第48話 嫁さんの帰還+α

ゆらゆらと目の前の空間が歪み、黒い扉のようなモノが目の前に現れる。


『ユウさま。転移魔法の波動を感知しました』


ウブから思念が入る。


軋む音と共に、黒い扉の中から、黒い瞳に赤毛。黝い肌に長い笹穂状の耳をもつイケメンのダークエルフが姿を現す。


「ただいま」


イケメンのダークエルフは歯を光らせて手をあげる。

サラ・アクイ・メディチ。肉体はダークエルフの男だが中身は俺の嫁さんである。


『嫁さんだ、警戒解除』


『御意』


ウブに問題ないことを告げる。


「お帰り。早かったね」


両手を広げ熱い抱擁。そしてキス。嫁さんアメリカな人だからね。

長らく遠征に出ていたこともあって熱烈だ。

しかしゲート・・・空間転移の魔法を引っ提げての凱旋か。


・・・

・・


ゲート・・・過去アイテムボックスを使ったことのある場所に空間繋げることができる。

魔法の習得条件は、アイテムボックスのスキルをレベル10にすること。

つまりアイテムボックスの派生スキルというわけだ。


「アイテムボックスって、異空間に穴を開けてそこに空間を作るスキルでしょ?不思議に思ったことがない?」


理屈は嫁さんの言う通り、スキルレベル×スキルレベル×スキルレベルメートル分の空間が作れる。

そういえば素材やら生成した宝石やらを無造作に出し入れしているが・・・


「アイテムボックスの中身を整理整頓した記憶がない」


思ったことを告げる。


「そう。整頓しなくても使用者の任意のモノが取り出せる」


嫁さんは、アイテムボックスのスキルを鍛えるにあたっていろいろ試したようだ。

で、旅に必要でいちばん経験値効率が良くだったのが水。

そして気付いたのが、アイテムボックスは収納したモノの数だけ作れること。

スキルレベル×スキルレベル×スキルレベルのメートル分の空間が作れるというのは、ひとつのアイテムボックスが創り出せる空間の大きさの上限ということらしい。

もっとも、ソートソード1本のアイテムボックスを無限に作るということは出来ないようだ。


「んーアイテムボックスとゲートの関連性が判らない」


考えた結果、判らないといった感じで頭をふり肩を竦める。

ここで正解が解っても答えてはいけない。

とくに今のように口の端がムズムズさせているときは要注意である。


「アイテムボックスを開くとき、普通は取り出したいモノを収納した異空間に自動的に繋がるけど、ゲートのスキルを習得すると、今いる空間と異空間そして過去にアイテムボックスを開いた空間に繋げることが出来るの」


嫁さんから、むふーという鼻息と、どやっという擬音が聞こえた・・・ような気がする。


簡単に言うと、俺がゲートスキルを取得すると、ゲートスキルを行使した場所からクスノキダンジョン前のギルド会館地下2階、毘沙門店王都支店地下工房、、毘沙門荘地下自室に繋がるゲートを開くことが出来るということらしい。

アイテムボックスには生物が収納できないという問題も、取り入れ口と取り入れ口の間を限りなく0にすることで回避できるらしい。


「もっとも、ゲートを使って送り届けられる生物が本人を含めてレベル毎に一人だから、当分はソロ活動というのが残念かな」


嫁さんは右手の人差し指をあごに当てて小首を傾げる。

だから、中身女性だからといって男のダークエルフがする仕草じゃなーい。



『カレー回はありません』


鷹の爪、胡椒、ニンニク、生姜、クミン、コリアンダー、カルダモン、百味胡椒、ターメリック、サフラン。

嫁さんのアイテムボックスから色々な植物の種が取り出されていく。

植物も生物だから、木や苗はアイテムボックスには入らない。でも摘んだ花や種や果実は入る。不思議。


いかんいかん現実逃避をしてしまった。

これはあれですね。異世界モノ鉄板の料理カレーを作るのに必要な香辛料の数々。


でもね・・・王都で手に入るよ、カレー粉。

うん。嗅覚に敏感な獣人さんが多いこの国ではあんまり流行ってないけど、王都にも城壁の片隅に一軒だけカレー屋さんがあるよ。


そう。王都に店を作ったときのお店候補を物色しに行ったときに偶然見つけた。

今度食べに行くのね。了解。

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