第62話 ロップ、狂う

「もちろんお受けしやす! ギルドは市民の味方でやす、何なりとお申し付け下せぇ!」

「おいっ!」


 ギルドに謎の大金を積んだ市民がやってきて、俺たちは話も聞かずに断った方が良いのではと悩んだ。

 しかし金にがめついロップだけは、今の借金状態に耐えられなかったのか平気で快諾しやがった。これまで見たことのない程の満面の笑みで、正直怖い!


 こんなのは話を聞いただけでも厄介ごとに巻き込まれそうだというのに、借金のストレスでそういう計算が出来なくなっているようだ。


「本当ですか! 実は、はがしてもらいたいクエストの依頼がありまして……」

「はがしてもらいたい?」


 謎の単語に首を傾げると、その人は神妙な顔で……しかしどことなく病んだ目で頷いた。


「今ギルドの壁に貼られているクエスト用紙の一つに、即死魔法の実験体を募集しているクエストがあるでしょう?」


 うわ、それナイス街にもあったやつじゃん。どんだけ火の手広がってんだよ。


「あのクエストを依頼したのは、俺の商売敵というか、魔法研究のライバルなんです。だから万が一にも実験体が集まったら、俺が競争に負けちまうんですよ」

「えー……。でも、流石に依頼されたクエストの用紙を勝手にはがすわけには……」

「え、前の係員さんは快諾してくれましたよ」


 俺が良識に従って反論すると、その市民はさも不思議そうにそんなことを言ってきた。


 いや不思議そうにされましても! それ魔王軍幹部の手口じゃねぇか。


「なんだ、前の係員もやってたんでやすね。じゃあ大丈夫じゃないでやすか!」

「んなわけあるか!」


 俺が盛大に突っ込むが、ロップは怯むどころか駆け足で控え室を出て、件のクエスト用紙を持ってくる。

 そして市民に見せつけるように、目の前でグシャッと握りつぶした。


「有り難うございます! 有り難うございますぅ!」


 ペコペコとお辞儀して感謝してくる市民。それを見て、何故かリナが目を潤ませていた。


「人助けも……悪くないニャ……」

「いや待て、これただの賄賂だからな!? 決して人助けじゃねぇぞ!?」


 人に感謝される経験が少なすぎたせいで、この経験が琴線に触れてしまったらしい。

 大金のすぐそばで、さも良いことをしたというように満足げな顔をしていやがる。


「これ、大丈夫なのかよ……」


 とはいえ感動しているリナを止めるのも憚られて、俺はため息をつくことしか出来なかった。そして勿論、大丈夫なわけがないのである。


 このギルドの騒動が、まさか魔王との対面に関わってくるなんて。この時の俺は当然のように考えていなかった。

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