第13話『ランスロットの正体』


 ステージ3のフィールドには、一部のプレイヤーとアルストロメリアの姿があった。

人数的には7人、ラスボスであるアルテミシアを含めてもフィールドは広めにとってあるのだろう。

さすがにすし詰めだったら、ゲームにならない以前の問題である。

「ステージ3のフィールドは、ある程度の広さが確保されなければ成立はしない――それ程の難易度だ」

 カトレアは――このスペースの広さが想定の範囲内とはいえ、相手が相手なので不安要素がないと言えば嘘になるだろう。

ラスボスのアルテミシアを偽物と言い放った段階で――不安は現実になると思っていたからである。カトレアは彼女の正体を察していた。

【一体、何が始まる?】

【あのメンバーだと、どうなるのか想像が出来ない】

【メンバーと言うよりも、アルストロメリアだな】

【それ以上に気になるのは――乱入した人物だ】

【ランスロット、何をする気なのか?】

 実況スレではランスロットの単語も出始めている。

つまり、今までは影で動いていた気配のする彼女が――本格的に行動を意味していた。

他のプレイヤーには注目されていないので、おそらくはアルストロメリアとランスロット以外はスルーでよいのだろうか?

スルーと言うよりは、もしかすると知名度のない無名プレイヤーかもしれない。

 しかし、カトレアがタブレット端末で別の実況スレを立ち上げると、モブプレイヤーの一名だけだが名前が判明する。

その名前は――まさかの単語だった。これにはカトレアも思考が若干停止するレベルだろう。

「シナリオブレイカーが――駆けつけたのか?」

 実況スレを見てシナリオブレイカーと言う単語を見つけ、その人物が目の前の中継モニターに表示された時には――言葉を失った。

カトレアとしては思わず開いた口を隠すように右手を構えた――が、その顔を周囲が見る事はなかったと言う。

「シナリオブレイカー?」

「一体、何を知っているのか――カトレアは」

「企業機密を握っているかもしれない」

 周囲のスタッフからは、そんな声が聞こえていた。

それさえも聞こえないほどに雑音をシャットアウトしているのが今の彼女である。

【シナリオブレイカーって、どっちだ?】

【砥石伝説の方だろう。別のARゲームでもシナリオブレイカーでエントリーしている人物はいたのだが】

【プロゲーマーの場合、なり済まし防止で同じ名前で別人が登録は出来ないはず】

【それが可能と言う事は、シナリオブレイカーはゲーマーの名前ではないのかも】

【その話題は、今のタイミングで言う物か?】

 実況スレでは微妙な話題が流れている。

しかし、この微妙とも言えるような話題でもカトレアには重要な話題だ。

ARゲームを荒らしまわると言う都市伝説があると言うシナリオブレイカー。その正体を知るチャンスでもあったからである。



 フィールドではアルテミシアが登場したのだが、ゲームの方は始まっていない。

これはゲーム中におけるマッチング待ちの状態になっている事に由来する。この時も持ち時間は消費しないので、プレイヤーは一安心だろう。

7人はいるのだが、このステージでは10人と設定されていた。何故に10人設定なのかは他のプレイヤーにも分からない。

しかし、それを把握していたのはアルストロメリアである。一足先にヘルプファイルを確認し、ルールの詳細をチェックしていたのだ。

他のプレイヤーはランスロットの出現で焦っている状況であり、その内にチェックしていたのかもしれない。

唯一の例外があるとすればランスロット本人かもしれないが、彼女もチェックしていないのだ。一体、どういう事なのか?

『我を偽物と言った事――後悔するがよい!』

 他のメンバーを見下ろすかのような表情で、偽物と言われて激怒したアルテミシアが反論する。

しかし、この反論は後に大きな過ちとなってしまう。これはカトレアも偽物と把握するきっかけとなった。

『お前は、ひとつ――大きなミスをしている』

 見下ろすようなアルテミシアに対し、ランスロットは何も武器を持っていない右手をアルテミシアに向けた状態で断言する。

彼女には――事情が呑み込めているようだ。それに加えて、さりげなく駆けつけたシナリオブレイカーも気付いているようである。

『本来のボスアバターはアドリブで台詞を返したりはしない。AIでも使用されていれば話は別だが――』

 ランスロットのボイスチェンジャーも途中からノイズ交じりで、声がどちらにも聞こえている。

これに対して何かを感じたのは、シナリオブレイカーだった。それに加えて、カトレアも気付いているだろう。

「このタイミングでノイズが――って、仕方がないわね」

 ランスロットはボイスチェンジャーをオフにして、本来の声でしゃべり始めた。女性らしい事が―ーこの段階で判明する。

その声に気付き、ある発言をしようとしたのがシナリオブレイカーだった。


「プロゲーマー、アルテミシア――ここにいたのか!?」

「まさか――アイオワに気付かれた?」

 シナリオブレイカーは、ランスロットがアルテミシアだと分かった段階で――何もない空間から2メートルの長さを誇るビームランチャーを構えた。

しかし、ランスロットことアルテミシアは右手の指を唐突に鳴らし、瞬時にビームランチャーのCGを消滅させて事無きを得る。

ここまでの状態になるのに、わずか10秒にも満たない。それ程の瞬間動作が展開されていた。

しかし、アルストロメリアには目で追えそうな気配だが、現段階では無理である。

『こういう事だったのか――』

 ARメットで素顔を隠したプレイヤーが、更にエントリーする。これで8人になった。

他にも2名がマッチングし、これで10人は揃う。その一方でマッチングメンバーの顔触れに焦り始めるのは、シナリオブレイカーことアイオワだ。

言葉に出来ない焦りをエントリーされたばかりのプレイヤーネームで反応する。アルストロメリアも似たような状況に陥るが、別のタイミングで彼女とは遭遇していた。

『シナリオブレイカーがアイオワだった事には驚きだが――』

 まさかの8人目にマッチングした人物、それはビスマルクだったのである。これには他のプレイヤーも言葉に出来ない。

シナリオブレイカーもアルテミシアとの言い争いを止めるほどなので、相当な豪華メンバーによるマッチングになったのだろう。

(ビスマルク――こちらに気付かれたのか?)

 本物のアルテミシアは、自分の正体がビスマルクにも気付かれたのではないか――と焦り始めている。

シナリオブレイカーの方は逆に正体が誰であろうと開き直っているようだが。



 そして、マッチングメンバーは全員は揃った。

メンバーにはアルストロメリア、ビスマルク、アイオワ、更にはランスロットの正体――アルテミシアも含まれている。

「これだけの人数が揃った以上は――」

 カトレアは悩む。中継を見ている限りでは万事休す――と言う場面ではない。

実況スレやまとめサイトでは潮時と言える状況になりつつあった。

「この顔触れは――まさか?」

 アルストロメリアとシナリオブレイカーが遭遇した事に関して、カトレアは何かを懸念していた。

しかし、それ以上に――マッチングメンバーのリストには、予想外とも言える人物がエントリーしていたのである。

それを見てカトレアは――頭を抱えそうになっていた。

「よりによって彼女まで――ここに集まったと言うの?」

 ここで叫んでしまうと、更にスタッフの動揺を誘うだろう。それを考えて、カトレアは敢えて黙る事にする。

しかし、プレイヤーネームを見て勘の鋭いスタッフであれば――すぐに分かってしまう。

【迂闊だった。まさかガングートもいたとは】

【彼女とシナリオブレイカーは因縁があった気配もする。このままでは炎上するぞ】

【だからと言ってチートや不正行為等の理由がないマッチングは止められない】

【何が始まるのか――】

【それは、我々にもわからない。見定めるしか、方法はないだろう】

 実況スレとは別のスレでは、このようなやり取りがあったらしい。

まとめサイト恒例の虚構記事やフェイクニュースと呼ばれる物の類かどうかは――分からないが。



 ランスロットの一言はメタ的な意味でも周囲に衝撃を与えていた。

目の前にいるアルテミシアが偽物だと言うのである。しかも、その正体は――。

そうなると、目の前のアルテミシアを倒してもステージクリアにならないのでは――という動揺が一部プレイヤーにあった。

『ゲームがクリアできなくなるわけではない。目の前のアルテミシアは――運営側が設定したアルテミシアとは違うと言う意味だ』

(それって――目の前のアルテミシアはプレイヤーと言う事なの?)

 ランスロットの一言を聞き、アルストロメリアは疑問を持つ。

目の前のアルテミシアと名乗る偽物は、アバターではなくプレイヤーだと言うのか?

仮にそうだった場合――不正プレイ扱いで強制ログアウトもありえるだろう。つまり、このマッチング自体が無効とされることだ。

『この私を倒すだと? なめた真似を――?』

 アルテミシアもARメットをしている為か、その顔を見る事は出来ないと言うよりも――変化したのか?

もしくは化けの皮が気付かない内に剥がれたのか――それを周囲の人間は知らない。

「どうやら、貴様の正体も割れたようだな――」

 他のモブプレイヤーの集まっている辺りから声がする。アルストロメリア、シナリオブレイカーとは違う方角を振り向くと――。

目の前にいた人物を見て、誰もが驚く。しかし、その驚き度合いが高かったのは――偽者のアルテミシアではなく、プロゲーマーのアルテミシアである。

「ガングート――」

 ランスロットは右腕の震えを抑えようとしている。目の前の偽者を倒すことは――私情を捨てなければ不可能に等しいだろうか。

倒すと言っても、ボスのライフを0にすれば勝利である。ゲームのルールに従えば――と誰もが思った。

 一番の衝撃とは、偽アルテミシアのライフが非表示になっていたことである。

ボスのライフが見えないのはRPG等ではよくあることだが、アクションゲームでゲージが見えないケースはレアかもしれない。

 しかし、それは近年のARゲームに絞り込んでの話だ。

ロケテスト段階ではゲージも見えていたはずなのに――どういう事なのか?

『本来の無敵アーマーは解除されたようだが、それでもこの無尽蔵の体力を――削りきれるかな?』

 明らかな挑発である。しかし、勝ち目がない訳ではない。自分で無敵アーマーが解除されたと宣言している以上、切り札は失ったも同然だ。

体力ゲージが見えないだけで、無制限と言うのはハッタリであると周囲は考えている。

「そう言う発言をしたプレイヤーがどうなるか――教えてあげようか?」

 シナリオブレイカーはメイン武装のロングソードを構え、その刃を偽アルテミシアに向ける。

彼女には策があるのだろうか――。周囲のモブプレイヤーは若干不安になっている。しかし、アルストロメリアは悲観していなかった。

「あなたは明らかに負けフラグを立てたのよ! それも、とっておきの!」

 アルストロメリアが左手の指をパチンと鳴らして、シールドビットを展開する。それ以外では、右手にビームサーベルを構えた。

それと同時に楽曲が流れ出し、遂にバトルは始まったのである。ある意味でもファンタジートランスの今後を占う最終決戦が――。

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