないと思うけど……。


「とりあえず、私は情報収集で、夏樹は能力把握優先。今のところはそれでいい?」

「ああ。少しの間、お前に従うつもりだしな」


 それはそれでどうなのだ。

 けれど、これで懸念事項が一つ増えたわけだ。


「あと、桜峰さんには注意してよ? 夏樹にまで“あちら側”に行かれたら大変なんだから」

「それは大丈夫だと思う」


 何か自信満々に返された。

 理由は分からないけど、相手が相手だけに、不安なのは変わりない。


「なら、いいけどね」


 とにもかくにも、事情を知る良き協力者が出来たと思えば良いのだろう。


「それじゃ、これからよろしくね。幼馴染殿?」

「ああ」


 互いに握手する。


 ただ――この数週間後に、今の会話すら無かったことになるなんて、この時の私たちは知らなかった。


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