第8話『エンカウント』その3

###第8話:エンカウントその3



 アルストロメリアが立ち止った扉は、単純に開かない――と言う訳ではないようである。

この扉自体がフェイクと言う可能性もあるかもしれないが、仮にフェイクであればARバイザーの矢印表示は別の方角を指すのが普通だ。

しかし、扉の前に立っているのに――ARガジェットに反応はない。電源を切った訳でもないし、周囲に電波障害が発生しているというのも違う。

 彼女は周囲を見回すのだが、そこに人影らしきものはない。それに加えて、誰ガが見ているような気配も見当たらなかった。

半径50メートル位は周囲に誰かがいればARガジェットに反応があるだろう。あくまで、そう言った反応はFPS等のジャンルに限られるだろうが。

扉の先に何があるのかは知らない。しかし、ここが目的地なのは間違いのない事実――。

そして、5分が経過した辺りで扉の方に動きがあったのである。扉が開くのではなく、ARバイザーにメッセージが表示された。

《このステージはボスエリアに該当します。楽曲の選択はできません》

 どうやら、ボスバトルでの楽曲は固定になるようだ。

そして、それは最初に入ったプレイヤーのバトルが終わるまでは扉が開かない――と言う事のようである。

「無料プレイのリミットは――」

 アルストロメリアが気にしていたのは、無料プレイの時間だった。

しかし、残り時間を見て時間が増えたのか――と錯覚している。残り時間は15分とあったのだ。

「確か20分と言う話もあったような――」

 20分と言うのは別店舗における設定であり、ここの設定ではなかったらしい。

客足的な意味でプレイ時間を短くしてローテーションを回すARフィールドもあるが、ここは違うようだ。さすが大型施設と言うべきか。

「基本設定は30分?」

 アルストロメリアは改めて画面のチェックをすると、残り時間のカウンターに関してチェック間違いをしていた事が――原因の一つだったらしい。

ヘルプを見ておけば完璧だったが、その時間もない事が――。



 その頃、アルストロメリアの目的地である扉の先には――別のプレイヤーが複数人単位でボスと思わしき存在と戦っていた。

その形状は、神話でも言われているような鎧の化け物と言うべきなのか? 籠手、足アーマー、盾、剣、鎧、兜で独立して行動するタイプと言うべきなのだろう。

プレイヤーは6人いるので、それぞれのパーツが各プレイヤーを相手にしている形だろう。しかし――圧倒的な劣勢なのは間違いない。

【こればかりは――運要素も絡むな。ソロプレイならば話は別だが】

【マッチングに運要素を絡めるのは勘弁して欲しいな】

【無課金プレイヤーが廃課金プレイヤーと当たるような絶望的状況は、こちらではないだろう? ソレと比べるのも酷な話だ】

【リズムゲームにアクションゲーム要素を入れて、更にはパーティープレイ要素も加えるのか?】

【合体事故にも程があるだろう。何故、このようなジャンルがARゲームで受け入れられているのか分からない】

【ソレと同じ事を、VRゲームや他のジャンルでも言えるのか?】

【コメントを荒らして炎上を考えるような勢力は、大抵がアフィリエイト系のまとめサイトを運営している。下手な発言は命取りだ】

【ARゲームが炎上すれば、今度は超有名アイドル等の勢力が無双するのを許す事になる。それが起きれば、リアルウォーは待ったなしだ】

 ボスバトルをそっちのけで実況コメントが荒れ始める。こうしたコメントはNGコメントとして非表示に出来るが、それは個別の話だ。

センターモニターで表示される中継映像の場合、一括でコメント非表示にするかコメントをオープンするかのどちらかしかできない。

「結局は、どの世界でも――どの可能性でも悲劇は繰り返されるのか」

 草加駅近くのコンビニ前に設置されたセンターモニター、それを見ていたのはカトレアとは違った賢者のローブと言う人物である。

この人物は男性だが、彼の周囲にいる同じような人物の中には女性もいた。どうやら、ガーディアン組織の一つらしいが。

「我々は、このゲームに介入するべきなのでしょうか?」

「ソレはやめておこう。リズムゲームは、我々の管轄外だ――」

 別のガーディアンと思われる男性がリーダーと思わしき人物に質問するが、彼の回答は介入不要とも言える物だった。

彼が介入しない理由は、管轄外のジャンルと言うのもあるが――単純に便乗してネットを炎上させると、それこそ芸能事務所の思う壺と言う事らしい。

「我々が介入しなくても、このゲームには既にエントリーしている」

 リーダーと思われる男性は、現在のサーバーにエントリーしているプレイヤーのリストを見て何かを察した。

そこにはアガートラームの名前が載っていたのである。彼らはアガートラームに因縁がある訳でもないが、ネット上の都市伝説は知っていた。

「それに、我々には別の目的がある。そちらを他の勢力に気付かれないように達成するのが、当面の目標だ」

 リーダーは、別の作戦を実行するのにファンタジートランスへの介入は――余計な時間を使うと考えていた。

それに、他の勢力に自分達の作戦を拡散するのも――得策ではない。そう言った部分を踏まえ、彼らはファンタジートランスへの非干渉を決めたのである。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます