第11話『不確定要素の正体』


 結局、5分後にはアルストロメリアも別エリアへと移動し――午後1時50分には本来のボスエリアへと到着した。

時間を気にしなくてはいけない所だが――それよりも、まずはステージ2のボスを倒す方が先決だろう。

このゲーム自体に時間制限は存在しないし、時間切れのゲームオーバーはない。その一方で、プレイヤー側の時間チャージ切れでゲームオーバーになる事はある。

そう言った意味では、クレジットをあまり使いたくないプレイヤーは時間内にクリアしようと急ぐだろう。

「一体、何処に行けば――」

 偽のボスエリアも存在すると言う情報はネット上で拡散しており、その情報に惑わされているプレイヤーも大勢いた。

事前に偽の情報とは気づかずにウィキをチェックし、鵜呑みにした結果だろう。

 現にアルストロメリアが突入したエリアにも――本当にボスエリアなのか戸惑うプレイヤーが数人いる。

リズムゲーム自体、攻略サイトを調べると言っても隠し楽曲の入手方法位で――本格的な攻略を求めていないのかもしれないが。

『ここは本物のエリアなのか?』

『偽者であれば、マッチング表示は出ない。大丈夫だろう』

『このエリアは本当に――?』

 周囲には本当にボスエリアなのか戸惑うプレイヤーが不安そうに周囲を見ていた。

ジャミング等の不正ツールが使われた形跡もなく、それに加えて荒らしプレイヤーもいない。それなのに――彼らは不安を抱く。

その様子を見たアルストロメリアは――ある決断をする事となった。

「ここは本当のボスエリアよ! システムがハッキングされていれば強制終了されるけど、そのような事は起こっていない――」

 周囲のプレイヤーに対し、動揺するのをやめるように呼び掛けたのである。

これによってネット炎上等の展開になるのを防ぐ――と言う意味合いもあるようだ。

『確かに――マップにノイズもないし、運営からのメッセージもないようだ』

『ありがとう。色々と起こり過ぎて、気が動転していたようだ』

 一部のプレイヤーは何も言わずに別エリアへ進むのだが、中にはお礼を言ったり、一礼をしてから去っていくプレイヤーもいる。

余計な御世話と思うプレイヤーがいる事は事実の一方で――彼女は不安要素を出来る限り取り除きたい。

迂闊なフラグが、ネット炎上のきっかけになる事もあるからなのだが――その考えは的中する事になる。

【何て事だ】

【我々の目的は――】

【これではスケジュールに狂いが生じる】

【覇権を握るコンテンツは、芸能事務所AとJのみで充分。他の存在は――】

 こうしたコメントと言うよりもネット炎上を目的としたコミュニティが次々と閉鎖されていったのだが、これを実行したのは違う勢力らしい。

噂によると特定思想を持ったネットガーディアンらしいが――真相は定かではないようだ。

「やはりというべきか――この流れが起きるのも」

 コンテンツを発表した以上、こうした炎上が起きるのは仕方がないのか? カトレアはネット上のスレの一つを見てふと思った。

ファンの不満が炎上と言う形になるとは限らず、まとめサイトや広告会社等が誘導すると言う話もある。

それに加えて、芸能事務所AとJによるライバル潰し――それがこの世界におけるネット炎上の仕組みだろう。

「これと同じような問題はWEB小説にもあったが――」

 カトレアは――こうしたネット炎上が起きないようなコンテンツを作ること――それを目指してARゲームの開発を続けていた。

しかし、その結果は自分でネット炎上が起きる典型ケースを生み出してしまった事だったのである。

一体、何が原因だったのか? それを探るよりも、今やるべきは――。



 同刻、様々なランカーがハイスコアを叩き出し、センターモニターで視聴しているギャラリーを盛り上げる。

アルストロメリアを初めとしたネームドプレイヤーで大きな動きもない為か、退屈になっていたギャラリーにとっては朗報だろうか。

『他のプレイヤーに視点を集中させて、向こうは密かに隠すつもりか?』

 賢者ローブのガーディアンは、この様子を見て――何かの違和感を感じる。

やはり、カトレアを放置するべきではなかったのか?

『しかし、下手に真実を流したとして――彼らは信じるのだろうか』

 ARゲーム、オケアノス、コンテンツ流通――表向きは成功しているような気配を見せているが、実際に成功事例だけがピックアップされる訳ではない。

ネット炎上を初めとして――マイナス要素もピックアップされ、まとめサイトがアフィリエイト利益を上げる為に真実を捻じ曲げて情報を拡散させていく。

だからこそ、ガーディアンを初めとした勢力はオケアノスのやり方では手ぬるいと考えたのだろう。それが、今回の行動にも表れている。

「これは――!?」

 運営スタッフも、この状況は既に把握している。それを踏まえて、別の部署が様々な動きをしているのだが――。

こうした動きが目立つ事は、まずないだろう。ARゲームの場合はこうした動きを公開しない動きが多い。手品のトリックを公開するような物だ――という意見が多い為である。



 午後2時、アルストロメリアはステージ2のボスバトルに挑む事になった。

他のプレイヤーは落ち着きを取り戻し、プレイ中に動けなくなるような事はないだろうか?

フィールドの広さはステージによって異なると思ったが、ステージ1と同じだったので――そこは問題ないのかもしれない。

出現したボスは1体だけのようだ。形は――2足歩行戦車と言うような形状をしているが、何か狙いがあるのか?

世界観がファンタジーというファントランスとしては、明らかにカテゴリーエラーと言えなくもない。

 リズムゲームでは特定のメインテーマを持っている作品でも、前作の楽曲などを収録していると――こうした症状は良く目撃するものだ。

この場合であればファンタジー系の世界観で楽曲もそれに合わせた曲がある一方で、前作からの収録曲では違う世界観の物もある。

稀に諸事情で楽曲削除になるケースもあるのだが、そうしたケースが多いのは版権曲を削除する場合のみ。オリジナル曲では、よほどの事がないと――問題はないだろう。

しかし、必ず残留する訳ではなく――突然の楽曲が消える場合もあるかもしれない。

「あり得ない――!? どうして、アレが――」

 その形状は明らかに見覚えのある物だったと言う事もあり、腕が震えていた。むしろ、これを出せた事にはコメントをしがたい何かを感じる。

前作の敵と言う訳でもなく、だからと言って他社コラボで登場した敵と言う訳でもない。

【まさか――あのゲームか?】

【あり得ないにも程がある。どうして、アレを出せた?】

【リズムゲームで、あのメカを見るとは――想定外だ】

【一体、どういう魔法を使ったのか?】

【サプライズと言う領域を超えているだろう】

【これを出してきたという事は、もしかして――】

 ネット上では、この敵に関してアルストロメリアと同じ印象を持った人物もいたらしい。

更に言えば、権利的な部分ではなく別の意味でクリア出来ないと考えている人物も――いたようだ。

『これは無理だろう』

『リズムゲームなのか? あの敵が出てくるゲームはTPSのはずでは――?』

『しかし、ゲームが違ってもアレを倒せると思うと――』

 プレイヤー側の意見はバラバラだった。アレが出てきた事に恐怖する者、ジャンルは違えど倒すチャンスが与えられたと喜ぶ者――様々である。

アルストロメリアに関しては、どちらかと言うと――権利的ではなく、このゲームを作ったスタッフがリズムゲームに難色を示していた事が――という部分だ。

これがクリアできなければ、おそらくは出せなかったシロモノである。

「挑むしかないのであれば――撃破するまで!」

 アルストロメリアは覚悟を決めた。これを撃破しなければ、ステージ3へ進む事は出来ないのである。

ボスバトルがシャッフルで決められ、相手もランダムと言うのであれば――他プレイヤーの引きが良かったのか悪かったのかまでは判断が難しい。

あのボスが出てきた以上、楽曲は間違いなく――アレで来ると思う。むしろ、そうでなければ――矛盾が生じる。

「ミッション――開始よ!」

 アルストロメリアは通常使用しているブレードに謎のチューブがあった事に気付き、それを背中のバックパックに差し込む。

そして、チューブが光り出したと同時に――アルストロメリアにも不可思議と言える現象が起ころうとしている。



 同刻、既に別のプレイヤーがステージ2を突破していく。

その中で登場したボスの形状は、日本の神話に出てきそうなカラクリモチーフの鬼――戦闘機と鳥が融合したような魔獣と言った物である。

アルストロメリアが目撃したような二足歩行戦車は目撃例がない。一体、どういう事なのか?

「あのユニットは――まさか?」

 カトレアはモニターで、例のユニットが実装されていたのを知った。

これは不正ツールを使ったからではない。実装自体は予定されていた物だが――いわゆるフライングで出現させてしまったのである。

その理由は分からないが――おそらくはチートプレイヤーを発見する際の手順か何かで、間違って触ってはいけないプログラムを起動させてしまったのかもしれない。

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