第72話 フェイント温泉回
「あっ、これ結構クセになっちゃうかもでやす……」
「気持ちいー!」
スライムバスに取り込まれたロップとレイは、俺の焦りとは裏腹に食べられている状況を楽しみ始めた。
いや、実を言えばサービス回だと悟ってからは俺もそこまで焦ってなかったんだけどね?
リナの説明によるとスライムバスの消化液は程よい刺激らしく、取り込まれてから最初の一時間程は気持ちが良いそうだ。
逆にその一時間を越えると激痛を感じ始め、もう一時間経つと何も感じることが出来なくなるらしい。怖っ。
「うひゃんっ! ちょ、そんなところまで気持ちが良いと、あっしも我慢が……」
「えへへー、スライムさんプルプルだぁー」
上から降ってくる艶かしい声を聞きながら、なるべくそっちを見ないように我慢してスライムバスの表皮を削っていく。
害悪存在の特徴に「一見すると可愛い」とあったのはこれのことだろう。実際には消化されてる最中なので、ほんわかしている場合ではないのだが。
ロップもレイも顔以外は全てスライムに取り込まれているのに、呑気なものだ。彼女たちの声を聞いていると、なんで俺らだけ働いているんだという気分になる。
「スライムバスのバスは、浴槽って意味のバスなのか……。まさか温泉回だったとは……」
この世界には乗り物のバスがないのだから当たり前だけど。
俺の思ってた温泉回とは色々違うな……特にヒロインが食べられている最中なこととか、俺とリナだけあくせく働いてるところとかが。なんて思っていると、リナが愚痴るように一つの提案をしてきた。
「このスライムバス、耐久力高過ぎニャ! これはもう、やるしかないかもニャ……」
「やるって?」
嫌な予感しかしない。
「仕方がニャい……私も突入するニャ!」
「マジで言ってんの!?」
俺が勢いよく突っ込むが、リナにしては珍しくすぐには行動を起こさなかった。変な間が空いてから、リナは俺に振り返って聞く。
「コ、コウタも一緒に来るニャ?」
「え? いやそりゃあ、スライムバスに突入するなら一人じゃ危ないだろ」
「そうかニャ……」
俺が常識的なことを言うと、またもや変な間が。ラノベ的に考えれば俺の思いやり溢れる台詞に感動したシーンに思えるが、そういうわけでもなさそうだ。
どうしたんだろうと思っていると、リナが唐突に服を脱ぎ始めた!
「えぇ!? お前何してんだよ!」
「コウタもさっさと脱ぐニャ! 早くしないとロップ達が手遅れになるニャッ!」
ロップ達が手遅れになるという言葉で、やっとリナの意図が分かる。表皮を削ることが出来ないから、わざと食べられて内側から攻撃しようということなのだろう。
ロップと今のレイでは有効打を叩き出せないため、俺達が魔法でなんとかするしかないのだ。
「でもわざわざ服を脱がなきゃいけないなんて……」
「裸じゃないとスライムバスは受け入れてくれないのニャ! 早く!」
顔を真っ赤にしたリナの剣幕に圧され、俺もしぶしぶ服を脱ぎ始める。
こうして俺達は全員が素っ裸(四人中三人は自分から脱衣)という、完全なる変態パーティーに成り下がってしまった。この異世界、サービスシーン少ない代わりに一回一回が色々すっ飛ばしすぎだろ!
「スライムバスは同時に三人までしか取り込まないから、私達はなるべく近づかないと入れないニャ」
「うぉぉ……マジかよ……」
興奮と羞恥で語彙力を殆ど失いつつも、こちらに背中を向けるリナにフラフラと近づく。そしてリナの指示に従って彼女の細い肩を後ろから掴み、体をなるべく近づけた。
あまりに非現実的な状況だから気がつかなかったが、肌に触れて初めて、彼女が少し震えていることに気がつく。
「だ、大丈夫か? 嫌なら俺は待ってた方が良いんじゃ……」
「いや、大丈夫ニャ。私だけじゃ時間内に助けられるか分からないし、このまま行くべきニャ。それに……」
「それに?」
「前も言ったけど、私は全然イヤじゃない……ニャ」
リナがより顔を真っ赤にして言うと同時、彼女の尻尾が激しく振られて俺の股間をはたきまくった。やめてやめて。これ以上やられるとマジ色々な意味で洒落にならない。
ともかくリナが満更でもなさそうに俺を受け入れてくれたお陰で、俺も一気に気分が上がって踏ん切りがついた。頷き合ってから、俺達はくっつくようにしてスライムバスに飲み込まれる!
「良い湯ニャー!」
「あ、確かに気持ちいい……。じゃなくて、助けに来たぞロップ! レイ!」
お前まさか風呂入りたかっただけかよとリナを睨んだが、相変わらずみんな裸なのであわてて目を逸らす。
おちおちしてたら消化されてしまうので、俺達は魔法で、なるべく胃を中心に攻撃していった。
「おい、あそこにいたぞ!」
「害悪存在だ!」
そうこうしている内に遠くから兵士の団体がやって来たが、スライムバスの討伐は目前である。
割りの良い報酬は渡すまいと、俺とリナは魔力を最大出力にして攻撃を強めた!
体の中が完全に潰された途端スライムバスは派手に弾け、ずっぽりハマっていた俺達は草むらに落とされる。
俺も皆も消化液をかぶってベトベトになっており、冷たい外気にさらされると改めて恥ずかしくなった。
「よりによってなタイミングで人めっちゃ来たニャ……」
「あ、あんまりこっち見ないでくだせぇ……」
「あれ!? 私なんでこんなことになってんだ!?」
やって来た兵士に囲まれて、俺達の羞恥心は余計に増した。
レイも悪すぎるタイミングで脳が修復されたらしく、裸でベトベトでしかも兵士に囲まれているという状況に戸惑いが隠せないようだ。そりゃあな。
「ちょっと兵士さん達。もう害悪存在は倒されたんだから、そろそろ帰ったらどうです?」
流石に兵士達の視線が無遠慮すぎるので、仕方なく俺は彼らに帰るよう促した。女の子がみんな可愛いのである程度見つめてしまうのは仕方ないところがあると分かっていたが、いくらなんでも長すぎる。
が、彼らから返ってきたのは予想外すぎる言葉だった。
「何言ってるんだ、害悪存在はまだ討伐されてないぞ?」
「え?」
兵士の言葉を反芻し、それから彼らの視線の意味を考えて……ゾッとする。
「あらゆるものを巻き上げる」「目的のためなら手段を選ばない」「一見すると可愛い」。これらの特徴は、全て俺らに一致するのだ……! 俺は可愛くないけど!
「やッべ! リナ、ロップ、レイ、逃げるぞ!」
「「逃がすかぁっ!!!」」
ギルドを牛耳り、自分たちの都合のいいようにギルドを乱用する俺達は確かに害悪存在だったことだろう……。どんなクエスト依頼でも取り敢えず採用するという方針が災いして、俺達は自分の討伐依頼を受諾してしまったようだ……。
彼らに捕まった俺たちがギルド係員の座を落とされることはなかったが、日頃の鬱憤を晴らすために酷い目にあったことは言うまでもなかった。
しかし何だかんだあっても、この日のことは俺の良い思い出となっている。
自由にクエストを受けて、皆で楽しく狩りに行く。そんな日々がこれで最後になるなんて。
誰も……。いや、ロップを除けば誰も思っていなかったのだ……。
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