第12話『もう一つの答え』


 ステージ3へと向かうプレイヤーの中には、シナリオブレイカーもいる。

しかし、ランスロットの様なアイテム回収の様な目的を持っている訳ではない。

何故、彼女は――ファンタジートランスをプレイし続けるのか? その名前通りにファンタジートランスのシナリオを破壊しようと言うのか?

しかし、彼女の真の目的はまとめサイトや炎上勢力が様々なフェイクニュースを配信する為、未だに真相は不明な部分が多いのである。

【残るメンバーも絞られているな】

【それでも100人位はいるだろう。ログアウトしたプレイヤーを入れ替えていくシステムを導入しているからな】

【シナリオブレイカーは、まだ残っているのか。しぶといと言うべきか?】

【プロアスリートでも厳しいと言うレベルのARゲームだ。よほどの体力自慢かもしれないぞ】

【その体力自慢がリタイアしているという話だ。霧島も体力にはそこそこ自身のあるプレイヤーだ。それがリタイヤしている現実を見ろ】

 ネット上のまとめスレをチェックしていたのは、カトレアだった。

現在、タブレット端末でまとめスレを追いつつ、目の前のモニターではプレイヤーの動きを追っている。

普通の人間であれば、両方を追う事は――自身がなければ不可能だろう。せいぜい、動画を再生しつつ別ブラウザ等で実況スレを立ち上げてチェックするのが限界と言うべきか?

彼女は不要な実況を的確にミュートしつつ、プレイヤーの動向を確認しているのだが――どう考えてもブラインドタッチで不要な宣伝つぶやきを弾くのは――。

「カトレア、君は何をしようと言うのか? そこまでゲームバランスにこだわるのには、理由があるのか?」

 拘束された男性スタッフは今頃――ガーディアンの護送車だろう。それ以外の男性スタッフがカトレアの様子にツッコミを入れる。

他のスタッフは、彼の言動を聞いて『よくやった』とか思っているに違いない。

 しかし、カトレアは彼の言動を無視して他のプレイヤーのプレイ動画を真剣な目でチェックしていく。

今の発言すらもネット上における承認欲求を求めるつぶやき、ネット炎上して芸能事務所AとJから英雄と呼ばれたいと言う英雄的な行為を夢見る構ってちゃん的な――。

そうした勢力の発言に対し、カトレアが無意識に察した発言は聞く耳を持っていなかった。それが、カトレアの癖とも言える物になっていたのである。

彼女の癖は『スルー力』の様な物とは違うが、そんな気配すら感じ取れるだろう。

「今はあなた方の様な、利益至上主義や超有名アイドル商法を肯定する発言に構っている暇はありません」

「私の発言が――芸能事務所AとJの様な利益が得られれば他社が倒産してもよいと言う考えの――」

「そう言った炎上レッテルこそ――特定勢力が最も嫌い、新たな火種を作ると分からないのですか?」

「そうか――そこまでして我々を排除したかったのか? ゲーム難易度にケチを付けられた事で!」

 男性スタッフは無視された事に腹を立てており、遂にはビームサーベルを何処からか取り出してカトレアに襲いかかろうと構えている。

しかし、その発言をカトレアは全く無視はしていないが――スタッフの方を振り向く事をしない。

別のスタッフは彼の方を振り向くのだが、それよりも手を動かす方を優先するように指示をされているようだった。

「あなた方は、ゲームプレイヤーが自分の作品を炎上対象にされる事は嫌う癖に――スタッフの意見は無視をするという――矛盾じゃないですか」

 カトレアの発言は正論と言えるのか分からないが、あまり怒りを前に出したような言葉ではないので――逆に向こうは無視されているように聞こえるのだろうか?

そして、男性スタッフは徐々に足音を立てずにカトレアへ接近し――1メートルに到達した時、彼は明らかな失敗をしたのである。

 彼のビームサーベルは、刃が瞬時に消滅した。この状況に男性スタッフは言葉を失う。しかし、周囲のスタッフは彼が失敗したのは知っていた。

「ARゲームは基本的に人の命を奪うデスゲームではない。それはあなたも知っていますよね? 今のビームサーベルが途中で消滅した理由――知らない訳ではないでしょう?」

「馬鹿な? この私がデスゲームを行おうとしていたのか!?」

「そうでなければ、セキュリティが作動しない訳――ないでしょう? 違いますか!?」

「ゲームフィールドが展開されていないのに、勝手に武器が消えるのか?」

 男性スタッフの言う事は一理ある。運営本部内では、ARフィールド発生装置は確かに存在していた。

それに――カトレアの賢者のローブはARアーマーの応用なので、発生装置のない場所では現実化出来ない欠点がある。

それを踏まえて、彼はビームサーベルでカトレアを気絶させようとしたのだ。しかし、作戦は思わぬ所で失敗――と言っても過言ではない。

「ARゲームを純粋に楽しみたい――そう言ったユーザーの為に、オケアノスのARゲームのシステムが生まれた。ソレは知っていますよね」

 カトレアの発言を聞き、男性スタッフの腕は震えていた。つまり、彼はそれに反する行為をしてしまったのである。

「ネット炎上や炎上マーケティング、それに一部勢力によるヘイト創作――そう言った風評被害でオワコン化するコンテンツを救うプロジェクト――それこそが、オケアノスプロジェクトよ」

 熱意的な部分もあって、何時もとカトレアの口調が変化する。しかし、彼女の熱意は本物だった。

一連のネット炎上や炎上マーケティング、それらの副産物の数々――こうした事例を未然に防ぐ目的でオケアノスは生まれたのである。

WEB小説で題材になっているような世界は現実に迫っているだろう。だからこそ、炎上マーケティングは完全駆逐しなくてはいけないのだ。

それこそ、コンテンツ業界の日常を奪う悪意――俗に言う新日常系の始まり。彼らにとっての新日常とは、ネット炎上や炎上マーケティングとの戦いだったのである。

「今は小悪党の様な連中や自慢厨の様や構ってちゃんは無視するに限る――」

 カトレアの目は真剣そのものだが――ドライアイにならないのか周囲は不安を持っているようだ。

しかし、その心配が無用なのように運営本部や様々なエリアのモニターには特殊な液晶が使われているので、24時間見続けるような事がない限りは――目の疲労を抑えられる仕組みである。



 フィールド外では様々な炎上合戦やスタッフによる抵抗などもあるようだが、それはプレイヤーの目に入ったり耳に届く事はない。

あくまでもプレイ後に判明する――と言うのが現実だろう。ゲーム実況等でも外からのコメントをチェックしつつ、ゲームをプレイ出来るような物だから。

コメントを読んでくれるソフト等を導入すれば、ある程度は負担も緩和できるが――ARゲームではそう言ったシステムの実装はチートと認識されかねない。

「外の様子は――無理かな」

 アルストロメリアは外の様子も気になっている。午後4時とか5時になったら退去させられる訳ではなく――単純に時間の経過を知るためだ。

ARゲームは身体への負荷やスーツの装着等を考慮して、基本的に中学生以上からと決められている機種と、18歳以上と設定されている機種、それこそ年齢制限がない機種もある。

ファンタジートランスは、どちらかと言うと高校生以上と言う事で、他の機種とは中間に位置しているのかもしれない。

 何とかステージ3の入り口を見つけても、一部はフェイク打ったりす事がある。あっさりとクリアされては面白くない――と言う考えにしては、かなり幼稚だ。

似たようなトラップは別のゲームでも体験済みだが――さすがに呆れてものも言えないだろう。

色々と思う事はあるかもしれないが、まずはステージ3へ到達する事が先だろうか。残るはボスを撃破すれば全面クリアなのだから。

「あれが――」

 苦労の末、アルストロメリアは到達した。ステージ3の――。

『あの時は他の連中に水を差されたが、今度こそ――』

 ラストゲートを目の前にして、行く手を遮ったのは――。ファンタジーで見かけるような黒マントの暗殺者風の人物――。

向こうもステージを残すのみなのだろうが、目的はそれとは違う可能性が非常に高い。

全面クリアすれば賞金が得られる訳ではないのに、どうして――と言う部分もある。

イースポーツでも日本では賞金額が低く、海外へ遠征するしかない事情もあるのだが――それも法律の壁が妨害していると言ってもいいだろう。

ARゲームでは賞金制の大会に関して禁止をしていないが、緩和する方向で調整をしている事が公式から発表されていた。

全ては――賞金なしでも上手くゲーム大会が機能するかどうかにかかっているのかもしれない。

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