第12話『アルストロメリア劇場』


 アルストロメリアの動きは、一般プレイヤーからすれば明らかにおかしいと言うレベル。その一言だけで片付けられる。


 しかし、プロゲーマーやシリーズ体験者等からすれば――彼女の動きはあるパターンにあてはめて説明できるらしい。


『あの動きはそう言う事だろう。こっちにとっては常識すぎる』


 そんな声がギャラリーから聞こえる。周囲は歓声等で沸いている事に対し、その人物は冷静だった。


 観客の一人が後ろを振り向くと、そこにはグレーを基調としたインナースーツ姿の人物がいる。


 ARメットを被っている関係と一部アーマーの影響もあって性別は分からない。ボイスチェンジャーでは男性声だが――。


『長年のプレイ経験が、再プログラミングされ――整理されていく事であの動きになっている』


 この人物が言うには、アルストロメリアが今までプレイしてきたゲームでの経験値が動きにダイレクト反映されているのが理由らしい。


 しかし、ギャラリーの中には疑問に思う人物もいた。疑問を持っているのは未プレイかエアプレイ勢力、だと断定できる。


『プロゲーマーのプレイ動画がヒントになって、上手く整理された動きに昇華させた。ここまでの動作が出来るゲーマーはプロゲーマーでも指折り数える程度だろうな――』


 他にもこの人物が語っていたが、まとめサイト等で書かれている様な事よりはソースもあって信頼できる情報だろう。


 この人物を簡単に信用出来るかと言われると――周囲は疑問を持つ。しかし、しばらくすると姿はなかった。一体、何を伝えたかったのだろうか?


【結局、彼女もプロゲーマーに近い人物か】


【そろそろ、絞り込みでも行うか?】


【そう言うのはプレイが全て終わってからだ。炎上させるような行為でも確認されれば、モラルの問題で選考からは弾くだろう】


【しかし、ARゲームが公式協議にもなっていないのに――先走り過ぎでは?】


【そう言う状況にしたのが、ARゲームのイースポーツ化を加速させる団体だろう】


【プロゲーマー育成と言う意味でオケアノスが存在しているとは限らないのに?】


【オケアノス誕生経緯は色々とあるが、我々に出来る事は限られている】


【ARゲーム運営は何を考えて、今回の炎上事件を放置するのか?】


【犯人捜しだろう? 今までも似たような事例はあったはず】


【こちらが動くのは、次のステージか――】


 ネット上のコミュニティのやり取りがまとめサイトに掲載されたが、これらもスルーされていく宿命にある。


 まとめサイト自体が芸能事務所からお金をもらってマッチポンプを行っている――という記事が拡散されていた事もあって、信用されなくなったのかもしれない。


 SNSでいつの間にかフェイクニュースを拡散し、無関係な会社等を炎上させているのも、まとめサイトの取り上げ方が問題視されている為、と言われていた。

 


 フィールドで展開されていたアルストロメリア劇場とも言える流れは、他のプレイヤーが手を止めてしまう様な物だった。


 それでもゲームその物をサレンダーせずにプレイを続け、何とか彼女に追いつこうとしている人物もいる事は事実である。


「この曲であれば、何度か聞いた事もあるし――」


 彼女の腕は残像が出来るレベルで的確に動き、ターゲットをビームサーベルで当てていく。


 まるで、弾幕のように現れるターゲットも出現位置が分かっているような足取りで動き、次々と当てていくのは、モニターで視聴するギャラリーも言葉を失うレベルだった。


 楽曲の方を注目していたギャラリーも、アルストロメリアには注目をせざるをえなくなるほど――その衝撃度合いは大きい。


「これが――演奏するという事! そして、ゲームをプレイしているという感覚よ」


 彼女の眼は本気だったのに加えて、その動きはプレイ中でも成長していくような気配。


 チートと言う言葉では片付けてはいけないプレイを、彼女は周囲に披露していたのである。これは衝撃を受けないわけがない。


 楽曲としては、リズムが取りにくいようなジャンルではないので、他のプレイヤーも遅れる事はないはずだが――アルストロメリアよりも動きが遅く見える。


 スローモーションになっている訳でもなく、映像処理の関係で動作に遅延が発生している訳でもない。


 これは単純な話、アルストロメリアの動きに他のプレイヤーが追い付いていないのだ。


 曲のスピードが遅延の影響で遅くなっている訳でも、出現するターゲットが処理落ちしている訳でもない。


 曲のスピードが遅くなっていたら、ギャラリーの方が異変に気付くはずだろう。彼らが演奏している2曲目は、コラボ楽曲と言っても差し支えのない物なのだから。


『アレがリアルチートなのか?』


『こっちは目で追うのがやっとなのに――』


『信じられない――このままでは!?』


 このようおな状況が、楽曲演奏終了までの間は続いた。その時間は1分40秒――100秒間である。結論として、アルストロメリアの無双状態だったのは言うまでもないが――。


「やはり、彼女は――」


 カトレアはアルストロメリアのプレイを見て、タブレット端末で何かのニュースを検索し始めた。


 そのニュースには、別のゲームでトップランカーとなった一人の女性の写真が記事に使われている。


【ARパルクールトランス、トップランカーに――】


 その時期を見たカトレアは、改めてアルストロメリアのプレイ動画をチェックし始めた。


 その動きは、明らかに素人の動きではない。ファンタジートランスは初心者なのかもしれないが、他のゲームを経験していれば――あそこまでの的確な動作は不可能である。


 カトレアの動画をチェックする目は――真剣そのものだった。まるで、彼女がトップランカーと関係があるのでは――と。



 ガーディアン側はオケアノスで報告されている様々な問題を整理している。違法ギャンブル、不正ガジェットやチートアプリ、更には権利侵害のデザインをしたガジェット等――。


 ただし、偽の通報もあるので、これらの案件すべてがオケアノスで報告された事例ではない。


「カトレアが何かを隠している可能性があるのでは?」


 ガーディアンの一人が、リーダー格と思われるアバターの人物に報告をする。そのアバターとは、賢者のローブの人物なのだ。つまり、カトレアとは違った賢者モチーフと言うべきか?


『隠していれば、別口のまとめサイト等が煽り記事をアップしてけん制するだろう。今の我々に出来る事はない』


 その口調は完全に落ち着いている。まるで、まとめサイトに踊らされてはコンテンツ市場は一次創作オンリーになる事を知っているような――。


「しかし、こうして報告された事例を見れば――カトレアが何かを行おうとしているのは明らかでしょう」


『経済ニュースでARゲームのイースポーツ化に関する疑問を記事にしていた物があったな――』


「今はイースポーツは関係ないでしょう? あちらは格闘ゲームやFPS、スポーツゲームが種目として選ばれて――」


『ジャンルが一部だけばかりでは、ユーザーが楽しめるとは――ジャンルは多彩であるべきと考える動きも――』


 賢者の人物は何か別の物を視野に入れている気配もある。ガーディアンとしては、ARゲームがイースポーツ化する事に懐疑的な意見さえもあった。


 その中で、噂ではイースポーツ化を阻止しようと様々な荒らしやネット炎上、マッチポンプが行われている噂もあるほどである。


『ARゲームもコンピュータゲームのジャンルに属している以上は、イースポーツ化に関して議論されるのは目に見えているはずだろう?』


「あくまでもARゲームはスポーツカテゴリーでしょう?」


『私としても、揚げ足取りや単純な議論で時間を潰す余裕はない。やるべき事は決まっているのだ』


 賢者の人物は、他のガーディアンを一時的に集めさせる事にした。彼らを集める場所は俗に南口にある駐車場スペースである。


 ガーディアンとしては強硬策ばかりではネット上でも叩かれると判断し、別の作戦であるプランBに移行する事を決定した。


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