#2

 カサッ

今日もあの音が聞こえた。町野はもう視線を上げることが無かった。彼にとって、本をめくる音以外は雑音に過ぎない。

その雑音が今、あって当たり前の音になりかけていた。


 「……」

無言で差し出された本を前に、町野はゆっくりと視線を上げ、本を手に取った。

「……」

町野も何も言わず、本を鈴木に渡した。


 ただ、次の日は違った。


 「……」

いつも通り、無言で本を渡した鈴木が口を開いた。

「まだ借りられる…?」

それに対し町野はやはり視線を上げずに頷いた。


 鈴木が言っているのは、貸し出し期間についてのことだった。毎年夏休みや冬休みに入る前、一斉に本を返すという簡単な仕組みだ。

町野は驚かなかった。鈴木も驚かなかった。その珍しい会話は、誰にも注目されることなく終わったのだ。




 カサッ


 またあの音が聞こえたものの、やはり町野は本から顔を上げなかった。

彼に取って気がかり、と言うより心につっかえる邪魔な存在となっているのは、鈴木が返却期間に入ったことを知っているかどうかだった。

彼はもやもやしているのが嫌だった。しかし、口を開くことは無かった。

担任の先生が伝えているだろう、という可能性に賭けたのだ。


 鈴木は本棚に歩みより、ゆっくりと本を手に取った。

側にある椅子に座り、本を開いた。


 やがてチャイムが鳴ると、鈴木は本に付いている紐を挟んで、本棚へ戻した。鈴木は返却期間に入ったことを知っていたのだ。


 しかし彼にとって安心感など無かった。そんなことどうでも良かったのだ。

まず今日一日、鈴木の姿さえ見ていない。視界に入れていない。

断じて興味が無いのだ。


 

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