91.カウントダウン




 その手紙は、いつの間にかポストに入っていた。



『あと3日』



 印刷された字で、たったそれだけしか書かれていない。

 いたずらかと思って、私はその手紙を捨てた。





 次の日、ポストを確認すると見覚えのある紙が。


「またなの?誰のいたずらかしら。」


 私は紙を人差し指でつまみながら、それを広げた。



『あと2日』



 昨日よりも減った数字。

 少しそれに嫌な感じはしたが、私はそれをまた捨てた。





「それで。本当に大丈夫なの?いたずらにしても怖くない?」


「そう?別に怖くないよ。それにカウントダウンしているって事は、終わりがあるし。」


 こんな不思議な話は言うしかない。

 そう思って、クラスメイトの紀生に話してみたら心配そうな顔をされた。


 しかし私としては笑い話としてしたつもりなので、その反応に何だか驚いてしまう。


「いやいやいや。それが怖いんじゃない!0になった時にどうなるのか分かんないんだよ?気をつけた方がいいよ!」


「ううーん。そうかな?ま、その時はその時じゃない?」


 なるようになればそれでいい。

 私はそう勝手に自分の中で結論付けて、話を終わりにした。





「おー。しぶといね。」



『あと1日』



 そう書かれた紙を前に、私はため息をつく。

 ここまで執念深いとは思わなかった。


 いたずらにしても、暇な人すぎる。

 これは明日も来るのは確実か。



「さて、どんな顔をしているか拝んでやりますか。」



 ちょうど休みなので、私は迎え撃つことにする。





 そしてついに、問題の日を迎える事になった。

 携帯を画面を開くと、時刻はちょうど0時を示していた。


 手紙を送っている主がいつポストに入れているか分からないが、ずっと待っていればいつかは来るはずだ。

 私は玄関の前に座り込み、いつでも動ける体制に入った。




 それから時計の長い針が、一周をした頃。

 外の廊下を、コツコツと静かに歩く音が聞こえてきた。


 確定かどうか分からないが、こんな時間だ。

 その可能性は高い。



 私は緊張から喉が鳴った。

 足音の主は静かに静かに歩いて、そして私の部屋の前で止まる。



 来た。



 私はそっと玄関の前に近づき、のぞき窓から見る。

 暗い外の向こう側。



「嘘、でしょ。」



 そこで立っていたのは。



「紀生じゃ、無かったの?」



 予想外の人物だった。

 私の声に反応したのか、そいつと目が合う。


 それに驚き、私は後ずさった。



「だ、誰なの。誰よ。」



 口を抑えても、もう遅い。



 ガンッ



 ガンッ



 ガンッ



 扉が大きな音を立ててきしむ。

 私は漏れ出る悲鳴を、飲み込んだ。


 いくらなんでも、ここまで大きな音を立てていたら近所の人が不審に思うのではないか。

 そんな救いを求めてみても、一向に誰も来る気配がない。



 そうしているうちにも、扉と壁の間に隙間があいてくる。

 そこから覗く全く知らない人。


 楽しそうな笑顔に、私は恐怖から動けなくなる。




 ガアンッ!!




 そして扉が開け放たれた。

 ゆっくりと近づいてくる男。


 座って震える私の前にしゃがみ込むと、目線を合わせた。



「ぜーろ。」



 そして顔を掴まれる。

 男の後ろで、誰かが立っているのを見た気がした。

















「ふざけんじゃないわよ。」


 私は用意しておいたカッターを取り出し、目の前の体に突き刺した。



「ぎゃっ!?」



 間抜けな叫び声と共に、掴まれていた手が外される。

 すぐに、床でもがいている男が見えた。


 どうやらナイフはお腹に刺さったようだ。


 これでは起き上がる事も出来ないだろう。




 私は冷めた目でそれを見ながら、立ち上がる。


「あはは。やっぱり紀生だったじゃん。」


 男の後ろで驚いた顔をしているのは、予想通りの顔だった。


「嘘。嘘でしょ。」


「何をそんなに驚いてるの?気をつけた方が良いって、紀生が言ったんじゃない。」


 元々こうするつもりだったが、それは言わなくても別に良いだろう。

 私は男を踏みつけつつ、紀生の前に行く。


 彼女はまるで、恐ろしいものを見るかのような目を向けてくる。

 しかしそんな目をされる意味が分からず、私は疑問に思う。


「きーお?何でこんな事をしたのか知らないけど、覚悟はできているんでしょ?」


「い、いや。」


 怯える彼女の頬に、ナイフをペちペちと当てた。




「ゼロになったら、終わりにしなきゃね。」




 始めたのは紀生なのだから、終わらせる責任も彼女が持つべきだ。







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