第54話 ダイソン街のギルド

「えっ、≪不可侵全裸≫様が魔王軍幹部……ですか?」


 ダイソン街のギルドに辿り着いた俺達は、そこの係員に事の顛末を語った。

 とはいえ俺は状況を伝え聞いただけなので、記憶を失ったことだけを伝える。


「何かの冗談……でしょうか? フルチンにそんな大役が務まるとは思えないのですが……」

「結構厳しいこと言うニャ」


 優しげな声で素直な感想を述べる係員に、リナさんも少し引いていた。


「そもそも、魔王軍幹部がどうしてギルドに所属する必要があるんです?」

「この街での発言権を伸ばして、何かしようとしていた……というのが私達の考えでやす。実際、英雄の地位を得ていやしたしね。何をしようとしていたのかまでは思いつきやせんが、これくらいしか考えられやせん……」


 ロップの言葉に係員は困惑の表情を浮かべるばかりであったが、やがて何かを思いついたように頷いた。


「突拍子もない話ですが……。でも確かに、≪不可侵全裸≫が自ら魔獣を倒すことは少なかったですね……」

「そうでやしょう!? 魔王軍幹部だからでやすよ!」


 係員が頷いたことに気を良くして、ロップさんが勢いづく。


「では、少しこちらに来てください。詳しいお話をしましょう」

「そうでやすね」

「あ、ちょっと待っ……」


 係員の手招きに釣られて歩み寄るロップさんを、リナさんが呼び止めようとする。


 しかしそれは間に合わず、係員のいたカウンターの裏側に回った瞬間、ロップさんが係員に腹パンされた。


「ぐはぁっ!」


 野太い悲鳴を上げて、ロップさんが気を失った。いきなりの事態に声を上げそうになるが、係員は口に指を当てて、静かにするよう要求してきた。


「言わんこっちゃない……。やっぱり魔王軍の息がかかってたニャ……」


 表情を歪めながら、リナさんが呟いた。


 あ、やっぱりこの係員さんが敵だったってことなのね!?

 あまりにもスムーズな流れだったから、この世界の挨拶か何かかと思ってしまった。


「騒いでほしくないところを見るに、このギルドの全員が敵ってわけじゃないんだろうが……」

「ロップさんが人質にとられた以上、助けは呼べないってわけですね……」


 さすが異世界、そこら中危険しか転がってない。いきなり遭遇したピンチに、俺は声を震わせながら呟いた。


 係員は、気を失ったロップさんをうまいこと周りから見えないように抱えているため、周囲の助けは期待できない。


「いや、別にロップが人質にとられたのはどうでもいいんだけどな」

「ギルドに敵が何人くらいいるか分からない以上、迂闊には動けないニャ」


 えぇ!? ロップさんが人質なの関係ないの!?


 レイさんもリナさんも、「騙されたのは自己責任」みたいな目でロップさんを見つめていた。シビアすぎる。


「まぁ、今思えば私自身はロップとそんな親しいわけでもなかったしニャア……」

「左に同じく」


 えぇ……。詳しくは知らないけど、ライトノベルのキャラ達って、普通もっと関係良好なもんじゃないの……?


 しかしまぁ、身を挺してまで庇う義理がないのは俺も同じなので、余計なことは言わずに彼女らに同調する。


「えっ? ちょっと、もう少し何かアクション起こしてくださいよ……」


 俺達が何もしてこないのを見て、係員が慌て始める。


 どうやら人質を取るチャンスだったからそうしただけで、具体的に何か目的があったわけではないらしい。


 ≪不可侵全裸≫がギルドに来るまでの時間稼ぎをしたいのだろうが、彼がギルドに来る余裕もないし、何より俺達が動かないのは周りに敵がいるかもしれないからだ。

 ロップさんはどうなっていようが、本当に関係なかった。


「ええっと、今はクエスト参加申請を受け付けていないのですが……。えっ、前から予約してた? あぁ、そうですか……」


 そうこうしている内に、事情を知らない人達がギルドの仕事を受けにカウンターへ群がってくる。


 最初の内は気を失ったロップさんを隠しながら上手いこと対応していた係員だが、人が増えてくると流石にそうもいかなくなり、あっけなく降参した。


「調子に乗らないで下さいよ、私は魔王軍幹部の中でも、最っ弱……!」


 彼女は、まさかの魔王軍幹部だったらしい。名前の安売りにも程がある。


「はっ、ロップを人質にとったのが裏目に出たな!」

「ロップ、よくやったニャ!」


 意識を失いながらも魔王軍幹部の一人を追い詰めたロップさんに、レイさんとリナさんの賛辞が飛んだ。


 魔王軍幹部はとても緩かったが、その倒し方は仲間を見放すような厳しさ。この世界のノリが全然わからない!


「ぐぅぅ、腹痛いでやすぅ……」


 ロップさんも目を覚まし、係員の手から抜け出してきた。


 記憶を失う前の俺なら、何か展開も変わったのだろうか……。

 気づけば俺は、そればかりを考えるようになっていた。


「じゃ、尋問するかニャ」


 そして、リナさんは平然とそう言ったのであった。

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