第10話劉国の王都、ホッキョウが見えてきた。
「こことは別の場所にいたが、気付くと森の中にいたとは。大変でしたね」
俺が身の上を聞いていた宗倉さまはうんうんと大きく頷く。
うわ信じた。
「実はこの世界では珍しくないのです」
なんと・・・
聞くと過去にも異世界から来たという人間が何人もいて異世界の文化や物が持ち込まれているのだという。
関翅雲長や宗倉元福という名前もそういった異世界人がもたらした文化の名残だそうだ。
やけに厨二っぽい名前だと思っていたのが、恐らく先祖の名前を読み方は引き継ぎつつ色んな字を当ててきた結果なのだろう。
その割に科学めいたものは十分に発達していないように見えるが、その辺は神なりの都合というやつかもしれない。
だがそうなると異世界知識でウハウハ商売というのは無理かな?いや、諦めるのはまだ早いか。
「ただあまり吹聴はされないことをお勧めします」
宗倉さまが軽い口調で忠告する。
なんでも未知の知識を力で独占したがる人間が少なからずいるらしい。
で、そのことを知られると厄介ごとにって、えっとちょっと待って。いまの状況は不味くないか?
見ると宗倉さまは悪い顔をしていた。
「わたしはユウさんの強さを知っています。ですから仲良くしましょう。幸い知っているのは私だけだ」
そう。いま馬車の中には俺と宗倉さましかいない。
彼の従者は御者に駆り出され冒険者たちは馬車の上で警戒中だ。
「仲よくと言っても宗倉様に旨味があるとは」
「なに貴女が知識や能力で商売するときに一枚噛ませてもらえれば。異世界の金の卵を産む鶏の話はわたしも知っています」
ああ、得体も知れない俺と二人きりになるとかちょっと謎だったけど了解。
この人、海千山千の妖怪の類だわ。敵にしたらかなりアウトな人。
「わたしも宗倉さまと知り合えて良かったです」
にっこり笑うと宗倉さまの顔も綻ぶ。
「では」
宗倉さまはシャツの袖についているカフスボタンを外す。
「王都で身分を問われ困ったことがあればこれを見せなさい。少なくとも身分は保証してくれるでしょう」
善意っぽいので素直にカフスボタンを受け取る。
カフスボタンは銀製でボタン部分には宗の文字が紋章のようになったものが刻印されている。かなりお高そうだ。
まぁ見せたところで盗みや偽物と疑われるはこの手のお話の定番だから見せないだろうけど。
「冒険者登録を済ませたら我が屋敷に来てください。
はぁ・・・盗みや偽物を疑われてピンチになるフラグじゃないか。
アイテムボックスから指弾用の土を取り出すと岩石生成で5センチほどの石の円盤を生成する。
「ユウさんはアイテムボックス持ちですか」
ええまあと言葉を濁しつつ円盤に格子状の線を入れて・・・
ぺき
円盤を格子に沿ってジグザグにふたつに割って片方を宗倉さまに渡す。
「割符ですか?」
「はい。失礼だとは思いますがカフスボタンだけでは不幸な行き違いが、それは勘弁してください」
「ああ、なるほど。徹底させましょう」
俺の言いたいことを宗倉さまは即座に理解したらしい。
それからガタゴトと馬車に揺られること数時間。
左手側、つまり西に太陽が沈むころに正方に巨大な城門が見えてきた。
「あれが劉国の王都、ホッキョウです」
馬車の上で隣りに座っていたエルフの女弓士。確か名前はマイ・クロソー・フットが説明する。
金髪碧眼で典型的なすとーんボディのエルフ美女だ。
ちなみに銀髪イケメンの魔法使いオーエス・M・ドスと緑髪の女僧侶ウイン・ドゥ―は宗倉さまと共に馬車の中にいる。
俺と宗倉さまの個人的な話が終わったので定期的に見張りと休息を交代でとるようにしたのだ。
「ユウさんが造った
マイは俺の右手の籠手を手に取りコツコツと指で弾く。
岩石生成で造った防具一式を取りあえず
目利きというより幾らなら買うか?だが。
「そうですね耐久度が本当なら金貨1枚と大銀貨5枚までなら出します。でも保証されないなら大銀貨5枚ですね」
マイは断言する。うはっ。いきなり価値3分の1ですか。
そうこの世界では陶器や磁器は衝撃に弱いということで人気がない。
「冒険者ギルドでこの防具の評価を依頼するといいかもしれませんね。青級冒険者の評価があれば金貨1枚と大銀貨5枚は余裕でしょう」
へぇ。じゃあマイさんだとどうなりますかと水を向ける。
「え?わたし達は黄色級なので評価しても価値は大銀貨2枚いけば御の字ですね」
ということだった。
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