第11話『オケアノスの動き、新たな刺客の出現』


 どれ位の時間が経過したのかは不明だが、時計アプリでは午後1時30分の表示――あれだけの事があったのにあっという間である。

しかし、昼飯を食べているような暇もないと言うよりも――ゲームフィールドで食事は取れないだろう。

 周囲のフィールドは時間感覚が狂う様なファンタジー系の城を連想する光景と言うのも――原因かもしれないが。

『午後1時を過ぎていたのか――』

 それこそ、手間がかかるのだがログアウトの必要性があった。セーブをしてそのステージから再開できるものであれば、そうしたい。

しかし、このゲームではセーブポイントと言う概念は存在しないのである。

トイレや避難訓練などと言ったような非常時限定で、緊急中断はあるのだが――食事と言う理由では無理だった。

『あと1ステージ――』

 既にステージ3へ突入していたランスロットは、既にクリア候補と言っても過言ではない。

しかし、優先すべきはアイテム収集なので――ボスは後回しにしている可能性が高いだろう。

『どちらにしても、ラスボスは目の前――アイテム回収が先に――?』

 次のアイテム回収を考えていた中で、ランスロットのARバイザーにあと5分のタイムリミット表示が出る。

しかし、ランスロットは自動的にタイムチャージされるようにしており――その点は問題ないのかもしれない。

さすがに自動引き落としは不可能なので、ワンクッション置かなければタイムチャージはされないようだ。

色々とゲーム中毒者などを出さないように配慮しているのが、裏目に出ているのは――誰もが思う箇所だろう。

『どちらにしても、完全クリアをして他のメンバーもまとめてログアウトされる訳ではないが――』

 ランスロットが懸念していた事、それは自分が先にクリアすれば他のプレイヤーも強制終了される可能性だった。

WEB小説のVRMMO物だと、そう言ったケースが存在するのだが――これはARゲームである。あり得ない話ではないのだが――。



 同時刻、通行人が数十人規模で通過していく場所に置かれたギャラリー用センターモニターでは、ランスロットの映像が映し出されていた。

それを見た通行人の何人かは足を止めているが、数十秒位チェックして通過してしまうのが大半である。

「あれがランスロットか――」

 足を止めた法被の男性は――どう考えてもネット炎上勢力としてレッテルを貼られている超有名アイドルファンだろう。

周囲のギャラリーが彼を見てネットで晒し上げをしようとスマホをかざすのだが、その内の一人は――。

「どういう事だ?」

 スマホを操作して写真を撮ろうとした一人は、突如としてスマホの撮影アプリが使えなくなった事に違和感を感じる。

妨害電波の類が出ている訳でもないのに、どういう事なのか? 周囲の写真を撮ろうとしていた人物のスマホも同じような症状でアプリが使えない。

「申し訳ないが、オケアノスのエリア内で盗撮の類はご遠慮願いたい。それに――君たちのやろうとしているのは、どちらかと言うと犯罪だ」

 彼らの前に姿を見せたのは、ガーディアンのメンバーだった。彼らは別の事件を調査する為にオケアノスへ潜入していたのである。

しかし、目の前で起こった事件がガーディアンの対象である案件である以上は――放置できないのが現実だ。



 午後1時35分、フードコートで落ち着いた表情でラーメンをすすっている女性がいる。

ラーメンと言っても普通の醤油ラーメンであり、特に特徴的な個所はない。激辛とかであれば、スープの色で判別できるはずだ。

入っている具材ももやし、メンマ、なると位だろう。値段は350円とお手軽だが、実はトッピングが自由なラーメンらしい。

一緒に餃子とミニチャーハンも頼んでいるので――彼女は遅い昼食を取っているのだろう。

 他にも何人かのスタッフが入れ替わりでお昼を食べている光景も見られるが、ここはスタッフ専用ではない。

このエリアのフードコートは、観光客を含めた一般にも開放されていた。この他にも一般に開放されているエリアも存在し、単純なARゲームフィールドではないと言う証拠と言えるだろう。

「全ステージクリアするのは問題ないが――タイムアタックとは違う」

 ランスロットの映像を運営本部とは別の場所で見ていたのは、賢者姿のカトレアである。

フードコートに置かれているセンターモニターでランスロットのプレイを――彼女は見ていたと言ってもいい。

「ゲームである以上、クリア不能はあってはならない。だからと言って難易度を難しくするのも――理想の難易度ではないだろう」

 プレイヤーの意見も重要だが、ARゲームはアイテム課金制のソシャゲとは全く違う。

ビジネスと言う個所で成立させる為に、アーケードゲームの様なクレジット制を採用していた。その意味は、他のプレイヤーも分かっているはず。

「こちらも、赤字を出す訳にはいかない事情がある――」

 ARゲームで重要な事を、冷静に――さらりと言ってのけてしまう。それが、カトレアと言う人物なのだろうか?

彼女はゲーム開発者ではあるが、あくまでもビジネスを優先しているような――。しかし、真相はすぐに見破れるものではないと思われる。

それでも、ビジネスを優先してプレイヤーの意見を無視しては本末転倒だろう。そのさじ加減を彼女は分かっていた。

「我々もオケアノスと言うフィールドを維持する為に、色々とアイディアを出しているのだ」

 カトレアは――運営とは別に思う所があった。運営側は儲かれば何をしてもよいと言う事は行わない。

それをやっては芸能事務所AとJがやっている炎上マーケティングやリアルウォーと過去に言われていたネット炎上事件の二の舞だ。

だからこそ――彼らは別の手段でARゲームを広めようと考えており、それがオケアノスにおけるイースポーツプロジェクトだったのである。

後に『オケアノスオブイースポーツ』と呼ばれる長期プロジェクトは――ここから始まったのかもしれない。



 アルストロメリアは何とかボスエリアのゲート前に到着するが、今度は扉が開いている。

どうやら――既にボスは倒されたのか、それとも――?

「誰もいない――?」

 アルストロメリアが周囲を見回すと、フィールドの形成が不安定にも見えた。一体、ファンタジートランスで何が起きているのか?

周囲は先ほどのフィールドよりも広いように見えるが、半径30メートル前後――といった具合である。

5メートル位、走って突入したと同時に――何者かがCG演出で出現した。文字通り、出現と言った方が正しいような演出で。

その姿は、明らかにファンタジーと言う世界観とは――明らかに場違いな物なのは間違いないだろう。

『ここで待ち伏せすれば、奴が来ると思っていたが――違ったか』

『ヴァーチャルアイドルとか――芸能事務所AとJはアフィリエイト系まとめサイトすら利用して、世界を混乱させようと言うのか?』

『我々は違う。まとめサイトを全て掌握する芸能事務所AとJの悪しき野望は――打ち砕く』

 目の前に現れた赤、青、黒と言うカラーリングの三体のアバターは、明らかにファンタジートランス由来のアーマーを装備していないのである。

それに加えて、そのデザインは何処かの動画投稿サイトに出ていた動画投稿者を思わせる――意匠を持つ。

おそらくは、バーチャル動画投稿者と言うジャンルをモチーフとしたアバターかもしれない。

何故、アルストロメリアは即答でアバターと思ったのには――CG演出での出現と言う最大のポイントがあった。

この演出は前作のプレイでも目撃した演出であり、これでアバターが登場するのも様式美と思っていた箇所がある。

 しかし、このアバターは何者なのか? 仮にボスだとしても、リズムゲームにストーリーと言う概念があったのか分からないだろう。

一部の作品には深いストーリーが設定された作品もあるし、イベントでストーリーが語られるゲームも存在する。

「芸能事務所? 一体、何の冗談を――」

 アルストロメリアは、この状況を呑み込めない。何故、自分がネット炎上の元凶にされなくてはいけないのか――。

アフィリエイト系まとめサイトを巡るネット炎上は、今までも様々なWEB小説で書かれているだけのフィクションではないか?

それに加えて、まとめサイトやゲーム迷惑系サイト、更にはSNSテロといった具合に――。

一連のネット炎上は、まるでポストアポカリプスのテンプレなのでは――とWEB小説で言われるパターンでもある。



 明らかにネット炎上やマッチポンプ、コンテンツ流通、炎上マーケティング、超有名アイドル商法――そうした話題に触れたWEB小説やナマモノ小説を題材にするとは思えない。

つまり――あのアバターは第三者による刺客と考えるのが理想的なのか? どちらにしても、アルストロメリアが状況を飲みこむには色々とあり過ぎて――。

『我々もプレイヤーだ。貴様のプレイを見ていれば、プロゲーマーかぶれのプレイヤーだと言うのはすぐに分かる』

「プレイヤー? ファンタジートランスは、あくまでもマッチング以外の要素はソロプレイではないの?」

『ボスバトルの段階で気付かなかったのか? このゲームが最初から多人数プレイ前提のFPSやMMORPGベースだと言う事を』

「やっぱり、あの時のバトルは――」

 三体のアバターの内、赤のアバターは怪盗をモチーフにしたアーマーを装着しているのだが――。その人物の声は男性だと分かった。

しかし、素顔はARバイザーで隠れていて正体不明なのは間違いない。

『こちらとしては、芸能事務所AとJに破向かうコンテンツを片づければ――』

 問答無用で赤のアバターが何もない空間から50センチほどの長さのショートソードを展開し、それを右手に持って振り下ろそうと考えていたのだろう。

しかし、彼の台詞が全て終わる前に何者かの攻撃が――ショートソードを弾き飛ばして生成されたと思ったと同時に消滅した。

突如として現れた人物の姿には――アルストロメリアにも若干覚えがある。

『シナリオブレイカーだと!?』

『どういう事だ? このフィールドはジャミングされていたのでは――』

 青と黒のアバターも唐突な人物が出現した事には驚いていた。自分達の背後ではなく、唐突に三人とアルストロメリアの中間と言う位置に――。

極めつけて言えば、シナリオブレイカーの出現方法も三体のアバター同様にCG演出である。

(ジャミング? ARゲームでジャミングが起きれば、ゲームその物の進行に不具合があるのは明白なのに――)

 テレポートと言う類がARゲームにあるかどうかは不明だが、ご都合主義にも程があった。

ジャミングの類が起きたとした場合、ゲームの進行が強制中断されるジャンルも存在している。

一体、シナリオブレイカーはどうやってここまで駆けつけたのか? 単純にバイザーに表示出来なかっただけなのか?

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