第10話『トゥルーへの答えを探して』その2


 残りは20秒を切り、そこでアルストロメリアは――弾けた。その動作は、アガートラームが想定していた物とはケタ違いだった。理論値を取った時のプレイとは、全くの別人と周囲のプレイヤーは恐れている。


【俺TUEEEEや知識チート何て目じゃない。アレは何だ――】


【常軌を逸している。あれがリズムゲームのプレイヤーなのか?】


【先ほどまでの人物とは思えない】


【一体、何が起きたのか?】


【何だこれは、どう説明しろと言うのか――】


 実況スレも祭りになる程の芸当を、アルストロメリアはわずか数秒のプレイで見せたのは間違いない。


 単純に言えば、ターゲットをジャストタイミングでヒットさせた事――。しかし、それはリズムゲームを知らない人間に説明する為の物だろう。


【あの発狂譜面をジャストタイミングで的確に――信じられない】


【譜面レベルは7とか8辺りだろう? それで発狂という単語を使う事がおかしいだろう】


【しかし、ボス楽曲のレベルはゲーム中では非公開だ。楽曲を解禁して入手して初めて分かるものだぞ】


【ジャストタイミングでヒットさせる事自体、難しい事ではないだろう。彼女の場合は、既に理論値クリアをやっているのだから】


【前半が判定も微妙でスコアが伸びていないプレイヤーが、後半で覚醒するのか?】


【スロースターターだったのでは?】


【それは別スレでも言及されている。しかし、彼女はそう言う傾向のプレイヤーではなかったはず】


【アルストロメリアは初プレイなのでは?】


【厳密には違うだろう。前作にも似た名前のプレイヤーはいたはずだ。ライバル登録も――?】


 実況スレでは、あるプレイヤーの発言が話題となっていた。それはアルストロメリアがファンタジートランスは初プレイだが、前作をプレイしている可能性があると言う事である。


 そして、それは――。


「やはり――そう言う事か」


 運営本部で様々な変化を調べていたカトレアは、やはりというか、ある事実に辿り着いた。アルストロメリアのプレイは初見プレイに見えるかもしれないが、実際には前作に該当するARリズムゲームをプレイしている事である。



 演奏終了後、最終的に今回のプレイで残ったのはアルストロメリアとアガートラームだけ。残りプレイヤーは演奏失敗で終わっている。


 しかし、それ以外にもチート疑惑で強制ログアウトを食らっているのは、言うまでもないだろう。


「アルストロメリアァ! 貴女がファンタジートランスで、理論値をあっさりと出せたのか――」


 アガートラームが、突如として自分の方を振り向いて叫ぶ。その感情は煽りのような――と察する事が出来るだろう。


 先ほどまで閉じられていたゲートも開いており、そこから姿を見せたのは、何とビスマルクである。どうやら、隣のボスフィールドでプレイしていたらしい。


「何故に、エラーメッセージで強制ログアウトをされたのか! 何故にガジェットを変更しただけで動きが劇的にパワーアップ出来たのか!」


 アガートラームの語りを聞き、ビスマルクも何か思い当たる節を感じていた。エラーメッセージはプレイヤー個人にのみ表示される物で、第3者が見られる物ではない。


 強制ログアウト絡みは尚更であり、その内容は個人情報に当たる場合だってあるのだ。それを、アガートラームが知っているのは――?


(それ以上は――!)


 アルストロメリアは何かに気付き始め、アガートラームを止めようとするのだが、ブレード型のARウェポンは作動をしなかった。


 おそらくは演奏が終了した事で現在は、一種の演奏パートではない為にロックされているのかもしれない。


「その答えは――こういう事だ!」


 アガートラームがARガジェットに登録された自分のライバルデータを、アルストロメリアに見せる。


 そして、若干遠目ではあるものの、ビスマルクにもその状況は理解出来た。


(ライバルデータ――そう言う事だったのか)


 ビスマルクは、改めてライバルデータの確認をする。そして、その名前は確かに存在しているのを自分も確認した。


 アルストロメリアはチート能力のように圧倒的な力で無双していたのではない。彼女は前作に該当するトランスシリーズをプレイ済の継続プレイヤーだったのである。


 そうであれば、彼女のプレイも実は前作経験者である事も納得できるのに加えて、ログイン出来なかった理由も把握出来るだろう。



 しかし、その直後にアガートラームは――背後に何かが迫っている事を気付かなかった。


 ビスマルクとは逆の位置にいるので、ビスマルクが背後へ先回りして攻撃できるはずなどない。


『お前は喋り過ぎた――そう言うプレイヤーがネットを炎上させ、超有名アイドル成り上がりの様なシナリオを組み立てる――』


 アガートラームを瞬時にして沈黙させたのは、シナリオブレイカーだった。彼女としては、他所の炎上案件をARゲームへ持ち込まれるのが嫌だったのだろう。


 シナリオブレイカーが唐突に姿を見せた事にもビスマルクは理解できなかったが、彼女が文字通りの意味を持つプレイヤーであれば――。


『アルストロメリア、一つだけ言っておこう。ファンタジートランスは今までのリズムゲームとは根本的に違う要素を持つ。それに振り回されれば――』


「根本的? 既にARゲームである段階とFPS要素の地点で――」


『そう言う訳ではない。ARゲームでリズムゲーム要素を加えたゲームが多いのは日常茶飯事――いや、既に市民権を得ているか』


「市民権? ARゲームは、そこまで認知されていると言うの?」


『私が言いたいのは、そこではない。イースポーツだ』


「イースポーツ?」


 アルストロメリアは、まさかと思いつつ――シナリオブレイカーに答えを求めようとするが、彼女が答えるとも思えない。


 しかし、あえて彼女はヒントを与えるよりも具体的な答えを言った方が早いと判断し、質問の答えを言う事にした。


『ARゲームは、イースポーツとして広めようと動いている。既に一部のゲームはイースポーツを前提とした展開もされている所だ』


「イースポーツって確か――」


『五輪競技にも採用される可能性があり、更には今後発展するであろうスポーツだ』


「コンピュータゲームがイースポーツ?」


『馬鹿な事を――と言うだろう? しかし、その時代は近づいているのだ。我々は――ゲームに対する認識を買えないといけないのだ』


 言いたい事だけを言って、シナリオブレイカーは次のステージへと進む。話を聞いていたビスマルクも別のステージへと向かった後だった。


 しかし、アルストロメリアは、迷いを持ちつつも次のステージへと進むしかなかった。覚悟が必要とは――そう言う事だったのか?


「イースポーツ――」


 アルストロメリアは様々な疑問、新たな伏線となるような物を目撃した様な気がした。そして、次のステージへと進む。全ては、イースポーツを広めようと言う運営サイドの思惑とも気付かずに。

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