第10話夏と言ったら水着ですよね(恥)


 今日は六月二十四日。

 ボクは何事もなく授業を終え、掃除当番の仕事も適当にこなして帰宅しようと教室を出た。


 すると、学年主任の平先生(つるっ禿げ)が太い腕を組み濃い眉の間にしわを寄せながら廊下で、ボクのことを待ちぶせていた。

 そして、ドカドカと大きな足音をたてながら生徒の行き交う廊下を歩き、ボクの目の前に立つと開口一番に怒鳴りつけてきた。


「九重!お前は今日の放課後、学校のプール掃除をしておけ」


「なんでボクなんですか?」


「お前が最近たるんでるからだっ!」


「いやっ、でも……」


「でももクソもあるか!いいか、今日までに掃除が終わらなかったらお前の成績を下げるからな!」


 そんなキリスト教のイエスもびっくりの無慈悲な命令に逆らうことなどできるはずもなく、渋々ハゲから更衣室の鍵を受け取りプールがある第二体育館へ向かった。


 深いため息をつきながら重い足取りで向かっていると、遠くから声をかけられた。


「おー、ハル。なんだ?まだ帰らないのか?」


 体育館は校門と真反対なので、部活中の桐崎は気になったのか近づきながら話しかけてきた。


「いや、あのハゲ平にプール掃除を押し付けられちゃって」


「ほーん、ってことはあの新しい噂はハゲの耳にも届いたんだな」


 桐崎が言う噂とは、屋上の乱闘事件の時にファンクラブを誘き寄せるために使ったボクと瑞希さんが映った写真が一般生徒に見られ、ボクたちが付き合っているんじゃないかと疑う噂だ。


「本当ついてないよ……」


「まあ、そんな落ち込むなって俺も掃除手伝ってやるから」


「でも部活はいいのか?」


「いいよいいよ、ちょうどサボるいい言い訳になるし」


「助かるよ、ありがとう」


 桐崎が陸上部の顧問に抜けるのを頼んでいる頃、ボクのズボンのポケットに入っているケータイからメールの着信音が鳴る。


 誰からのメールなのかは、画面を見るまでもなくわかっている。

 ポケットからケータイを取り出し画面を見ると、ボクの予想通り送信者の欄には白河 瑞希と書かれていた。


『今何してるの?』


 あの事件があって以来、数時間毎にメールが来るようになった。

 おっと、勘違いしないでおくれよ。ボクらは師弟関係なのであって恋人とかではない。そんな瑞希さんの彼氏なんてボクには恐れ多い。


『先生に頼まれて今からプール掃除をするところです。瑞希さんは今何してるんですか?』


 ボクがメールをゆっくりと送信して、またポケットの中にしまおうとしたところで着信音が鳴った。


『ふーん、そうなんだ。私は家に着いて着替え中だよー』


 メールの内容を見て、ボクの頭の中には瑞希さんの下着姿が自然と浮かんできた。


 肩にかかる艶やかな黒髪、起伏に富んだ人類史上最高のプロポーション、手にはさっきまで着ていた制服を持ち、身には上下布一枚しか身につけていない、その布にはフリルのついた純白に小さな赤のリボンがちょこんとついている。

 そして制服を綺麗に折りたたんだ後、ケータイを鞄から取り出し微笑みながらメールを送った後、最後の一枚となった布に手をかけ火照る体を……。


 ま、これ全部想像ですけどね。

 こんなことがスラスラと思い浮かべられるボクは、やはり変態なのでしょうか?


「何ニマニマしてんだ?今のハルの顔相当気持ち悪いぞ」


 桐崎に引かれながら指摘され、ボクは頬を両手で揉みしだいて顔を引き締めた。


「なっ、なんでもない、じゃあさっさと掃除終わらせに行こうか」


「そだなー」




 それからハゲ平への文句を垂らしながらも、二人で着々とプール掃除を進めていった。


「ふー、やっと終わりが見えてきたな」


「あとは水で泡を流すだけだな」


「おしっ、じゃあ俺がホース取って来るよ」


「おう、ありがと」


 デッキブラシを地面に放り投げ、さっき自動販売機で買ったポカリス○ットを一気飲みし、汗をタオルで拭いながら顔を上げ空を見ると、頭上には赤く綺麗な夕日が見えた。


「だーれだ?」


 背後から気配なく接近した誰かは、ボクの視界を細く小さな手のひらを使って奪い、全くもって面白くない質問をしてきた。

 その声は明らかに桐崎の野太い声だったので、ボクは深いため息をつきながらその手を払いのけ、近くに密着してきていたので後ろに下がらせようと胸を押した。


「ひゃん……」


 あれっ?男の胸ってこんなに出てるものかな?

 それにあんな甲高い声出すのかな……?


「あぅ……」


 ふむふむ、薄い布を隔てて程よい弾力があり手の平に吸い付くようなこの感じ……これは間違いなく女性の胸部だろう。

 って言うことは……。


「…………」


 だんだんと状況を理解して、後ろを恐る恐る振りえると、羞恥に悶えながら胸を押さえる瑞希さんの姿があった。

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