87.嘘




 私は嘘をつく事に、全く抵抗が無かった。


 他人を不幸にしない嘘なら、ついても構わない。

 そう思っている。





「ごめん。今日お母さんと出かける予定があって、放課後遊びに行けなくなっちゃった。」


「そっかあ、残念。」


 今日も私は嘘をつく。

 遊びに行くのが面倒になって、それっぽい理由を言った。


 本当の事を言って非難されるより、こういう理由を作った方が人間関係も良好に保てる。



 こんな風に小さな他愛の無い嘘を、私は頻繁についていた。





 だから罰が当たったのか。


「ねえねえ。この前、言っていた事嘘だよね?」


 目の前に立つ、友達やクラスメイト。

 私は今、見知らぬ部屋の柱に括り付けられいた。



 いつもの様に約束が面倒になり、それらしい嘘をついて家に帰っていた。

 録画していたドラマを見ようと、予定を立てながら人通りの少ない道に入った途端、頭の後ろに強い打撃を受けた。



 そして気が付いたら、こんな状況というわけだ。




 何が何だか理解できなくて、私は唯一動かせる頭で見回す。

 部屋の中いっぱいにいる人、人、人。


 その全員が私をじっと見つめている。



「な、何?」


 冷汗が背中を流れる。

 しかし怖がっているのをばれないように、私はあえて強気に聞いた。


「さっきも言ったでしょ。ここにいるみんなはね。あなたに嘘をつかれた人なの。こんなにいるんだよ、すごいね。」



 私の問いに答えて前に出てきたのは、親友だった。

 その手には、たくさんの細い何かが握られている。


 よくよく見てみた。

 そしてすぐに後悔する。



「小さな嘘なら構わないと思ってた?それってつく側が言っていい事なのかな。私達は許せなかったの。だから、」



 全員の手に握られている大量の針。

 それをどうする気なのか。


 じりじりとこちらに近づいてくる。

 私は勢いよく体を動かして抜け出そうとするが、縛ってある縄はびくともしない。




「嘘ついたら針千本。頑張ろうね。」




 最後に私が見たのは親友の笑顔だった。




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