第12話朝チュンですか?(眠)


 朝の気配を感じて重たい瞼を渋々こじ開けると、カーテンが翻り窓から差し込んできた鋭い陽光の眩しさに、ボクは起きる気をなくし、腰のあたりにあった布団を顔までずり上げ、再び目を閉じて二度寝することに決めた。


 今日は休日で、しかもボクには予定など全く入っていない。

 このまま昼まで惰眠を貪ろうと、寝返りを打ち大きな抱き枕を抱きしめる。


 ……ん?まてよ。

 ボクの部屋に抱き枕なんてものあったっけ?


 少し考えてみたのだが、ボクの腕の中にある柔らかく暖かい物体の検討が全くつかない。

 訝しく思いながら、ボクは確認のため目を開いた。

 と。


「ーーーぶっ!?」


 ボクが抱き枕と勘違いして抱きしめていたもの……それは見覚えのある小柄な女性だった。


 すうすうと寝息を立てる唇は小さな桜色で、長いまつ毛に彩られた二重の瞳は魅惑の魔法なんかよりも他人の心を魅了し、小学生といっても通用しそうなあどけない顔立ちはもう少し待つと、美人になると確信を持って言えるほどに可愛いかった。


 布団を剥がし全体を見てみると、パジャマが乱れそこから見える肌は窓から差し込む光に反射し眩しいほど白く、お腹は誰に見せても恥ずかしくないほど綺麗にくびれていた。

 だが、少し目線を上にずらすと、そこには顔を見たときには想像がつかないほどの豊満な膨らみが二つ備わっていた。


「おい、起きろって彩奈」


 ボクが名前を呼ぶと、妹の彩奈はまだ寝ぼけているのか急に抱きついてきた。


「……んあ……ハル兄ぃ……」


「おっ、おい、いい加減目を覚ませって彩奈」


 ボクの呼びかけに、彩奈は目をこすりながらようやく起きた。


「えっ、なんでハル兄が私の部屋の中にいるの?」


「ここはボクの部屋だぞ」


 彩奈は部屋の中を見回した後、ボソボソと何かをつぶやいていた。


「そうだっ、昨日の晩はハル兄成分を補充しに……」


「ん?成分がなんだって?」


「なっ、なんでもない。そんなことより、今日の朝ご飯は何がいい?」


「まあなんでもいいけど」


「その返しが一番困るんだけど」


「んー、じゃあ目玉焼きとウインナーで」


「ん、りょーかい」


 あれっなんで彩奈がボクの部屋で寝てたんだ?

 まぁ、いっか。




 そして彩奈に作ってもらった朝ごはんを食べ、今度こそ安眠の世界に誘われようと部屋に戻ると、ケータイの画面にメールを知らせる通知が来ていた。


『おーい、起きてるー?今日の十一時にうちの家に集合なー。ほなまた』


 メールの発信者は、珍しく神咲さんからだった。

 内容があまりに抽象的すぎて意味がわからなかったのでとりあえず『どうしてですか?』と、返信を入れてベットにダイブした。


 先日は瑞希さんの水着姿を見て悶々としていたため、三回戦まで突入したので寝不足なのである。

 数分で現実の世界から意識を遠のけ気持ちのいい眠りに入っていると、ある夢を見た。


 その夢の中では、瑞希さんとボクが夕日の沈みかけた浜辺で二人っきりだった。

 瑞希さんは髪を後ろでまとめてポニーテールにして、うなじがなんとも魅力的であった。


 そして瑞希さんは蕩けた表情でボクを見つめたあと、潤いに満ちた小さな唇をほんの少し突き出して瞼を閉じた。

 ボクは意を決して顔を傾け唇を突き出しながら、そっと彼女の唇に……。




「ハル君?」


 夢にしてはやけに声が鮮明に聞こえる。


「もうっ、起きてよ」


 肩を揺らされ目覚めると、浜辺から場面が急に切り替わった。


「んあー、あれ?瑞希さん?」


「時間もうとっくに過ぎてるよ」


 ここはボクの部屋だ。なんで瑞希さんがここに?

 ……あぁ、わかったぞ、これはまだ夢の続きなんだな。


「早く支度して行こうよ」


 さっきの場面とは打って変わって、瑞希さんはなんだかご立腹のようだ。


「ま、まあまあ、落ち着いて続きを楽しみましょうよ」


 ボクはふくれっ面の瑞希さんをベットに座らせ、さっきの場面でできなかったキスの続きをこの場面で今度こそ成功させようと張り切っていた。


「続き?」


「はい。すぐ終わりますからちょっとだけ目を閉じててください」


「わ、わかった。でもなるべく早くね」


 なんだかさっきとは違った感覚だけれどそんなことどうだっていい、今は目先の唇にボクの唇を重ねるのが先決だ。

 あともう数十センチで瑞希さんと接吻ができるんだ、という高ぶる気持ちをなんとか抑制し、ゆっくりと互いの唇が触れあっ……。


「な、な、な、何してるのよハル兄」


 あと数ミリといったところで乱入して来た彩奈に布団叩きでおもいっきり顔面を叩かれた。

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